作家が言う『キャラクターが勝手に動く』を説明しながらストーリーの作り方を紐解く

小説家や漫画家などストーリーを作る人の中には『キャラクターが勝手に動く』という現象を主張する人がいる。

『キャラクターが勝手に動く』とは、作者がストーリーを書こうと思っていたら、自分が作った登場人物が作者の意志とは関係なく勝手に動き出し、時には大きく物語の方向性が変わってしまうような現象。

でも逆に『そんなモノはない』と主張する作家さんもいる。

作品の登場人物達は当然ながら作者が作った存在なので、動かしているのも当然作者。作者が動かしているのだから勝手に動いているはずがない、というような考え方。

では何故そういう意見の相違が生まれるのか、作者の考えた理論を元に説明していこうと思う。


◆◆◆


最初に、大きく分けると作家によって2パターンの物語の作り方がある、という理論を主張をしたい。

これは様々な作家さんの創作論などを読んで考えついた自分なりの解釈だ。

(現時点での僕の結論で、いつか変わる時が来るかもしれないし、絶対に正しいかどうかは分からない)


①設定やストーリー、物語に関わる全てを最初から作者が考え、多種多様な形をした『設定』という名のブロックを組み立てて建造物を建てるように物語を組み立てるタイプ。


②基準となるポイント、重要な設定を並べ、そこにキャラを放流し、キャラや世界がどう動くかを観察。観察結果を小説や漫画というフォーマットで外に出すタイプ。


とりあえず大きく分けるとこんな感じだと思っている。


◆◆◆


『キャラクターが勝手に動く』問題について、頭の中にある理論をそのまま出力してみようと思うのだけど。

その前に説明したいのが、僕の頭の中のイメージとしては、物語を『ボールとボールが転がるためのコース』と想像している、ということ。

ボールが物語の主人公で、ボールが転がるためのコースは設定などの全てだ。


何もない空間にボールをそっと落とすと、ボールは地面に落ちてバウンドし、やがて停止する。もし、激しく叩きつけてもやがては止まるし、優しく置いたら動きすらしない。

それではつまらないのでボールが上手く転がるように傾斜を作り『設定』という名の障害物を配置して、コースを作ってボールが上手く転がるように調整していく。

そして出来上がったコースを転がるボール(主人公)の動きそのものが『物語』なのだ。


しかしこのコース設定は人によってやり方が大きく異なる。

それこそが上記の①と②だと思っている。


①のタイプはコースを完璧に作り、ボールの動きを全てコントロールしようとする人。

スタート地点に落とされたボールがどの壁にぶつかってどう転がるかを考え、坂の傾斜や障害物の位置を計算して配置し、ボールの形や質にまでこだわって、ゴールまで自分が思い描いた形を作り、その流れに沿って綺麗にボールを動かす。

②のタイプは、ボールの動きに『あまり』干渉しない人。

核となるいくつかの障害物(自分が書きたいシーンとか)を置き、それに上手く接触するようにコースの土台となる坂道(シチュエーションとか世界設定)やらを作り、ボールを入れる。

ある程度のコースの形は作るが、その中でボールがどういう動きをしながらゴールにたどり着くかはボールに委ねる感じ。ボールがどう転がるかは基本ボール任せで、作者はその動きを観察し、それを作品として出力する。

それが面白くなければ障害物を追加したり、時にはボールをいじくり、それはまるで気まぐれな神のように主人公に課し、そしてまた観察するのだ。


では『キャラクターが勝手に動く』とは何なのだろうか。

実はこれを書き始める前は②の人こそがそのタイプなのだろうと思っていたのだけど、これを書きながらもう一度、考え直してみた結果、少し考えが変わってきた。


話は逸れるけど、こんな発見があるからこそ、こうやって外に向かって情報を発信する必要があるのだと思っている。自分の中にある理論は自分の中にある時は綺麗に見えて、完璧そうに感じるけど、外に向けて、人に読んでもらうためにそれを出力してみると意外と不完全さが見えてきたりする。

小説のネタにしてもそうだけど、頭の中にある時は『これは面白い!』と思っても、実際に文章にしていくと、どんどんつまらなく感じてきたりするもの。

だからこそ、こういった小説ではない文章を書くのも重要なのだと思う。

こうすることで自分の中の考えがまとまって、理論がより洗練されていく。だから自分を高めることにも繋がる。と、これを書くようになってからより感じている。


話を戻すと。

今はこの『キャラクターが勝手に動く』と主張する人は、①と②の中間ぐらいにいる人。もしくはそれに②を加えたモノなのでは? と考えている。

逆に『キャラクターは勝手には動かない』と思っているのは①のタイプだろう。


①のタイプは全てをコントロールしているので『勝手に動くことはない』と感じているはず。そして②のタイプは『キャラクターの自由に(任せて)動かしている』と感じているはず。

この『キャラクターの自由に(任せて)動かしている』というのは『キャラクターが勝手に動く』とはかなり違うのではないか、と考える。

②のタイプの作家は「この性格のキャラはこの状況だとこう動くだろうな」という感じの予想を複数人分、頭の中で複雑に組み合わせ、妄想を繰り返しながらストーリーを作り上げている。

最初に書いた『ボールとボールが転がるためのコース』の話は作者の脳内の話であるからして、②の作家は頭の中で、まるで人形遊びのようにそれぞれのキャラクター達がその状況下でどういう動きをするのかシミュレートしてストーリーを作っているわけで。つまりその状態は『キャラクターが勝手に動いている』というより『キャラクターは作者に与えられた自由の範囲の中で動いている』という方が正しく、それを意識して創作しているタイプの②の作家にとってそれは計算の内の話で、『キャラクターが勝手に動く』とは思っていない可能性がある、と考えられる。

しかしそこを意識的にはやらず、自然とそういう感じで創作しているタイプの②の作家は『キャラクターが勝手に動く』という話を聞いて「あぁ、確かに勝手に動いているかも!」と思うかもしれない。


そしてこの①と②の中間ぐらいの作家に関してだけど。

恐らく、コース作りをする時、ちゃんと作ってはいくものの、意図したのか意図してないのか(例えば長期連載すぎて設定をまとめきれなかったとか)何らかの理由で完全にはならず、どこかに穴が出来てしまっているのではないかと思う。つまり設定上の穴が出来てしまうと。

そして実際にボールを転がしてみた瞬間、ボールがその穴に落ちてしまい、それに気付いて驚く。

『キャラクターが勝手に動いた』と。

キャラクターが想定していたコースを通らず、凹みに落ちて進路を変えるのだ。想定していなければ勝手に動いたように見えてしまう。


具体例を考えてみる。

例えば恋愛作品で、主人公とヒロインAとヒロインBがいたとする。

ヒロインAは大人しい性格で、ヒロインBは積極的な性格。

作者は最初からヒロインAを正ヒロインに据えたプロットを組んで物語を展開するも、物語が進む中、ヒロインAは大人しい性格のせいで主人公と間をあまり詰められず、逆にヒロインBはその積極的な性格のおかげで主人公との距離をガンガン詰めていく。

ある時点で作者が気が付いた時には、贔屓目なしにフラットに考えてみると主人公がヒロインAを好きになる理由がなく、どう考えてもヒロインBとくっつくのが普通だと感じてしまうようになる。

このタイミングでその違和感に気付いた瞬間、どう考えてもBルートに行くしかないように思い『キャラクターが勝手に動く』と感じるのだろう。

そして、その違和感に気付かずにそのままAルートを進めてしまった場合、読者から「それはおかしい」という反応をもらうことになるのではないかと思う。

作者は最初にAの方が魅力的だと考えて正ヒロインに決めていたせいで『どうやって主人公の意識をBよりAの方へ向けるか』という部分のギミックを考え忘れ、そこが設定の穴となった。


もう一例、考えてみる。

例えば普通の王道ファンタジー作品で、なんとなく主人公をズバズバと物を言うタイプに設定したとして。

旅立ちの朝に王城に行って王様に魔王討伐へ行く挨拶をしたら50ゴールドと、棍棒と、布の服と、旅人の服しかもらえなかった場合。普通ならそのまま無言で旅立って普通に魔王を倒す話になるのだけど。しかし主人公の性格を考えたら黙ってるわけがないよね?と考えた瞬間、『ここで文句の1つも言わないとおかしくない?』となって主人公が勝手に王様に文句を言い出し、『キャラクターが勝手に動く』現象が起こり、別のストーリーになってしまうと。


なんだか『キャラクターが勝手に動く』と感じている人に対してネガティブな意見を言っていると思われてしまうかもしれないので、そこは否定しておきたいのだけど。

『キャラクターが勝手に動く』と感じる人はストーリーを完璧に計画出来ていないかもしれないけど、キャラクターをしっかり1人の人格として捉えて客観的にどう動くか考えられる能力と、突然ストーリーが想定とは逆に走っても対応して違う方向に進める対応力もあるタイプだと思うので、違う才能を持っているタイプと言えると思うのだ。

それに『キャラクターが勝手に動く』と感じるのは実際のところ素晴らしいことで、これを感じられなければ、客観的に見るとキャラクターが理解出来ない行動を取り続けて、恐らく読者から見ると物語が崩壊して違和感ばかりに見えてしまうのではないかと思う。

つまり『キャラクターが勝手に動く』と感じる作者は『穴』に気付いてそれに柔軟に対処出来るから『キャラクターが勝手に動く』と思っただけで、『穴』に気付けなかったり、気付いても対処出来なかったら『キャラクターが勝手に動く』とすら思えずに作品がどんどんおかしくなっていくだけなのではないだろうか。


◆◆◆


ここでやっとストーリーの作り方の話をしようと思うのだけど。


上記①の書き方はぶっちゃけ頭がかなり良い人向けの書き方だと思う。

全てを計算して書いていくのだから。

はっきり言って適性がないと出来ないのだろう。自分にも無理。

恐らくミステリーとかサスペンスではこちらの書き方の方が良いはず……というか、そのジャンルはそういう書き方でないと上手く書けないのかもしれない。

では②がどうかと言うと、恐らくこちらはセンスが必要。

自分が書きたいストーリーの核となる登場人物や設定といったパーツをポンポンと並べて大まかなコースを作り、後はキャラクターの動きに任せる。とは言っても適当にそれをやっても面白くなるはずなくて、重要な核になるパーツをどこに配置すれば面白くなりそうか、それが直感的に分かるセンスが問われる。


恐らく大多数の人にとっては①と②の中間ぐらいの書き方が楽……というか、作者が望むとか望まないとか関係なく、そういう書き方になってしまうのだろうと思われる。


前回の『世界設定を作中で書く時は大変で、プロの小説家漫画家は化け物ばかりだぞ、という話』の方でも触れた石田衣良先生の話(どんな話かは前回、書いてるので割愛)などは完全に①的な書き方ではないかと思う。


保坂和志先生の『書きあぐねている人のための小説入門』によると、保坂先生は②のタイプと断定して間違いないだろう。

この本の中で先生は、中心となる登場人物を数人考え、それらの人間関係と舞台を考えて、あとは大まかな流れは考えるけど、実際に書くには登場人物達が何かをやってくれないと書けない的な話をされている。


うろ覚えだけど、森博嗣先生の話だったと思うが、ミステリーを書く時は半分まで書いた後、その時点で客観的に一番犯人ではなさそうな登場人物を犯人に変えて物語を再構成し後半部分を書き上げるとオチが分からない面白い話になる。といった話があったと記憶している。

この書き方は、①の書き方で物語を構築した後、途中であえて②的な俯瞰視点から物語を再評価し、また①的に構築し直すといった感じだろうか。ちょっと特殊かもしれない。


そしてこの作者、僕自身がどういう書き方かと言うと、恐らく保坂和志先生寄りと考えている。つまり②寄りだと思う。

②寄りの①と②の中間。

登場人物を配置して、大まかな流れは決めるけど、細かいところはキャラクター達に任せる、という感じ。

保坂先生もおっしゃっているが、この書き方は無駄が多い。

実際に書き始めてみないと(実際にボールを投げてみないと)どう転がるかが予想出来ないことが多く、投げてみた結果、あまり良くなくて書き直しになる事が多いのだ。

僕自身はこういう書き方が良いものかどうか分からないまま悩みながらやっていたけど、保坂先生の本『書きあぐねている人のための小説入門』を読んで「あっ、この書き方でもいいんだ」と分かって救われたし、この理論を考えるキッカケにもなった。


◆◆◆


個人的にオススメしたいストーリーの作り方だけど。

①のようにしっかりと作れるならそれが一番良いとは思うけど。それが出来なくても、とにかくボールが通る道造り(つまり設定作り)はしっかりと固めておいた方がいいと感じる。

道がしっかりしている程、イレギュラーな動きがなくて書きやすいし、道が細い程、ボールの動きの幅が狭くて書きやすい。

設定がしっかりする程、主人公の動ける範囲が(作者にとって)理解しやすくなって先の展開が自然と決まりやすくなる。


ファンタジー小説なら、とにかく世界設定はしっかり作っておくべきで、そこがしっかりしていると主人公がどれだけ自由に動いてもスムーズに話が進みやすく、展開を作りやすい。


◆◆◆


まぁこんな感じだろうか。

気が付いたらここまでで5600文字も書いていて、久し振りにこんな長い話になったかもしれない。

これを書くためにまた保坂先生の本を読み返して、また違う発見があって良かったし、上にも書いたけど、やっぱり自分の考えを人に読まれるようにまとめるというのは大切なことなんだなと感じた。

また今後も色々と書いていきたいと思う。

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