近くで手軽だからといって

 あこがれるじゃないですか、同じ部活の恋人。

 部活の帰り道で自転車を二人乗りして買い食いして河原でだべってひたすら甘く。

 女子校のとある武道部に所属していた私の場合は、そこに入ってきた同期がそれで。

 私が好きだったのは、彼女の肩書。

 「同じ部活の同期でふわふわな服が似合うおしゃれで少し大人びた女の子。」

 私から見た彼女はそれ以上でもそれ以下でもないと思っていた。私は彼女の記号を見ていただけで、別に中身なんてどうでもよかった。ただ、そこにいて手が届きそうだから恋人にした。それだけ。


 はじめはスキンシップの多い人だなとしか思っていなかった。私の、中高一貫はじめの3年間の女子校生活で培われた女子に尽くす心、十中八九華奢とは言われない体に蓄えた体力を持つゴリラには、共学の3年間を経て高校から入学してきた彼女は全く真逆の存在だった。

 小柄な身長、ふわふわと整えられた髪、細く白い手足、ドジで愛らしいふるまい、全てが未知の生物に見えた。

 私たちゴリラの意思表示はドラミングのように大口開けて手をたたいて笑うなど蛮族の行動に統制されており、彼女のように少し高く鼻に抜ける甘えた声で話す姿勢が新鮮に輝いて見えていたのはきっと確かだ。

 女子校ならではの悪ノリで、育成されたゴリラたちは蝶よ花よと「女子校女子」から力仕事を取り上げ、繊細な作業をかわりにやってもらうように、男性性のようなものを受け持つ風習や感覚があった。あったと思っている。あったと言ってくれ。あった。多分。というかおそらく女子校に性別などという概念はなく、みんな一緒で対等だった。その中で誰がゴリラになるか礼賛の対象になるかはそれぞれの振る舞いが自然に決めていた。みんなそれを受け入れていた。


 そんななか、ゴリラの私が女子校女子と対面すると自然と格好いいふるまいをしてしまう流れが形成されていた。よくあるお互いのノリみたいなもので、別に何とも思っていなかった。すこし性的なことを見せつけるように何でもできる仲だった。毎日一緒に部活から帰っていたし、他愛もない話をずっとしていた。だから適当に、本当に気まぐれで、付き合う?って言ってみて、言った後から格好つけて。しっかり考えてほしいから返事は今度聞くねって濁して。当然答えはYesで。でも部活のみんなや同級生には何も言わず、二人だけの内緒ってことにしていた。

 付き合い始めた記念日の25日には絶対二人で出かけるって決めて、普段も一緒に手をつないで帰って、できるだけ一緒に過ごすようにしていた。

 でも私は彼女が好きなのではなく彼女を記号化したものと付き合っている私が好きだっただけだから彼女の重さや気持ちの熱量に耐えかねて別れを切り出して反論も聞かずに突き放してもういいやって好き勝手やらせていただきました。すみません。


ところでこの話は自分的に若気の至りだと思うのですがいつごろまで覚えておかないといけない話なんでしょうね?

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好きだった人の話 きゃたぴらのつじ @middles6113

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