やがて私は剣を取る
米堂羽夜
終止符。それは新たな物語の序章。
雷鳴が響き暗雲立ち込める歪な城。
誰もが一目で分かる『魔王城』。この世界において300年余生物を支配し続けてきた魔族の王が住む居城。その謁見の間では煌びやかで見るものを惹きつける程の装備を纏った勇者と、歪で見るものを忌避させる容姿を纏った魔王が対峙していた。
「【数多なる守護者の力を我が身に宿せ。この四肢に。剣に。聖者の祝福を】[ホーリーオーダー]ーーシィッッ‼︎」
『グゥッ……‼︎おのれ……人の身で勇者を騙る下等生物がァァァァァァッ‼︎‼︎』
魔王と勇者。互いの剣がぶつかり合い衝撃音が響く。攻め手を止めない互いの攻防一体の打ち込みは致命打をギリギリで捌き返しの刃で致命打を狙いを繰り返す。
『加護を手にした所で根本は人ッ‼︎妾に支配されるべき家畜と変わらぬッッ‼︎‼︎【せと落ち撃を敵のが我、てりなと者跡追の黒漆。よ箭の神屠】[ダークネスチェイサー]』
「ーーッ⁈」
人外なる膂力から放たれた大上段切りを防ぐも、吹き飛ばされ距離が空いた瞬間魔王は魔族特有の高度詠唱術『反転詠唱』による出力を上げた魔法を放つ。これにより強化された魔法は通常詠唱において下位に属する魔法ですら中位魔法に勝る威力を持つ。故に勇者は距離を詰めるのを一度諦め回避に専念する。
『猪口才‼︎[スキル:オーバースペルブースト][ディメンション:666/ディメンション:インフェルノ/オーバーリミット:シャドウブラスト]』
紙一重で避け続ける勇者に対し魔王は更に追撃としてスキルによる『超高速詠唱』を行い詠唱破棄をした上位魔法二種と高位魔法の三重詠唱を行う。二転三転しながら不恰好に逃げる形となった勇者をダークネスチェイサーが追撃し被弾。壁まで吹き飛ばされた彼に魔王は口元を緩める。
『所詮人は人。魔族には勝てぬ。何故理解せぬ。貴様らはいつもそうだ。自分に都合の悪い事柄は理解せず、矛盾している事を見て見ぬフリをして。魔族が人間に行なっている事は貴様らが家畜に行なってる事と何も変わらぬ。繁栄量を操作し食す為に個体を増やさせ抗うなら始末する。何が違うというのだ。半端に知恵を持つから故なのか。』
魔王の言葉に返す言葉が詰まる。事実正しい。今までが食物連鎖の頂点だっただけでそれよりも強者が現れれば上から狙われる存在になるだけの話。
『人類のエゴというものは本当に理解し難い。自らを王者としていたいなら何故総力を挙げない。何故死ぬ事を恐れる。何故互いの足を引き合う。最も理解に苦しむ。考える事が出来るなら何故最善を放棄しているのか分からぬよ。』
そうだ。何故自分達が。一体で国一つ滅ぼしかねない魔族達に対したった4人で挑んでいるのか。全ての国が力を合わせれば個体数の多い人間の方が勝機は高いはず。それを王の傲慢と我が身可愛さに他人に任せ、国を挙げて制作した最新鋭の装備を献上ではなく販売してくる。今までの旅路を逡巡する度に思うのは彼等の願いが魔王討伐ではなく国家繁栄。それだけなのではないか。そしてその行先にある魔王という障害物を退かして貰おうとしているだけなのではないか。と。
『理解したか⁇以下に貴様らが愚かなのか。自己顕示欲と矛盾しかない残念な脳を持ってしまったが故に貴様らは愚かな生物になってると。』
「……俺が、間違ってる……⁇」
『そこまでは言わぬ。貴様は立派に戦った。我々とではない。多くの疑念を抱きながら自らと戦い貴様らだけは最善の選択を取った。妾はそれを賞賛する。故に惜しい。敵である事が。貴様らが人間である事が。とてもとても惜しい。』
まるで蠱惑するかの様な囁きに勇者の心は揺れる。このまま剣を下ろした方が遠い未来人類の救済になるのではないか。
勇者は思わず剣先を魔王から外し俯き考えてしまう。その瞬間を待ちわびていた魔王は口角を吊り上げ、右手を空にかざし魔力を貯める。勇者を倒すのには絶好の機会である。此奴さえ倒せば暫くは安泰。今後同じ様な考えを持たせない様徹底した管理を行えば憂いもなくなる。
『故に妾は貴様に告げよう。輪廻するならば魔族となれ。妾が貴様に相応しい立場を与え貴様は相応の働きをすれば良い。この世に救世の勇者は要らぬ。何故なら世は既に救われている。……さぁ勇者よ。武器を棄てよ。そして妾の元で人の姿を捨て魔の道を共に歩もうではないか。』
「……それが、世界を救う道……。」
『そんな訳ない‼︎アレス‼︎しっかりして‼︎』
剣を手放し魔王の元へと一歩足を踏み入れた瞬間。後方から叫び声が聞こえる。思わず振り替える。
やがて私は剣を取る 米堂羽夜 @zys
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