ちょっとした小さな1要素で小説が崩壊する恐ろしさ、という話

何年か前、某所で読んだとある異世界ファンタジーを面白いと思っていた。

作品名は伏せるけど、その小説の主人公は才能がゼロで、それを現代知識と努力で補って成り上がる、という話だった。

作中、最初は現代のトレーニング理論やら技術を用い、努力でそれを自分のモノにすることでそれなりに強くなった主人公が、問題を解決して一歩一歩成長して進んでいく展開が続いていて、まさに自分好みの作品だったと思う。

それがある時、才能あるヒロインに主人公の強さの源であり、主人公が長い年月をかけて磨き上げた技を教える展開になった。

ぶっちゃけその展開になった瞬間、一読者としては嫌な予感がしたのだが……。

作中で主人公が長い年月をかけ1000の努力で編み出したモノを天才であるヒロインは1の努力で身につけた。これはそういう世界設定だから仕方がない。

しかしその一つの行動によって主人公の作中でのアドバンテージが崩壊してしまったのだ。


どういうことなのか、というと。

ちょっと詳しい内容は忘れてしまっているので詳細は話せないけど、その作品設定を当時見てた感じ、主人公がヒロインに教えたのは主人公が持つ力の根源的な要素であって、それを人に話してしまって同じことを真似されてしまうと才能がない主人公ではどうあがいてもヒロインに勝てなくなるような内容だったわけです。

物語の展開的には、その先、主人公は新たなる力を手に入れなきゃならなかったのだろうけど、その作品の世界設定を考えた時、僕にはどんなにどれだけ考えても主人公がそこから主人公として持つべき別のアドバンテージを再入手出来るとは思えなかった。だからそういった展開になった時は凄く嫌な予感がしていた。

しかし、作者にはなんらかの思惑があるのだろうと考え、続きを楽しみにしていたと。


で、それからその作品がどうなったのか、というと。

主人公がヒロインに『技』を教えた後すぐ、作品の更新が途絶えてしまった。

要するに『エタった』というヤツです。

恐らくだけど、作者自身でも主人公の新しいアドバンテージを思い付けなかったのだろう、というのが僕の中での見解。


この話は何年経ってもずっと覚えていて。それぐらい自分に衝撃を与えた話なんですよ。

要するに、

「あっ……こんな些細なワンミスで破綻して作品崩壊して終わるんだ……」

っていう衝撃。

これを読んでいる人は「いやいやそんな致命的なミスはしちゃダメでしょ? 自分はそんなミスしないわ(笑)」と思うかもしれないけど、例えば『△△のことを○○と書こうとしたら1巻で軽い世間話程度に××と書いてしまっていて××と改めた』みたいなシーンはけっこうあるんですよ。

上記の部分は書く前に気付いて『××』に改められた例だけど、これに気付かなかったら「『△△は○○』と『△△は××』が両方あるけどどっちなんだ!」みたいな話になっていたわけで、そうなったら大変面倒なことになっていたはず。

そう考えたらこういったワンミスって本当に怖いんですよね。


この当時『この作者がどうしてそういうミスをしたのか』について何度も考えていたけど、自分の中での結論としては、単純に『よくある主人公アゲのネタを書いたつもり』なのではと。

つまりほら、主人公がスゲーと言われる展開を作るために仲間(主にヒロイン)に主人公が持つ技術とかを教える展開って異世界モノではもう定番じゃないですか。

そういったテンプレ展開を軽く1つ挟もうとして、その展開と自分の作品との相性を考えてなかった的なね。


とにかく僕はこの作品を読んで、その失敗を見て、自作品になにか新しいモノや展開やらを追加する場合、それが加わったことによって作品の先がどうなるのかをちゃんと真剣に最後まで考えるようになった。

そのおかげで色々と考えることが増えて凄く大変になってしまったけど。


自作品での例を1つ上げておくと。

主人公が使う魔法が分かりやすいかもしれない。

『極スタ』の中で一番初歩的な魔法として生活魔法というモノを設定した。

これ自体はよくある設定、よくある魔法だけど、ここの扱いによっては人々の生活様式が変わるのではないか?と考えた。

例えば水を生み出す魔法を誰でも使えるとなると、そもそも井戸を掘るという文化はなくなるはずだし、生み出せる水の量によっては農業にも使えるわけで、本来なら農業をするために川から水を調達するはずだが、それが必要なくなると。つまり農業に適した土地の条件が地球とは大きく変わるはずで、それは人が住める場所の条件が地球(の中世とか暗黒時代等)とは大きく変わってしまうことになる。そうなると人々の生活様式も大きく変わり、地球での例を参考にはしにくくなる。

だとすると自分の中でその世界の生活様式をゼロから考えなくてはならなくなるはずで、ちょっと大変すぎるので水を生み出す魔法は制限する必要がある、という結論に達した。

それから、どれぐらいの人がどれぐらいの量の水を生み出せるぐらいなら大きな問題を生まないかについて考え、今の設定に落ち着いている。

こんな感じで一つ一つの魔法について考えていかないと、ふとした瞬間に破綻するかもしれないか本当に難しい。


例えばだけど。

昔、某所で読んだ(別の)某作品の話。

テンプレ展開から異世界に行った主人公がよくあるテンプレお詫び能力で錬金術を選び、自由自在に貴金属等を作り出せるようになり。

そして異世界に行ってすぐに、

「よしっ! 冒険者ギルドに登録してお金を稼ごう!」

と言ったのを読んで衝撃を受けた。

今でもこの作品と衝撃を鮮明に覚えているのだけど。

つまりこの作者の気持ち的には『冒険者になって無双』というテンプレを当然のようにベースに起きつつ、自分が書きたい『錬金術持ちの主人公』をただ載せた感じなんだろうと思う。けど、それらが組み合った先にどうなるかを詳しくは考えてなかったので変な矛盾が起きてしまったと。

恐らくはそんな感じだと思う。


これは極端な例だけど、ちょっとしたことであっても、『ソレ』を書くことで作品の先にどういった影響があるのかはちゃんと考えなければいけないと考えさせられた、教訓となった作品だ。

上記の作品達はこういった取り上げ方をしたから、ある意味でネタのようなモノとして受け取られるかもしれないけど、自分の中では教訓を与えてくれて糧となった重要な作品だと思っている。

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