(仮・第6話「?th Attack」)

 接敵エンカウントする。

 前方奥に敵個体をかろうじて視認できるかという距離まで近づいた瞬間、ファナイの纏っているカイラズ・フォルタの袖の部分が一部解けて瞬間的に繊維化し、ファナイの身長の1.5倍はあろうかという大きな真っ白い剣を編み出す。時間にして0.5秒。瞬間での変形だった。

 変形を認めたファナイがその柄を掴み、真横に構え直す。

 圧倒的速度で疾走していたファナイはその時にはすでに敵の射程距離に入っていたらしく、前方から遠距離攻撃らしい光弾が飛んでくる。ビーム性らしきその攻撃を、ファナイは物ともせずで真っ正面に突っ込みつつわずかな差で躱し、射撃を繰り返してくる敵個体の一つをすれ違いざまに横一線に薙ぎ払う。ファナイ自身の加速と、接近する敵との相対速度もあり、その斬撃は一度で敵個体を横一文字に一閃、両断する。他の2個体は目標が背後に移動したことを確認、ファナイの方を振り向いてくるが、彼女にはスローモーションに見えた。

槌型マルテロ展開」

「了解」

 ファナイがつぶやくように指示すると、フォルタは当然とばかりに返答する。その瞬間、今度は剣が解けて一枚の布になり、ショベルのように足元の土をごっそりえぐり取り、それを包み込むようにして編まれたハンマーとなる。

 同時、ファナイは光弾を避けるように疾走の勢いを上方に方向転換して跳躍、宙返りしてその勢いのままハンマーを敵個体の一体に叩き込む。

 グシャリ、というひしゃげる音がして次の瞬間に衝撃波が生まれ、もう1体も吹き飛んで周囲の大木に激突し動かなくなった。

「沈黙を確認、無力化を確定する」

「了解」

ハンマーが解かれ、再び剣に戻るとファナイは最大初速で衝撃波に吹き飛ばされた敵に最接近、勢いで敵個体に刃を突き立て抉る様に切り抜く。敵の体液か何かが飛び散り、フォルタの袖が変形した剣の先にも黒いのもがやや付着している。

ファナイはそれを振り払い一度周囲を警戒。

二つに分断された敵個体に、潰れて原型のなくなった二体目、そして今貫いた三体目を見やり、

「対象の無力化を確認した。索敵する」

ファナイの視界に展開されている視覚情報付加レイヤーに索敵状況を知らせる表示が現れ、それはすぐに完了。取り急ぎ脅威となる反応は認められなかった。

「…静かなもんだね」

「うん。とりあえず脅威はないみたい。行こう」

「了解。グラーヴォは維持しとく」

「了解」

ファナイはレイヤーに表示されている推奨方向を確認し、再び走り出す。

「もう少しで森林地帯を抜けるよー。次のエリアがどんなところか情報でしかわからないから気をつけてね、ファナイ」

「了解」

 ファナイが返答した瞬間、外部からの通信があることを告げる表示がレイヤーに現れるのと同時、それを告げるアラートが鳴る。

「こちらファナイ」

『あ、ファナイさん。先ほど交戦記録バターロレコードを確認しましたが、問題ありませんか?』

「問題ないよ。ログの通り」

『了解です。どうも、こういう自動送信系のログはなんか苦手で、直接確認しちゃいました』

「そうなの」

『はい。なんかちょっと怖い感じがして』

「怖い?」

『なんとなくですけど。あ、そろそろ次の地帯に入りますね。次のエリアは草原のようですが、植物が興亜してしまっているので足下気をつけて進んでくださいね。あと、過去のログだと、地面が陥没したり隆起したりするみたいですので』

「わかった。知ってたけど、ありがとう」

『いえ。それではまた』

「了解」

 予測不能な挙動をする草原エリアは、もうすぐそこまで迫っていた。


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/INCIDIUM:thanatos/ 唯月希 契斯 @EnaSchedioGaff

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