5

しばらくして

その子の親は離婚が成立。


もめにもめて親権は母親に。


『先生!ありがとうございました!

本当にありがとうございました!』


と何度も頭を下げる母親。


何もしてない私は戸惑いを隠せないまま…。


笑顔で複雑な気持ちを隠して

その子のそばに立つと

空を仰いでつぶやいた。




「先生…昼間の月はなんで白いと思う?」


え?


私は子供の頃の私に聞かれた錯覚に陥った。


その子は笑顔でこう続けた。


「夜は電気をつけてるでしょ?

夜の月は電気つけてるんだよ。


それで

朝になったらウサギさんが消すからだよ。


月にはウサギさんが住んでいるんだって。

ママが言ってたよ!」



母親の仕事の都合で、

2人だけで遠くの街に引っ越していくことになった親子は

楽しそうに笑い合いながら

とても仲良く

しっかりと手をつないで

幼稚園を去った。



正しかったのかわからない

何が真実だったのかも分からない

だけど…



空を見上げて

白い月を見つめた。



もう…私はあの夢はみない気がした。



とても素敵な答えを

手に入れたから。



今年もまた、季節の挨拶のハガキが届いた。



写真にうつる2人の顔は、

笑顔でとても幸せそうに見える。



あの子が笑っている。


すごく嬉しそうに

大好きな、ママのそばで…。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白い月と黒いリンゴ 東雲光流 @shinonomehikaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ