アホな西条と親友の最上(もがみ)「登校中に曲がり角で魔女とぶつかったんだ」
ばんがい
第1話「登校中に曲がり角で魔女とぶつかったんだ
今日一日が本当に良い日かどうかは夜眠る直前までわからない。だけど人は、一日の途中で今日は良い日だとか悪い日だとか言う。それは人が勝手に予兆を感じているからだ。例えば朝の占いが一位だったとか夢見がよかったとか黒猫が前を横切っただとか。人それぞれに予兆や予感がある。俺の場合はホームルームの前だ。まだ担任がやってこない教室でのあいつの様子で今日が良い日かどうかは決まる。
「聞いてくれよ最上!大変な事が起こったんだよぉ」
いつも通りの西条が口からつばを飛ばす勢いで俺に話しかけてきた。こいつこそが俺にとっての朝の占い。一日を良く過ごせるかどうかを決める男こと西条だ。入学式で目をつけられて以来、なぜかいつも話しかけてくる。そのせいで周囲からは「西条係」などとあだ名されるようになってしまった。こいつが朝から俺に大声で話しかけてくる日はとにかく疲れる一日だということになる。はっきり言って無視したい。
「なんだよ西条。授業始まるぞ、さっさと席につけよ」
「実は今日登校してる時のことなんだ。うっかり寝坊しちまった俺は慌てて家を出たんだけど、その途中で曲がり角を曲がろうとしたところで……」
いつも通り西条は俺の話なんて聞こうともせずに、話を続ける。
それにしても、随分ベタな話だな。
「そこでぶつかったのが魔女だったんだ」
違った、かなりの急展開だった。
「ぶつかった魔女が言うんだ。ヒーヒッヒ一体どこをみて歩いてんだい。よくも私にぶつかってくれたね。お返しにあんたへ呪いをかけてやろう。そういって俺に呪いをかけてきたんだよ」
西条はヒーヒッヒの部分だけ変な声でしゃべった。おそらく物まねだったのだろう。本人を見たことがないので、もちろんどれくらい似てるのかなんてさっぱりわからない。
「はぁ、さっさと席に着けって言ってるだろう西条。それで?病気にでもなったか?カエルに変えられたか?ずっと眠り続けるとかだと静かになってくれてうれしいんだが」
「いやいや、そんなんじゃない。実は呪いのせいで今の俺は追加で持ち物が持てないんだ」
ロープレっぽいな。そっち方面の呪いなのかよ。
「ということはお前手ぶらで学校に来たのか。授業どうするんだよ」
「安心しろ。机の中に入れっぱなしだ。筆箱も含めてな」
むしろかばんに何が入ってたんだよ。
「まぁそれは別にいいんだ。話はこれからなんだが……。その前に、どうもお前は俺の話を信じてないみたいだな。そこでだ、ちょっと小銭貸してくれないか。」
「唐突だな。もちろんいやだよ。なんでお前に金を貸さなきゃいけないんだよ」
「そうじゃなくて、呪いが本当だってことを証明するためなんだから。一瞬だけだよ。いいだろう?」
しぶしぶ俺がポケットから10円玉を出して渡すと西条はそれを手の中に握りこんだ。
「今確かに手の中にあるよな?よく見てろよ。ほらっ!」
そういって手を開くと10円玉は見事に消えていた。
「どうだ最上!装備ができないのに無理やり持とうとするとアイテムが消えちまうんだよ!」
「ただの手品じゃないか。いいから返せよ10円」
「安心しろ。持てなかったアイテムは元の場所に戻っている。つまり、お前のポケットの中にある」
そういってこっちを指さしてくる西条。どや顔がうざいが、とにかくポケットを探ってみると確かにそこにはさっき渡した10円玉が入っていた。
「どうだ最上!これで俺が呪いにかかってることがわかってもらえたか?」
そう言ってこっちを見てくる最上の顔はとにかく自慢気だ。
「いい加減うざいよ西条。お前のウソもその後の手品も」
「おいおい、まだ疑ってるのかよ。本当に呪いなんだって。どうだ?俺が可哀そうだろう。俺は今日一日、持ち物を一つも追加できないんだぞ」
「……だからなんだよ」
「購買でアイテムを手に入れられない俺に弁当を分けてくれないか?」
お願いっ!と両手を合わせて頼んでくる西条に今日一番のため息が漏れた。
「はぁ、お前は本当にくだらないな」
今日提出の宿題もあるというのに西条が気にしてるのは昼飯の事だけだ。
その後も西条は魔女の話と昼食がどれほど重要かという話を交互にしてきた。
仕方なく俺が弁当の半分を分けてやることに同意すると、あっという間に西条は自分の席へと戻っていった。それとほぼ同時に担任が教室へとやってくる。俺の一日の良し悪しを決めるのはホームルームが始まるまでのこの時間帯だ。ここで西条が何を言ってくるかで決まる。これほど疲れる話だったのに、実は今日のところはいつもよりまだましといえる程度だ。
ちなみに西条が俺の弁当を狙ってくるのはこれが初めてではない。
アホな西条と親友の最上(もがみ)「登校中に曲がり角で魔女とぶつかったんだ」 ばんがい @denims
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