第4話

「雨宮さん、映画のチケットが二枚取れたから、今度いかない?」

 僕は目の前で焼きそばパンに齧りついている雨宮さんに言う。パンを食べながら眠たそうな目で唸った彼女は、小動物のようで愛らしい。

「うん。いつ行くの」

 喜びが胸に広がる。まるで洗濯カゴに一発で服が入ったときのような気分だ。

「土曜日は空いてる? 僕は暇だからいつでも大丈夫」

「ごめん。土日は用事がある」

「わかった、大丈夫。じゃあ、放課後に行く?」

 傷付いていないといえば、嘘になる。

 雨宮さんは両手を合わせ、申し訳なさそうに机に頭をつけた。

「……ごめん」

「いや、全然、大丈夫だよ!」

 そう言って雨宮さんの頭を上げさせ、雰囲気を柔らかくするために聞いた。

「そういえば、幼馴染がいるんだよね。どんな人?」

「本当に尊敬できる人」

 雨宮さんはそう言って、再度焼きそばパンを食べ始め、一人の世界に入ってしまった。このように、いつも昼休みが終わる頃、雨宮さんは一人の世界に没頭してしまう。僕の入る隙間なんかないように感じる。それと同時に、尊敬できる人、という回答に正直、嫉妬してしまっている部分がある。

「僕は、雨宮さんの人格が好きだよ」

 雨宮さんの幼馴染に対抗しようと、つい口から漏れ出る本音に制御を掛けようとするものの、口が勝手に動く。

「穏やかなところとか、本当は優しいところとか、全部」

 難しい顔をしていた雨宮さんが、ふと廊下の方を見て一瞬動揺する。だがすぐにこちらを向いて、

「ありがとう。私も高山くんのこと、好きだよ」

 と言う。続けて、

「行くね。また」

 そう言って、くるりと背を向けて行ってしまった雨宮さんが、廊下で男子生徒と何かを話しながら消えた。

 あれが例の幼馴染だろうか。背が高く、一見冷たそうな人だった。でも端整な顔立ちをしているので、男の自分が言うのも変だが、王子様のような人だった。同じく端整な顔立ちの雨宮さんとはとても良く釣り合うのだろう、そう思った。


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