どうして創作論を語るのかと、小説家が創作論を語らない理由

子供の頃、漫画やライトノベルが好きで、近所にあった古本屋さんで100円の本を大量に買って読んでいた。

そして中学生の頃には自分も小説を書きたいと考えるようになっていた。

でも、そう思ったすぐ後に考えた。


「……で、どうやって?」


とね。

そして調べたら、好きだったレーベルに新人賞なるモノが存在すると知った。

その新人賞に作品を応募して、上位に入れば小説家になれると。

なるほどなるほど。じゃあ小説を書いて編集部に送ればいいんだな?

よしよし!


「それじゃあ小説を書こう!」


でも、そう思ったすぐ後に考えた。


「……で、どうやって?」


とね。

そうして小説の書き方について調べていった。

とりあえず本屋に行き、そういうコーナーに行くと、派手な表紙の小説家入門本が何冊も並んでいた。

それらをパラパラと立ち読みし、一体どんな実績のある有名作家先生が書かれているのかと思って著者のプロフィールを確認していったのだ。

そして首を傾げることになる。

ことごとく、そういった小説入門本の著者に小説家がいなかったのだ。

どんな実績のある作家なのかという次元ではなく小説家がいないという、当時の僕には意味不明すぎて大きく落胆した。

落胆しながらも、そういった本の一冊を買って帰り、家でパラパラと読んでいく。

しかし、よく分からない。

なんというか『文章』の基本的な書き方とか、物語の流れをどんな感じにすればいいかとか、キャラクターをどうすればいいかとか、抽象的な話が書かれてあるのみ。

実際にどうやって話を作っていけばいいのかが分からない。

一番重要な部分をはぐらかされたような気分だった。


それから何度か小説を書いてみようとするものの、上手く書けない。

そもそも小説をどう書けば良いものかが分からない。

そんな日々が何年も続き、ようやく出会ったのが大塚英志先生の『キャラクター小説の作り方』という本。

この当時、魍魎戦記MADARAという漫画が好きで、その原作者だった大塚英志先生からこの本を知り、興味が湧いて読んでみた。

この本はぶっちゃけ大学の小難しい授業の教科書みたいに凄く読みにくいのだけど(実際、大塚先生は授業で使用されてたっぽい)内容的には小説の書き方が体系的に考えて書かれていて物凄く参考になった。

自分にとっては、この本が小説を書くうえで初めて見付けた本当に指針となり得る本で、闇の中を灯りも持たずに彷徨っていた中、ようやく見付けた灯台のような存在。

非常に参考になったのだ。


しかしそんな本であっても、そんな本を読んだぐらいで小説が書けるなら苦労しないというか、世の中の誰でも小説が書けてしまうはずで…

この本を読んだ後に自分で色々とアレヤコレヤとあって小説を書けるようになって今があるのだけど。

はっきり言って、自分がここまで色々と試行錯誤しながらやってきた感想としては、


『小説を書けるようになるための教科書的情報が少なすぎる』


という事です。

勿論、今の時代には沢山の創作本や入門本があって、今は昔に比べると小説家が書く入門本もたまにある。

インターネットでは誰でも様々な情報にアクセス出来ることは出来るし、ネットで創作論について語っている人は多いと思う。

しかし、小説家自身がそういう情報を語る事が少なすぎるのは変わらないと思う。

それに、僕が若い頃に思ったように、作家ではない人が書く創作論(つまり小説家ではない人が主張する小説の書き方)ではやっぱり説得力が弱いのではないかと考える。

勿論、作家でないと正しい創作論が書けないと主張したいわけじゃなく、説得力の話。

昔の僕がそうであったように初心者ではどの理論が正しいのか判断が難しいわけで、だからこそ、その理論の説得力が欲しくなる。

その説得力とはやっぱり、創作論の著者が小説家であるかどうか。

これが一番だと思う。

そして小説家が書く創作論と小説家ではない人が書く創作論では前者の方が正しい可能性は高いはず。これは客観的にも間違いないだろう。

もし、それが良い創作論で良い理論だと言うなら、それを使って結果は出るはずで…

やっぱりそれは創作本の著者によって証明してほしいと思ってしまう。


僕は、もっと早く小説家が書く創作論を読みたかった。


そうすれば、もう少しスムーズに、スマートにここまで来れたと思う。

同じように、小説家による実践的な創作論を読みたいと思っている人は少なくないはず。

なので僕は、昔の僕に向けて、昔の僕が知りたかった創作論をここでちょこちょこと書いている。

それがもし、他の誰かの役に立ったなら嬉しい。

これが正直なところの『小説の書き方について語る理由』だ。


……勿論、これをキッカケに作品の方に興味を持っていただけたら嬉しい的な話とか、僕自身に興味を持っていただいて応援してくれたら嬉しいとか、ページビューを増やしたいとか、そういった打算的な理由がある事も一つの事実。

それに、こうやって人に読んでもらうために自分の理論を纏めていると、新しい発見があったり理論の間違いに気付いたりするので、これを書く事自体に利益がある事も間違いないのだけど。


◆◆◆


と、ここまでつらつらと書いてきたけど。

ぶっちゃけ、数冊しか本を出していない自分が偉そうに小説家を名乗って創作論を語るのはどうかと思う気がしないでもない。

「お前ごときが語るな」と思われるかもしれない。

でも、こういうのは『書ける!』と思った作家が書いておいた方がいいんじゃないかと思うのだ。


というのも、保坂和志先生による『書きあぐねている人のための小説入門 』という本がある。

この本は『小説入門』なんてタイトルにはあるが、そこらの入門本のように書き方のレクチャーなんて一切書かれていない。

というか、著者本人が小説を書くコツはない的な話をこの本の中でされている。

ではこの本にはなにが書かれているのか?

それは、


『保坂先生がどうやってその小説を書いたのか』


についてが書かれているのだ。

その作品を書いたキッカケとか、それを書いている時の心理とか、そのオチになった理由とか、そういうもの。

なのでこの本には『小説の書き方』は書かれていないが、先生の創作過程の様子から『先生がどう小説を書いたのか』が読み取れるので、つまり先生の『小説の書き方』を推察出来るという事。

これが個人的には凄く参考になったので、小説入門本とは言えないけど、ある程度は書けるようになった人には良い話が盛り沢山で、個人的にはオススメの本で。

実際に当時、僕は自分の小説の書き方がこれで正しいのかどうかちょっと迷ってた部分があったのだけど、この本を読んで保坂先生の書き方と近い部分を見付けられ、『あぁ、自分の書き方でも別に間違ってはないのだろうな』と安心したりしたので自信になったし、自分にとってこの本は凄く意味があった。

具体的に言うと、僕はプロットとかは最初に決めるけど、実際に書いてみたその瞬間にはキャラクターがプロットとは外れた動きをするというか、キャラにストーリーを任せてしまうところがあるのだけど、他の小説家の意見を聞いてみると『キャラは勝手には動かない』と断言する小説家もいるから、ちょっと自信がなくなっていた感じで、しかし保坂先生も書いてみないとキャラがどう動くか分からない的な話をしていたので――という話。


話が逸れたので戻すが。

この保坂和志先生の本を読んでいて感じたのは、小説家には2種類のタイプがある、という事。


以前、これでも書いたけど、


【作家が言う『キャラクターが勝手に動く』を説明しながらストーリーの作り方を紐解く】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885207682/episodes/1177354054897873242


簡単に言うと『理論的にガッチリとシナリオを組み上げるタイプ』と『キャラクターにストーリーを任せるタイプ』だ。

前者のタイプは理論的にガッチリとストーリーを組み上げ。後者のタイプはキャラや世界観の設定を考え、後はキャラの動きにストーリーを任せてしまう。

この前者は理論的にストーリーを組み上げるので、自分がどうやってそれを書いたか、そのそれぞれにはっきりした理由がある。キャラの動きの一つ一つに作者の意図があるし、キャラは作者の意図通り動いている。なので恐らく作品の作り方に自分なりの理論があって、それを説明することは可能なはず。

しかし後者の場合、理論的に書いているのではなく、客観的に見るとキャラの動きをトレースしているような形なので、どうしてそう書いたのかの理由がなく説明が難しい。

どうしてそう動いたのかはそのキャラに聞いてくれ的なね。

というのが僕の理論。

なのでこの後者の場合、そもそも理論ではないので創作論を書くのが難しいのではないかと思う。

これが小説家が創作論を書かない一因なのではないかと感じてる。


そして2種類のタイプの小説家、という話をしたけど、なにもキッカリと小説家のタイプが二分されているわけではなくて、多くの作家さんは両者をある程度の割合、持ち合わせているのでは?と思う。

例えば僕とかは、世界観とかはガッツリ決めるしプロットも書く、けどその場その場ではキャラの動きに任せるし、しかしキャラが気に食わない動きをしたらキャラをいじくって変えたりもする。ハイブリッドタイプ。

この上記『後者』の部分の割合が小説家に混ざれば混ざる程、小説の書き方に理論の要素が排除され、感覚の要素になっていくのではないかと。

つまり、創作論を語ろうにも感覚の部分があるので理論として成立させようにも理論としては穴があるように感じるので語れないのでは、と思う。

恐らく、これが小説家が創作論を語らない理由の根底にあるモノなのではないか。

というのが現時点での僕の現時点での意見だ。

(これは自分でも半信半疑というか、あやふやな中で書いているので、そのうち「間違いでした!」となるかもしれないけど)


◆◆◆


保坂和志先生の創作論の本や本当に参考になったのだけど、しかし先生がおっしゃっている、小説の書き方にコツなんてないという話は、僕的には違うと思っている。

自分は小説にはコツも書き方もあると思う。

それに『キャラは勝手に動かない』と断言している作家さんもいたけど、僕はキャラが動くこともあると思っている。

つまり、小説家でも小説の書き方には大きな違いがあり、どれが正解という確実なモノはない気がしている。

なので様々な作家さんが小説についての意見や創作論を語っていくべきだと思うし、そうすれば様々な理論のデータの海から新しいナニカが生まれるのではないか?と思ったりもするので、とりあえずは僕から書いてみよう。

というのが現時点での僕の考えです。

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