♯59 ハルマキ・ブレイク・キングダム
ゼラは剣を振り上げた。倒れるハルマキは動かない。そして剣を振り下ろした。
激しい金属音が王の間に響いた。ハルマキは剣でそれを止めていた。
ハルマキはゆっくりと立ち上がった。
「まだ立つか」
ハルマキの瞳には炎が宿っていた。会話する気力も惜しい。剣をゼラに向けた。
例えここで朽ち果てようとも、刺し違えてでも奴は殺す。全身全霊を誓った。
ハルマキの姿が再び消えた。ゼラの反応速度を少しだが上回った。鎧が抉られ、剥がれ落ちてゆく。
剥がれた鎧の中は空洞になっていた。恐らく鎧が本体なのだろう。
ハルマキは鎧の破壊に手を緩めなかった。
ゼラの鎧はなんとか繋がっている状態だった。
「わしをここまで追い詰めた者は今までにない。神を越えたと言っても過言ではない」
ハルマキは口の中の血を吐き出した。
「じゃあ死ね」
ゼラの鎧を両断した。鎧は黒い炎を上げながら崩れ落ち、やがて消えて無くなった。
ローズとカムイはエスパーダと慚愧を倒し、ハルマキの元へ向かおうとした時だった。荒れ地の魔物が全て消え失せた。
「はは。僕達は一歩遅れたみたいだね」
ハルマキは立っているのがやっとだった。座ってしまったらもう二度と立てないような気がした。
突然両脇を抱えられた。ローズとカムイが体を支えた。
「エルフがいるからそこまで歩くよ。君に死なれたら困るからね」
「そういう事だ。俺との決着はまだ着いてない」
ハルマキは力なく笑うしかなかった。
皆と合流したハルマキはエルフの族長の魔法と薬で一命をとりとめた。
リディアが心配そうに声をかけた。
「体は大丈夫なのですか?」
痛みはあるが歩くことは出来るだろう。
「あぁ」
「また、国を救って下さいましたね」
頭をポリポリ掻いた。
「襲われすぎなんだよ、この国は」
皆は失笑した。
アニスがハルマキに近寄った。
「疲れたでしょ。さ、帰るわよ」
石化した町人たちの事や破壊された家屋の対応は全てリディアら王国の者が行う。ハルマキら二つ名は戦いが終われば仕事は終わりという訳だ。
「俺はいいとして、お前はやる事あるんじゃないのか?」
「ないわ」
「ないのかよ!女王の補佐官って何してんだ?前々から疑問に思ってたけど」
アニスは澄ました顔で答えた。
「たまーに相談に乗る仕事」
「あぁ、そう」
随分楽な仕事だ。それで高額な給料を貰っているというのだから。しかしリディアと共に戦場に赴いたり、2年も幽閉されたりと命がかかっているのも事実だ。
「お前も苦労症だよな」
何よいきなり。とアニスは飛竜に跨がった。ハルマキも後ろに付いた。
「みんな、また!」
飛竜は大空へ羽ばたいた。
冥王を討って3カ月が経った。ハルマキは暇そうに財宝の情報が書かれた雑誌を読み耽っている。
「なぁ、アニス」
アニスも暇そうに小説を読んでいた。
「なに」
「城に行かないか」
「なんで」
ハルマキは立ち上がった。
「暇だから」
この先もセロリアに大きな戦はなかった。二つ名が全員リディア側に回ったのだから、誰もこの国は滅ぼせないと思ったのだろう。
セロリアの歴史に大きく名を残したハルマキ。神をも倒したと書かれるのだが、誰もそれを信じる者は居なかった。
「なぁ、行こうぜ」
「嫌よ」
「なんで?」
「お尻に根っこが生えたから」
ハルマキ・ブレイク・キングダム 完
ハルマキ・ブレイク・キングダム 只野趣味介 @madamasa
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