新婚生活ゼロ日の嫁

@187

第1話

ある年の春先、子供が産まれた。

夫婦が入籍したのはそのひと月前。

妻の両親はさぞ気が気じゃなかったであろう。


夫は不定休な職だったため、これを機に転職すると言って就活中であった。

「子供と一緒に遊びたいから土日休みの仕事がいいなぁ」

そんなことを言う夫に、妻は喜んでいた。


産後の入院中、夫は就職面接など予定が入っているわけでもないが、面会に来ない日の方が多かった。

「うちのお父さんでも毎日来ていたけどね」

寡黙で育児にそれほど関心があったとも思えない父の話を何気なくする母に、申し訳ないような、不甲斐ないような、嫌な気持ちがぐるぐるしながら心配させないように誤魔化した。

色々あったのだ。ここに至るまでにも色々あったのだ。

でもそれを聞いても誰も妻の周りの人は喜ばないだろう。

ひとりで抱え込むと妻はもう決めていた。


退院日、妻の母はまだ現役で上げ膳据え膳は無理だろう。

それなら就活中で在宅の夫も居るし、新居に行くよ、と妻は理由をこじつけて里

帰りせずに夫との家に帰った。


そこに待ち受けていたのは、夫が通っていた東京農業大学の先輩の田中先輩と同期の久木君と後輩の佐瀬子ちゃん。


あぁ。妻は一瞬にして悟ってしまった。

この佐瀬子ちゃんが夫の不倫相手なのだと。


でも不倫相手と嫁をわざわざ遭遇させる?

いやこの人ならあるかも。


妻はすやすや眠るわが子を見ながら、入籍したことも、この子の父親をこの夫にしてしまったことも、後悔していた。


後に夫は「赤ちゃん見たいって言うから連れてきた」と言っていた。

不倫してる既婚彼手の子供の退院日に来るなんて、そんな最低なこと嫌がらせ以外にあるかな?

妻は退院日が来る度に、普通なら「君が初めておうちに来た日だよ!」と笑顔でわが子に教えられるのに、泥を塗られたと悔いていた。


妻の心は凍っていった。




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