悪魔サイド
朝食を済ませ食器を洗っているときだった。背後に凍るような気配を感じた。恐る恐る振り返ると先程まではいなかった見知らぬ小学生くらいの男の子が立っている。鍵は閉めていたはずだった。
「鍵は閉めたはずって思ったでしょ。そうだね、閉まっているよ。」
彼はどこかから取ってきて貼り付けたかのような笑顔をして言った。
「あんた、新井凛子だよね?あーあーそんなに睨まないでおくれよ、せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」
この生意気な子供はなぜ私の名前を知っているのだろうか。私の勤務している学校の生徒ではなさそうだった。
「そうだね、生徒なんかじゃないよ。僕はね、悪魔だよ。君たち人間がいつも全身紫色で変な尖った尻尾とかつけちゃってくれてるアノ悪魔だよ。」
今度はニタリと笑った。表情のバリエーションが多そうだ。
「え、その程度?驚かないの?僕、悪魔だよ?表情のバリエーションとかどうでもいいでしょ。」
心は読まれているようだ。悪魔君は何をしに来たのだろう、聞くまでもなく返答はあるのだろうけど。
「なんとねー、君は選ばれたんだよ!天使軍と悪魔軍による鬼ごっこの参加者に!」
それから長々と説明が続きじゃあ3日後にね〜と言った後またニタリと笑った、と次の瞬間には悪魔の姿は無かった。
「殺し合い...」
言葉に出してみたもののあまり実感は湧かなかった。
(今日はあまり仕事に身が入らなそうだ。)
しかし行かなければ生徒たちに何を思われるか分かったものではない。少し自習の時間を増やせば生徒は喜び私も休めるからウィンウィンではないか。
「悪魔、いますか?」
いないだろうとわかっていても少し呼びたくなってしまった。シンとした部屋の中に私の声だけが悲しく響きその声が消えようとした瞬間、悪魔は驚いたような顔で私の1メートル程前に現れた。
「え?なになに?寂しくなっちゃった?僕に会いたかったの?」
本当に来てしまった。別に用事がある訳でもなかったのでお引き取り頂こうと思う。
「えー、それは酷いよぅ。まぁ伝え忘れてることがあったからちょうど良かった。僕は君たち参加者にしか見えないんだ。」
なんとなく想像はついていた。こいつが悪魔だということはもう受け入れるしかなかった。
「悪魔、殺し合いを一般の人に見られたら警察に通報されたりするんじゃないの?」
「あー、それに関しては神さんの力でカーソルあり同士の殺し合いについては当たり前に起きる現象の一部として認識されるようになるんだよ。もちろんカーソルのない人を傷つければ別だけど。」
「そうなのね。仕事の日と重なってるんだけど、どうすればいい?」
「普通に仕事に行っていいよ。まぁ敵は殺しに来るけどね。大丈夫、周りの人間に危害を加えるようなやつは選ばれやしないさ。」
子供に殺し合いを見せるのというのか、この悪魔は。
「大丈夫どうせ部外者の記憶には残らないから。まぁ子供が参加者に選ばれてたら、別だけどね。」
そう言って悪魔はニタリと趣味の悪い笑みを浮かべた。
「じゃ、3日後な。ちゃんと準備しておけよ。」
次の瞬間、悪魔は私の前から姿を消したのだった。
「準備、か。なにすればいいんだろ。」
天井のシミを見つめて私は呟いた。
それから時計に目をやるともういつも出発している時間から10分ほど過ぎている。
私は急いでカバンを掴み家を飛び出した。
GAME ポム @hanayama_tonakai523
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