その愛は誰がために
帯来洞主
その愛は誰がために
恋とは何だ? 愛とは何だ? 己が満たされればそれで良いものなのか? 正しい恋愛とは? 誰がそれを定義した??
「そのリボン、可愛いね」
様々思うことはあれど、岳は不本意ながら優しい一言を添える。
「ホント? 岳くんに倣って、初めて裁縫に挑戦してみたんだけど……どうかな?」
「うん。とても似合ってるよっ」
「エヘヘ……ありがとう♪」
この疑問が晴れない限り、今の状況はいつか自身を破滅させるだろう――そう考えながら岳は
二人は同じ高校の同じクラスで、恋人関係にある。岳は平凡なただの男子生徒であるが、有栖はクラスで一番の美人と言われており、これまで成績優秀な男子生徒数人から告白も受けている。ただそれでも有栖は岳と付き合うことを選んだ。
「有栖さん」
「なに?」
「実はその……今度の日曜日ヒマかな?」
「え? どうして??」
「友人から動物園のチケットを貰ったんだよ。男友達同士で行ってもアレだから、良かったら使えってね。有栖ちゃんが嫌じゃなきゃ――」
「ヒマだよ! 行こう! 一緒に行こう!!」
「ハハッ………あ、ありがと」
目を輝かせ興奮気味に即答する有栖――そんな様を誰もが見れば可愛らしい羨ましいと思うだろうが、岳には実に苛立たしいものでしかなかった。
「私もね……訊こうと思ってたんだ」
「――と言うと?」
「実は博物館のチケットを友達にもらったんだけど、岳くんと行けばって言われて渡されたの。岳くんがもし良かったら……」
岳の中で一瞬、不安が過ぎる。もしやと思いながらも、満面の作り笑顔で応えてやった。
「行こう! 是非行こう!」
「アハハッ、即答だね♪」
(チッ、クソがよ……)
岳が斯様に有栖との交際に苛立っているのには、いくつかの理由がある。
「あっ、岳くん見て!
「っ――」
まず一つ目の理由は、視線の先にあった。公園の奥側にあるベンチに、他クラスの
「二人とも仲が良いね。似合いのカップルって感じ! 私達みたいに!」
「っ……!!」
この二人も、岳達と同じく熱々のカップルだ。
「おっ! 岳じゃねぇか! おーい」
「あら、有栖ちゃんも一緒なのね。偶然~♪」
しかし岳にとって、それはあまりに耐え難い光景であった。
「よう……恭介」
「こんにちは凛さん♪」
何故なら、岳はゲイだからだ。岳にとって有栖などどうでも良く、恭介のことを深く愛している。自分以外の人間と楽しそうに話している恭介を見ると、岳は嫉妬に狂ってしまうのだ。
「何だよお前達もデートか? お似合いのカップルだな」
「よーし、じゃあこれから四人でダブルデートをしよっか!」
「あっ、それいいね! 何処行くー?」
「……………………」
「何だよ岳、ノリ悪いぞ〜?」
「そ、そんなことねぇよ!」
そしてそれは恭介も知っている。恭介もゲイであり、岳を愛している。相思相愛という奴だ。
それでもまだ岳は苛立っている。
「あっれー? 有栖ちゃん、そのリボンどうしたの? カワイイー」
「エヘヘ……裁縫に挑戦してみたんだ」
何故なら目の前でイチャついている有栖や凛も、互いを愛し合っている。レズビアンなのだ。
この場には、ゲイとレズ――男と女の同性愛が成立している。ただ可笑しいことに岳は有栖と、恭介は凛と交際している。
この奇っ怪な状況が、何より岳を苛立たせているのだ。
「そういえばよ岳。俺が渡した動物園のチケットで、デートのお誘いは成就したか?」
「……あぁ。したよ」
「よっし! じゃあその時は俺たちも付いて行くぜ。これ以上にないリア充カップルを演じてくれな」
「ところで有栖ちゃん。私が言った、博物館デートのお誘いはどうだった?」
「うん♪ オーケー貰ったよ!」
「やった! じゃあその日も私達合流するから! そのままラブホとか行ってもいいんだよ~?」
「ちょ、ちょっと凛ちゃんってば! 恥ずかしいよ……」
そう、岳以外の三人……愛する人を異性に盗られているというシチュエーションに置くことで性的興奮を覚えている。
動物園のお誘いも、博物館のお誘いも、双方の愛する人がそのシチュエーションにいるかの様に観察し、興奮するために用意された予定なのだ。
(クソ……ほんとクソ。何なんだよ、この変態どもはぁぁぁ!!)
岳はただ恭介を愛したいだけだった。それなのに偶然にも性癖が重なったことで不道徳な恋愛を強いられるのが、苦痛で堪らない。
岳は心の中で叫ぶ。恋愛させろと。
その愛は誰がために 帯来洞主 @tai-rai
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