コンサートでの実体験。

ピアノ。今まで私はピアノに対してあまり良いイメージを持っていなかった。

個人的にはそんなに好きではない、聞き入るようなものでもない音で、楽器としてはポピュラーだけどあまり重要性のない、代替のきくようなそこまで見栄えの良くない楽器。

そんな失礼にも程がある多大な誤解と偏見は先日覆されたのだった。


先週、吹奏楽部の顧問にとあるコンサートのチケットを貰った。

「良かったら。貴重な経験だと思うし」

これまでコンサートに行った事もなく、そういう機会も無かったので楽しみにしつつ席に座り、プログラムを確認。ベートーヴェンにショパンにリスト。殆どが詳しくない私でも知っている有名なもの。


ブザーが鳴る。そこからの記憶は忘れられないだろう。

存在感を放つグランドピアノと真っ赤なドレス姿の女性。第一楽章は自由な旋律の上に調和のある面白い音。第二楽章は鮮やかなマーチで聞いていて楽しい。第三楽章で、ゆっくりとした綺麗な音色に移り変わる。呼吸を忘れそうなほど惹き込まれる音色。

あっという間に1曲目が終わる。笑顔の女性を拍手で見送る。


そして、次に出てきたのは紺青色のドレスを来た女性。拍手で出迎える。

その旋律は、不気味な低い音と明るい音が互い違いに現れる。

最大限の深みを持った音色と心が洗われるような音色を繰り返す曲。紺青色が目に焼き付き、波の音を連想させた。

演奏を終え紺青色のドレスの女性が去っていく。


その次に出てきたのは初の男性。スーツ姿でステージに立つ。

弾き始めた瞬間のこれまでの曲とは違う強く惹き込まれる感覚。不思議に思う暇もなく聴き入ってしまう。中音域から高音域の、穏やかに戯れるような心地よい音。神経を聴覚だけに集中させたくて目を閉じる。

聴き入っているとあっという間に終わってしまう演奏。音色に酔ったのか、ぼーっとしながら拍手を送る。その後、帰り際のホールに演奏者が並んでいた。私はスーツ姿を探して、その人の目を見てただ一言。

「演奏、とても素敵でした」

その後帰ってからやっと気付いたのは

「ピアノの低い音が苦手」ということだった。

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短編集 りこと @tsukimiya_rikoto

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