第5話 資格の時代 ②
「マスター、一杯」
見ると飲む前からふらふらとした態度である。
「お客さん、今の様子だとお酒は体によくありませんよ」
そうマスターが伝えると急に若者は激昂した。
「何でも何でも資格って。
資格がないせいで、好きな人には付き合う前からフラれ、就職したい憧れの仕事には最初から申し込めもしない。今の資格のない俺だけでなく、将来の成長を信じてくれよ…!
こんな俺はここで酒を飲む資格さえないのか…」
若者は泣き崩れた。さらにつぶやく。
「あぁ、誰か資格に関わらずに俺を人として見てくれないかな……」
マスターは思わず若者の肩に手を置いた。するとカウンターの端の方で一人飲んでいた男が叫ぶように言った。
「そうだ…!それがあったか。いや、私は政府で新しい資格についてアイディアを出す仕事をしているのですが今の段階ではアイディアが出し尽くされ困っていました。あなたの言う『資格にとらわれない資格』は盲点でした」
そう言い男の手を握りしめた。
マスターと若者は男の顔をまじまじと見つめて渋面を作る。
役人は続ける。
「もし『資格にとらわれない資格』が認定されると発案者のあなたは資格を新たに作成したことで政府からまとまった額の支払いを受けることになります。私も行政官としての資格を失いたくありませんから資格の発案者の資格を奪ったりいたしませんよ」
名刺を彼とマスターに渡すとその行政官は支払いを済ませて水鳥のように去る。
短編集 @moolty
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