第六話 初戦闘を行う模様です。

 

 軽いランニング程度の速度で平原を駆ける。

 森に近づいてきた頃合いでプレイヤーとそれに対峙するピンク色の物体を度々見かけるようになった。

 また新たなピンク色の物体――野ウサギ LV.1が森から飛び出してくる。今度は私の正面に飛び出てきた。このまま走っていたら間違いなく私が一番乗りでタゲをとれるだろう。

 ……ただな~。兎ですかー。


「すみません月兎!」


 私は嬉々として……じゃない。私は暗鈍たる気持ちで野ウサギ LV.1にそこら辺で拾った石を投げつける。


「キュゥン!!」


 可愛らしい鳴き声を上げる月兎……じゃなかった。野ウサギに全力疾走で近づきその勢いのまま顎を蹴り飛ばす!


「ギャンっ!」


 私は野ウサギを蹴り飛ばした位置で抜剣し構える。

 狙うのは吹き飛んだ野ウサギが地面を跳ね、止まった――今!


「ふっ!」


 全力で剣を投擲。

 そして勢いよく飛んでいった剣は野ウサギに見事突き刺さり、しっかりと野ウサギの息の根を止めた。


「ふぅ、死にましたか。割とグロいですね」


 私は腰から解体ナイフを抜き放ち野ウサギに突き刺す。

 すると野ウサギが光の泡となって僅かばかりのアイテムがドロップする。これは解体ナイフの仕様で倒した死体に解体ナイフを突き刺すと態々剥ぎ取りをする事なくアイテムをドロップに変換してくれるのだ。

 デメリットは一体からはぎ取れる量と比べて明らかに少量のアイテムしか残らない事。メリットは時間の短縮化と限定アイテムのドロップだ。限定アイテムのドロップ率はあり得ない程低いそうなのでほぼないのと変わらないのだけれど。一応、説明しておくとその敵モブ限定の装備が落ちるらしい。野ウサギで今判明しているものだと兎脚のブーツとウサミミの二つでしたかね?

 どちらも高性能な装備だったそう。もしドロップしたとして、幾ら見た目を弄り倒している私でも流石にウサミミは着けたくないんですけどねw


 ……はてさて、今回のドロップは……ウサギ肉。通常ですね。おっと、前のゲームでの癖が抜けてませんね。まあ、気にするほどの事でもありませんか。

 本当は通常泥の毛皮が欲しかったんですけどね。まあ、いいでしょう。


「残念ですがこれを持っていく事は出来ませんね」


 嵩張る上に血が滴り劣化する肉など、それこそそれ目的で準備してきた人かドロップしたらすぐに街に戻る人くらいしか持ち帰れないだろう。その場で食べるという選択肢も無い訳ではありませんが私は料理スキルも火をつける道具も持っていませんしね。

 折角ドロップしたウサギ肉を他の人に拾われるのも癪なので私はウサギ肉をその場に埋め、その足で森に踏み込んだ。




 森では沢山の動物や魔物と遭遇する。

 ……筈なのだが東であるにも関わらず入り口の側では結構な数のβ勢や私のような出だしが上手く行った新規組がいてあまり敵に遭遇しない。

 森に入ってから10分ほど経過しているがまだ倒した敵の数は3体と少ない。それも3体とも同じ吸血コウモリだった。更に残念な事にいずれもドロップなしだった。


 森歩いているとまた羽音が聞こえてくる。上を見上げるとまた吸血コウモリ。如何やら飛行型の敵はあまり狙われないようで吸血コウモリだけがかなり残ってしまっている。……いや、経験値美味しいからいいんですけどね。もう少し他の敵とも戦ってみたいといいますか……


 気持ちを切り替えて不規則に飛んでいる吸血コウモリに狙いをつける。今回も投げるのは拾った石だ。


「っ!」


 できれば羽に当たってくれれば一番いいのだが今回は胴体に当たった様だ。それでもしっかりと効いたようで空中から落ちてくる。

 私は落ちてくる位置を先に予測して既に待ち構えている。そして、落ちてきたタイミングに合わせてウッドシールドで殴打した。


 殴打したことにより飛んでいった吸血コウモリが狙い通りの木にぶつかったので、そのまま追撃にウッドシールドを叩き込めば完全に吸血コウモリは動かなくなった。


 5回目にしては随分と慣れた手つきで解体ナイフを引き抜き吸血コウモリに突き刺す。

 吸血コウモリが光となって代わりに現れたのは――


「いぅ!?」


 ぐじゅっとした感触で思わず悲鳴を上げて放り投げてしまったそれは一瞬見えただけでトラウマレベルの眼球だった。投げた瞬間に目が合った気までして色々と最悪な気分である。

 恐らくそこそこのレアドロップなのだろうが持ち運ぶ容器がない上に先程投げた衝撃でべっちょりと木に刺さって潰れてしまっているのでもうどうする事も出来ない。そんなお金になるかもわからない潰れた眼球を持ち歩きたくは無いので今回は見なかったことにしましょうそうしましょう!

 

 私は再び探索を再開する。

 それにしても……初めは鑑定をつかって薬草でも探しながら進むつもりでしたけど、これは無理ですね。周囲に気を配るので精一杯。下手に探そうものなら間違いなく不意打ちを喰らってデスペナでしょうね。

 それに理由はよく分かってないが、このゲーム結構デスペナがかなり重い仕様の様で、所持品の一部ロスト、経験値の一部ロスト、そして8時間のログイン停止とかなり厳しい内容となっている。今時、経験値ロストはあっても所持品ロストのMMOはかなり減ったものだと思っていたんですけどね。ましてや8時間ログイン停止は……ゲーム内で丸一日。いくら何でも厳しすぎる気がします。


 そんな訳で薬草の採取は偶然見つけたときに行う事にして今日はレベル上げに努める事にした。




 森に入って約3時間。見つけた獲物をサーチ&デストロイしていった結果。私のレベルは4に上がり、目的の毛皮は野ウサギのものが8つ、森オオカミのものが3つ、そしてなんとコグマのものが1つ手に入っていた。

 コグマとだけ聞くと可愛らしい動物園にいるクマを連想してしまうが、それではいけない。あれはそんな生易しいものではなかった。

 涎を垂らしながら牙を剥き喉を鳴らしながらじわじわとこちらを追い詰めるかのように近づいてくるのだ。よく聞く背中を見せれば殺られるという状況である。本当に怖かった……。

 視線を合わせながら鑑定を発動させるとコグマ LV.8の表記。その時の私のレベルは3で、完全に相手は格上。普通なら逃げ出す場面だったのですが、それ程AGIの高くない私が逃げ切れるイメージが湧かなかったので渋々戦うことを選択する羽目に……。


 戦う前に私は構えた剣と腕に着けた盾の二箇所に付与魔法の魔力付与を使用。魔力制御のスキルの補正をフルに使ってデフォルトの値よりも少しでも多くの魔力を剣と盾に纏わせる。通常消費のMP10より1多くのMP11を消費して剣と盾それぞれに魔力付与する事に成功した。

 たった一割されど一割である。MMOにおける一割の差は非常にでかい。今回、私はそれをフルに活かした戦い方をする事に努める。視界に表示された2つの魔力付与のアイコンは通常の1分に7秒足された67秒の文字。今も秒刻みでどんどんそれが消費されていく。


 付与魔法のスキルの魔力付与は武器や防具に魔力を纏わせて攻撃力や防御力を上げることが出来るというもので、今の私のステータスだと剣に掛ければ闇属性攻撃力+7、盾に掛ければ闇属性防御力+7の効果を僅かばかりの時間ながら得ることが出来る。

 そしてこのスキルの特徴というか欠点はアイテムに魔力を纏わせるという点で、それが原因で付与した魔力は時間経過で霧散してしまう上に攻撃や防御に使えばその分をも消費してしまうのだ。

 具体的に言えば魔力付与した剣で攻撃すれば残り時間が10秒減り攻撃力も1減少してしまうのである。盾も防御した時に同じような減少をしてしまう。ちなみに支援魔法は一律補正なので時間経過以外で残り時間が減ることはないし、補正される攻撃力も切れるまで常に一定である。

 これだけ聞くと支援魔法の方が優秀に聞こえるが支援魔法は数値が一定なので常に魔力付与の最大火力の半分~1/3程度の数値しかバフが乗らないという欠点がある。

 つまり残り時間が半分を割る度に魔力付与を掛け足せば理論上常に支援魔法の火力を上回ることが出来るのだ。もっとも理論上の話でそれに伴う魔力消費を強いられるのですけれど……。


 さて、ここまで聞くだけだと魔力付与という技能は完全なロマンスキルで使えないものに感じたものでしょう。先程の説明を聞いてスゲー!魔力付与を使おう!と思った人は多分戦闘に向いてませんね。または本当の理論上を叩き出せる天才の可能性も微レ存かもしれませんが……。まあ、多少考えれば6発当てたら効果が切れるバフスキルなど実用に耐えないという事がすぐにわかるでしょう。ねぇ?


 では、魔力付与の真価とは何か。

 それは――

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グリム・ファンタジア(仮題) 雪桜兎 @rifu

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