第1試合 ライバル

様子見の蹴りあい、軽いロープワーク…互いに相手の実力を確かめ合うと、修斗が得意のエルボーでペースを掴み、優勢に試合を進める。連続ブレーンバスターを喰らい疲れが見え始めた雄馬に対し、修斗の必殺技――“あの人”と同じ必殺技――ジャーマンスープレックスが炸裂する。しかしカウント2.5で肩をあげる雄馬。


ならばもう1発と雄馬のバックにまわり手をクラッチするが、バックエルボーでクラッチを切られ、逆にバックを取られると、自身の必殺技で投げられてしまう修斗。カウント2.5で返すものの、想像以上の破壊力と自分の必殺技を喰らってしまった精神的ダメージでなかなか立てない修斗の髪を掴んで立たせ、ロープに走らせる雄馬。戻ってきた修斗を待ち受けていたのは雄馬の太い腕だった。雄馬のラリアットを受け、一回転してマットにダウンする修斗。


雄馬が雄たけびをあげコーナーに登ると、今度は雄馬の必殺技・ファイアーバードスプラッシュが炸裂する。誰もが勝負あったと思ったが、3カウント直前で修斗の肩が上がる。レフリーに抗議する雄馬のバックにまわった修斗が投げっぱなしジャーマンを決め、カバーに入ろうとしたところで時間切れのゴングが鳴り響いた。


井原雄馬△(時間切れ引き分け)△上田修斗


両者の検討をたたえるように拍手が2人のレスラーに送られる。雄馬への労いの声が響く中、修斗を応援する声援も聞こえてくる。その中を修斗は悔しそうな表情で控え室へと戻っていった。


「くそっ…くそっ!!」

どうしても結果を残したかった修斗は、悔しそうに控え室の机を叩いた。憧れの場所で、雄馬に勝ちたかった。それが引き分けで終わるなんて…修斗にとっては負け試合も同然だった。そんな時、誰かが部屋をノックした。


「入るぜ」


振り向くとそこには雄馬が立っていた。


「修斗、いい試合をありがとな」


「うっせぇ!いい試合じゃダメなんだ!オレはこの試合、勝たなきゃならなかったんだ!」


「どうして勝たなきゃならなかったんだ?」


「オレはこの試合に今後のプロレス人生を賭けてた…なのに、勝てなかった…」


「次の試合で勝てばいいじゃねぇか」


「次の試合?オレがここでまた試合できるかどうかわからねぇだろ!?次も試合するためにも、オレは今日勝たなきゃならなかったんだ!」


「心配すんな。次も修斗はこの舞台に立てるぜ」


「どうしてそう言い切れるんだよ?」


「修斗をここのリングに上げるよう頼んだのはオレなんだぜ」


「何っ!?」


「オレはお前のこと、忘れちゃいねぇぜ」

「えっ?」


「オレが合格したオーディションで、修斗も最終選考に残っただろ?あの時オレは感じたんだ、『いつかオレはこいつと試合をする』ってな」


(雄馬がオレのことを…)突然の告白に、修斗はただ雄馬を見つめるしかできなかった。


「あのオーディションはオレしか受からなかったけど、こいつはこの程度でへこたれるヤツじゃねぇ…いつかきっと同じ舞台に立つ…そう思ってた。そして地方のリングに上がっている修斗を見て、あの時のオレの直感は確信へと変わった。だからオレが社長に直訴した。」


「雄馬…」


「それに、今日の客の反応も見ただろ?あれは修斗を受け入れた反応だ。今度はオレが言わなくても、社長のほうから修斗に要請が来るはずだ。間違いねぇ」


(あの日スターへの階段を登り始めた漢が、オレを…)


「オレはあの日の悔しさを忘れた日は一度もねぇ…そして今日の悔しさもきっと忘れられねぇだろうな…。次はオレがジャーマンで勝つぜ、雄馬!」


「そう簡単に勝たせるわけにはいかねぇよ!オレのファイアーバードスプラッシュで沈めてやるぜ!」


「うっせぇ!オレが絶対に勝つ!!」


「これからもよろしくな、オレのライバル」


握手を求める雄太の手を払いのけ、修斗はニヤリと笑った。



その数日後、PFPWへの修斗の定期参戦が正式に決定した。

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