第2試合 公開入団テスト
PFPWでの定期参戦の中で、修斗は若手レスラーたちとのシングルマッチを中心に試合をしていた。自分の必殺技で勝つこともあれば、相手の必殺技に沈む日もある。試合結果に関わらず、修斗の熱い試合は観客を日に日に魅了していった。そんなある日の試合終了後、社長から観客にある提案がなされた。
「えー、観客の皆さん、今戦っていた上田修斗、いい選手だと思わねぇか?見事なマッスルボディ、パワフルなファイトスタイル、そして熱いレスラー魂…どれをとっても一流だとオレは思う。だが、修斗はまだうちの正式な選手じゃない。そこで、今度、修斗のPFPWへの入団をかけたシングルマッチを行いたいと思うんだが、どうだろうか?」
会場には賛成を意味する拍手が鳴り響く。
「みんなも同じ気持ちでよかった。じゃあ次のシリーズの開幕戦を『上田修斗 入団テストマッチ』とする!!」
修斗への期待を込めた拍手が再び鳴り響いている中、修斗にマイクが渡された。
「社長、ありがとうございます!オレ、頑張ります!お客さんに満足してもらえる試合をして見せます!皆さんも応援よろしくお願いします!」
三度起こる拍手。観客に頭を深く下げると、修斗はリングから下りた。
そして、迎えた試合当日…。
「青コーナー…185cm、90kg…上田ぁ…修斗ぉーーーっ!」
(やべぇ、こんなワクワクする試合、初めてかもしれねぇぜ)
いつものように右拳をあげる青ショートタイツ姿の修斗。
「赤コーナー…173cm、81kg…下山ぁ…大地ぃっ!」
青ショートタイツの漢が観客の声に応えるように両手を掲げた。
(大地さん、ついに来ましたよ、同じリングに…)
そう、この下山大地こそ、修斗をプロレスに目覚めさせた“あの人”だった。テレビの中できれいなジャーマンスープレックスを決めて勝利した青ショートタイツの男・下山大地。大地はその日から修斗にとっての“レジェンド”になった。
修斗が青ショートタイツを選んだのも、必殺技をジャーマンスープレックスにしたのも、すべて大地に近づきたい一心からだった。
いつか同じリングに立って試合をしたい。それんな大地の夢が今、叶う。
ゴングがなると同時に修斗はダッシュし、エルボーを喰らわせる。不意を突かれた大地だったが、負けじとエルボーを返す。ふらつく修斗だったが、大地の腕を取るとロープに振り、打点の高いドロップキックで大地をダウンさせる。倒れた大地の足を取って逆エビ固めを決めるが、大地はロープブレイク。
技を解いて大地にストンピングをする修斗。大地はその足を掴むと立ち上がり、ドラゴンスクリューを決める。足を抱え転がる修斗を立たせると、大地の至近距離からのラリアットが決まる。倒れた修斗を立たせ、頭を脇に抱える大地。ブレーンバスターを狙うが、逆に修斗のブレーンバスターを喰らってしまう。片エビ固めでフォールに入るが、カウント2で肩をあげる大地。それならばと、修斗は大地を立たせ、バックにまわって腰で手をクラッチする。しかしバックエルボーからクラッチを切った大地は、逆に修斗のバックにまわる。(しまった!)修斗がそう思った次の瞬間、修斗の身体が弧を描いてマットに叩きつけられた。
「出たっ、伝家の宝刀・大地のジャーマン!!」
リングアナが身を乗り出しながら叫ぶ。ジャーマンの名手として名高い大地の必殺技を喰らってしまう修斗…カウント2.5で何とか肩を上げる。
「これが、大地さんのジャーマン…すげぇ…」そう呟くとニヤッと笑う修斗。
そんな若手を立たせ、ロープに振ると、大地がラリアットを狙ってくる。しかししゃがんでそれをかわすと、素早くバックにまわって腰手でをクラッチする修斗…。
「今度はオレの番だぁっ!」
そう叫ぶと、お返しとばかりに大地にジャーマンスープレックスを放つ。修斗のジャーマンの完成度に会場がどよめく中、大地もカウント2で肩をあげてくる。休ませはしないとばかりに大地を立たせ、ボディスラムでマットに叩きつけると、修斗は急いでコーナーに登る。首を掻っ切るポーズをして見せた後、コーナートップからムーンサルトプレスを放つ。しかし、大地の膝が修斗の腹にめり込む。のたうちまわる修斗。大地はその修斗を立たせ、頭を足で挟んでパイルドライバーで修斗をマットに突き刺す。ダウンする修斗を立たせた大地はバックにまわって、2度目のジャーマンスープレックスを放ち、レフリーがカウントに入る。カウント2.7で肩をあげる修斗。
「おい修斗!お前もジャーマンが得意なんだろ?オレにかけてこいや!どっちのジャーマンが強いか、はっきりさせてやる!」
息が上がっている修斗に大地が叫ぶと、仁王立ちで修斗が経つのを待ち構える。
「あぁ…やってやるぜっ…!」
ゆっくり立ち上がった修斗が大地のバックにまわりジャーマンを決める。肩をあげる大地。そして今度は大地が修斗をジャーマンで叩きつける。2度、3度と放たれる互いの必殺技。会場のボルテージもどんどん上がっていく。
先に異変が生じたのは修斗だった。4度目のジャーマンを決めようとバックにまわるが、大地を持ちあげることができないのだ。
「どうやらこの勝負、オレの勝ちのようだな!」
クラッチを切り振り返ると、至近距離からのラリアットで修斗をなぎ倒す。大の字に倒れた修斗を立たせ、バックにまわると、渾身の力でジャーマンスープレックスを放つ大地。プロレス界最高峰のジャーマンスープレックスを喰らった修斗が、肩をあげることはできなかった…。
下山大地○(16分22秒、ジャーマンスープレックスホールド)×上田修斗
リングに大の字のまま動けない修斗を見ながら、大地がマイクを握る。
「なぁみんな、上田修斗という男、どうだった?」
大地の問いかけに「うぉーっ!」という声が会場を満たしていく。
「こんなに楽しい試合、久しぶりだったぜ!このオレにジャーマンで挑んでくる根性、たまんねぇぜ!それにこいつのジャーマンは本物だ…オレが言うんだから間違いねぇ!オレはPFPWのリングで修斗ともっと戦いてぇ!オレは修斗の入団を歓迎するぜ!みんなはどうだ!?」
修斗を歓迎する拍手と声援が会場内に響き渡る。そして修斗にマイクが渡される。
「すげぇ…大地さんのジャーマンはすげぇ…全く歯が立たねぇ…くっそ、悔しいぜ…でも、嬉しい…ガキの頃から憧れてたレスラーと対戦できたこと…最高のジャーマンを体感できたこと…そして、オレにはまだまだ高い壁がそびえ立ってるってわかったこと…。オレ、ここで…このPFPWのリングで戦いてぇ…そしていつか必ず、オレのジャーマンで大地さんをマットに沈めて見せる!オレ、やっぱプロレスが。このPFPWが好きだ!みんな、オレ、PFPWに入っていいよな!?」
観客からの温かい拍手をBGMに、大地が修斗の右手を高く掲げた。さらに盛り上がる観客。
「ありがとう…ありがとう!オレ、ここでプロレスの頂点を目指すぜっ!」
四方の観客席に頭を下げると、修斗はマットをおりた。駆け寄ってきた雄馬の肩を借りながら花道を歩いて行く修斗。
「かっこよかったぜ、修斗…ん?お前、泣いてんのか?」
「んなわけねぇだろっ!はっ倒すぞ、雄馬!」
雄馬から顔を背けながら、2人は控え室へと戻って行った。
Road to the TOP けんせい @ken_sei
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