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 新学期の全校集会は黙祷から始まった。

 東日本大震災。

 私は家で昼食を取っているときだった。経験したことの無かった強くて長い揺れで、私はとっさに関東大震災がとうとう現実にきたとテレビを付けた。

 テレビの画面では私の想像を遥かに超えた現実が映し出されていた。津波に呑み込まれる家+車+人=街。人の営みがまるごと流されて行く。これは本当に起きている現実なのだろうか。私は一週間テレビの画面を呆然と眺めていたが、執拗に繰り返される「絆」というフレーズに独善的な気持ち悪さを感じテレビから離れていった。

 私は現実感覚を欠いた離人症(後に大学で知った)というべき状態のまま4月が過ぎ、5月、6月、7月、8月……自宅と学校と図書館と公園の往復しか記憶が無い。模試の結果が悪かったので親からこっぴどく叱られたことも「心此処に非ず」の私には特別響かなかった。私の友人たちがいつの間にか付き合ったり別れたりを繰り返す忙しい青春を送っていた間、私は到から借りた「ライ麦畑でつかまえて」を繰り返し読んで自らの空虚さを慰めていた。私もフィービーみたいなキュートでクレバーな妹が欲しかった想いを同性の誰かと共有してみたかったけど2011年の日本に「ライ麦畑でつかまえて」を読む女子高生が果たしているのかどうか不安だった。


 夏も秋も感じることもなく最後の高校生活は過ぎていった。私は受験勉強をする振りをして小説を読んだりして日々を耐えていた。

 総理大臣が野田佳彦に代わったり原発デモが起きたりジョブズが死んだりした。それらの出来事は私に関係があるのかもしれないがどのように頭の中で処理をすればいいのか分からなかった。

 社会の中でどのようなスタンスをとればいいのか。そんなやり方は現代日本の公的教育では教えてくれないのだ。


 「ハムレット嫌いなんだよね、俺」到は演劇部員としてはおそらく少数派であろうことを言った。

 「何もかも持っているヤツが、全部を捨てて父親の復讐をする。何でそんな話が神格化されているんだろう」

 そうだね、と私は言った。


 

進路調査の紙にはとりあえず「文学部志望」と書いて提出した。取り立てて興味の持てそうな分野が他になかったからだ。

 季節は冬になってしまっていた。

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酔生夢死のトランスポーター @12cancer

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