第5話

日曜日。

先週に花と約束をした花火大会への待ち合わせに、花は淡い空色の浴衣でやってきた。花火大会は浴衣で来たら食べ物全て奢ると言ったところ、本当に浴衣で来た。花のお母さんがやってくれたのか、髪もお洒落にセットされている。

「行こうか」

そう声を掛け、人混みの中に視線をやっている花の手首を掴み、引っ張る。驚いてこっちを向いた花に、

「浴衣、似合ってる」

と言うと、花はいつも通り表情を崩さず、「ありがとう」と言った。


突っ立っていれば押し流されてしまいそうな人混みの中、しっかりと花と手を繋ぐ。何も言うことなく、ただ引っ張られている花を人混みを抜けた先にあるベンチに連れていき、ここにいさせる。あの人混みの中に花をいさせたら、必ず流されてしまうので、俺が食べ物を買いに行く。

両手に食べ物を持って戻ろうとベンチを見ると、花が誰かと二人でベンチに座って話をしている。見覚えがある。あの見るからに優しそうなのは、例の高山くん、だ。何で高山くんがここにいるのか、状況が理解できなかったが、偶然会ったのだろうと都合の良い解釈をした。

そのまま近付いていき、真ん中に座る花の左側に座る。持っていたポテトを花に渡し、二本入りのおでんを高山くんにあげる。予想通り遠慮した高山くんに「いいって」と強引に渡し、皆で食べ始めたところで切り出す。

「高山くん……は下の名前はなんて?」

明らかに動揺した高山くんは、「アキトです。秋に生田斗真の斗」と言う。

「うん、俺は宮田 紳。呼び捨てでいいし、敬語はいいよ」

「わかった。おでん、ありがとう」

「いいよ、全然。今日は一人で?」

高山くんは周囲を見渡して、三人組の集団を指さした。

「あのクラスメートたちと。紳は雨宮さんと二人で?」

「うん。俺も花も友達いないしね」

俺が自嘲気味に笑うと、高山くんは気まずそうに苦笑し、花は一人で黙々とポテトを食べている。そのポテトを一本もらうと、花は、

「かき氷食べたいから、買ってくる」

と言ってポテトのカップを俺に渡してくるので、

「いいよ、俺が行く。高山くんはなんかいる?」と聞く。

高山くんは慌てて立ち上がり、

「僕はもう行くよ。連れがいるし」

そう言って花に向き直り、柔らかい笑顔を見せる。

高山くんは花に気があるのだろうという気持ちが、確信に変わった。

花と話すときに高山くんはずっと嬉しそうに笑っている。大人が赤ちゃんでも見るような、愛らしい対象を見る目で花を見ているのだ。花が可愛くて仕方がないというような顔をしている。

「今日はありがとう。少しの間だったけど楽しかった。また、明日」

高山くんは何かを花に渡し、今度は俺に向き直った。相変わらず無垢な笑顔を浮かべている。

「紳もありがとう。楽しかった。今度、奢るから」

そう言って、背を向けて歩いていく高山くん。

背中が見えなくなった頃に俺が花に、

「高山くんは本当に優しいな。あれは花も友達になるわ」

と言うと花は嬉しそうに口元を歪める。

ふとさっき手渡しされていた何かが気になり、聞くと花はわかりやすく表情を変え、目を伏せた。

「知らない」

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