1章3話「店長、戦をする」

店長が久しぶりにもう一つの世界で目覚めると


 賑やかな街ザッセンブルー自治区は別の賑わいを見せていた。


 異常を知らせる鐘の音ががなり続け、

 窓から見える景色は灰色で埋め尽くされ隣の建物すら見つけられないほどだ。


「店長さん! 街が山賊団に襲われてるらしいです!速く逃げましょう!!」

 と叫ぶミキの隣には先日まではいなかった仲間が増えている。

 

 ストームマウント、マスミの2名が増えているのだった。


「やっとお目覚めかィ…?こっちは初めてなんだからリードしてくれないとねェ…?」

 マスミは悪戯な笑みを向けてくる。

 

「こちらではストームと呼んでくれ、この状況の説明は後でするからとりあえずこっちへ」

 ストームは扉と反対側にある出窓を指差す。

 

 四人は脱出を急ぎ街の裏手に広がる森の中窪んだ土地を切り拓いた一帯に集まる今回の避難民とひとまず合流した。

 

 ストームはある程度ここで顔がきくようだ。

 状況が掴めない店長にストームは説明し始める。


 ザッセンブルーギルドは草龍という賊に襲われたということ。数はおよそ騎士100に対し賊が500ほどでリーダーは草嶽(そうがく)という男らしい。


未明に襲われたということもあり気付いたときには周囲は煙の海だったという人々ばかりで何もわからない。

 

 店長は昨日まで平和だった街が目の前で戦場となった事に呆気にとられていたが、もう一つの疑問を口にする。


「そう言えば狭山さんは? 合流する予定だったはずだけど」

 店長の疑問にやれやれというモーションでマスミが答える

「あの娘はここからかなり西にある港町で傭兵部隊やってるんだと。今ダッシュでこっちに向かってるってよ」

 

店長は腕組みをして、深く考えるように呟く。

「それは残念だけど今回の戦いには参加できそうにないな…」


「参加するんですか!?」

予想外の店長の言葉に呆気にとられる3人、

 

――――――――


同時刻

某所


東に向かい馬を駆る三人の騎士がいた。


一人は長い黒髪をなびかせ純白の鎧に包まれた女性騎士。

後に続く二人は赤髪の男女の革鎧を備えた騎士だ。


 その前方500メートルほど先の街道沿い崖の上

3人の野蛮そうな男はいつものように崖に挟まれたこの一本道を通るプレイヤーを監視していた。


「おお?今日のお客様やでぇ。騎士様3人組いらっしゃいませー」


 ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべ男たちは側に置いてある鋼の戦斧を手に取る。


「ようやく試し切りができるのぉ…ここまで何人ものお客様相手に商売してようやく手に入れた鋼装備楽しみやわぁ…クヘヘ」


「ほないつもどおり準備するでぇ」

 淡い水色の光に3人は包まれ、雄叫ぶ。

「「「おおおおお!!」」」


 三人は体格が2倍ほどに膨れあがり、ステータスが大幅に上昇する。


「イクゾ」

 街道を塞ぐように陣取った。


 騎士たちは50メートルほどの距離でソレらを認識した。

「猫隊長、賊が街道を塞いでいます。」

 

 赤い髪の女のほうがそう言うと男の方が槍を構え、先方を駆る隊長に並び具申する。

「隊長、ここは私達が引き受けます」


逡巡の余地なくして隊長と呼ばれる騎士は

「私一人で十分。速度をそのままついて来い…」

とだけつぶやき速度を上げる


「ツッコンデクルノカ?」

族たちは腕に力を入れその斧を振りかぶる。


「ナナ、相手は斧だからいつものようにお願いね…」

 戦闘態勢の獣たちに対し騎士は落ち着いた様子で馬の鬣(たてがみ)をそっと撫でて語りかけた。

 そして速度をさらに上げた騎馬、彼女は手綱を離し、ゆっくりとその背に立ち上がる。


 後続の二人は着いていくのがやっとだったがその戦技を目に焼き付ける。


 「パーソナルスキル…騎空?(エアライダー)」 

純白の鎧は過ぎ去る一迅の風が如く、乗っていた騎馬を置き去りにし男たちの目前に浮いている。

 そして3度だけ突く。一人ずつ正確に、その斧だけを。


 賊たちは反動で吹き飛ぶ中、白銀の女神をただただ眺めていた…傷一つない彼らだったが、その女神一突きは心を正確に捉えていた。


そして空を舞う彼女をしっかりと騎馬は受け止め何もなかったかのように一行は進軍を続けた。


―――――――――

 事件から3時間が経過した店長たちは奪還部隊に参加し軍議に加わっていた。


 騎士のザッセンブルー騎士団の数名の逃げ延びた兵を中心とした部隊だったがその数の少なさに時間ばかりが過ぎていた。

 机上には街の地図が広げられていたが敵を示す赤い駒が目立つ。


 「やはり、残存した戦力、この程度では…」

 頭を抱える年長者と見える老人は頭を抱えていた。


 重々しい空気の中店長はゆっくり慎重に口を開く。

「確認したいのですが、街の奪還が目標ということで間違いないですよね。でしたら私はそこまで難しくはないと考えています」

一身にその場の全員の視線を受けることになり店長は少したじろいだ。

「君、それは本当か」

テーブル奥の代表者は店長に問う。


「はい。私から一つだけお聞きしたいのですが、皆さんは草嶽という男、聞き覚えはありますか?」


 出席者たちは互いに顔を見合わせては首を横に振る。

「それが分かったらどうなるんだ」

若い男は店長の次の言葉を求める。

「私は一つだけ敵に情報工作を行えれば成功確率は90%と考えています。しかし、それは私だけでは難しい…」

 店長の言葉にその場の全員が期待の眼差しを送る。

「いったい…どのような…」


 店長は作戦の要を掻い摘んで説明すると、全員とまでは行かなかったものの賛同を得ることができた。

 他に策もないということで実行へ移ることとなる。

――――――――


 軍議は一区切り付き作戦準備が始まると一番奥に座っていた男がゆっくりと片足を引きずりながら店長の元に来るとこれまたゆっくり頭を下げた。

「私はこの街の副代表ガイルと言います、この度は知恵を貸して下さりありがとうございました。失礼ですが名前を伺いたい。」


「私の…ですか、私はしがないコンビニの店長です」

 言うとガイルはニッコリと笑顔を作り、

「私だって普段はただの飲食店の個人経営者ですから、この戦に勝てたら今度食べに来てください。うちの代表ともぜひお会いしていただきたい。」

 

「こちらこそ、ぜひ」

 和やかな会話の最中唐突に表示されるメッセージ

:システム「ガイルさんからプレゼントが届いています。」

 受け取ると革製の服がだった。それを見て店長はようやく、思い出す。まるで別人のように疲れた顔で忘れていたのだ。

「あなた、服屋の店主じゃないですか!」

 ガイルは失いかけていた覇気を込めて

「ガハハ、内の大事な軍師様が0ゴールド衣装じゃ示しが着かんからなぁ!!もらってくれや」

 店長は肩の力が少し抜けるのと、あの綺麗な街並みを取り戻したいという気持ちを確かめた。

(頼むぞ、ストーム。この作戦の成功はお前にかかってる。)


―――――――

 作戦開始20分前ストームは敵地となる街の路地裏にいた。そして、情報工作を任されていた。

(バレたら百回は殺されるって…こんなの…)

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コンビニ店長、(ゲームで)国王始めました。 猫の手 @neko-note

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