1章2話「コンビニ店長だけどギルドを作る」
店長は悩んでいた。
非常に大きな難題だ。今日は本社から社員とオーナーが来店する重大な日。それはいいのだが、困ったことにその予定時刻が差し迫っているというのに、カップラーメンにお湯を注いでしまったのだ。
店長は悩んでいた。
3分以内に来られたら間違いなくこれは廃棄せざるを得ない。
それだけではなく振る舞うためのお茶菓子は誰かが食べたのか切らしている。
こちらの問題も重くのしかかる。店長がここまで切り抜けてきた修羅場は数あれど今日ほど絶望した日はない。
「仕方ない、ここはバリカタ戦法!」
と1分しか経っていないラーメンに手を伸ばすと事務所の扉がガチャリと開く。
間に合わなかった
深く扉に向かって最敬礼をしながら入ってきた人物に挨拶を述べる。
「本日はわざわざお越し下さりありがとうございます。どうぞおかけください!!」
(さよなら、おれのカップ雷麺 黄金の塩味
税込み216円…)
「お疲れさんでーす。家の鍵忘れちゃったんで取りきただけっす」
間延びした話し方、明らかに予定した来訪者ではないことに気付き、店長は顔を上げる。
バイトリーダーを務めている嵐山(あらしやま)だった。
「入るときに一言言えって言ってるじゃないか…俺の渾身の挨拶を返してくれよ」
「いやーすみません、いると思わなくて」
この男嵐山はこのコンビニさいたマートでバイトリーダーを務めている学生だ。
それなりの学歴だが困ったことに卒業危機を抱えている宙ぶらりんな男だ。
「じゃ、失礼しまーす。」
嵐山はそそくさと出ようとする時、店長の幼少期から無駄に衰えぬ視力は彼のスマホが映し出す最近よく縁のあるゲームを見逃さなかった。
しかしその奥に見慣れた白塗りの営業車も見つけたため優先事項は上書きされた。
さらに最下層にあるカップラーメンは当然後ほど廃棄された。
その夜日報を書きながら店長は動画サイト等で例のゲームについて貪るように調べていた。
その中で人気ゲーマーは建国なんかをしていて、互いに領土を奪い合い、それを生業になっているようだ。
一日でこの世界では数億の金が移動している。戦に勝てば儲かるが負けたものは躍起になって課金をするから、このゲームの金の動きは止まらない。
こうしている間もこの世界は争いに明け暮れている。
焦る気持ちと、駆り立てられる気持ちが交錯し心のざわつきが止まらない。
昔、親が呆れるほど遊んでいた信長や三国志のSRPG。なんの意味もなさそうなゲームの記憶たちがついぞ忘れていた若き頃の自分を呼び起こすのを感じる。
ゲームの本質はいつの時代も変わらない。
必ず勝者と敗者を産む。重要なことはそれだけ。
過程は尊重などはされない。
ならば、あるのだ。この平和な世の中にだって戦争は。
店長には頼れる人間が片手で数えられるほどしかいないが、この際なりふりは構わないと決めた。
アルバイトたちに緊急招集メールを送ったのだ。
程なくして、最初に来たのはやはりというかなんというか、ミキだった。
そして、昼間も顔を出した嵐山。彼はそもそもシフトなので招集はかけてない。
それ故
「こんな時間に女子高生呼び出して何してんすか」
とあらぬ疑いを受けた。
しばらくして扉の向こうでヒールの音が響く。恐らく武田さんだろう。
「よーっすー!」開け放たれた扉が酒臭い風を運んでくる。
武田さんは競馬、競艇、パチンコ、カジノといくつものギャンブルを股にかけるギャンブラーだ。
今日も勝ったのか景気よくミキにお土産を振る舞う。
あと一人狭山さんという女性がいるのだが、恐らく今日は来ないだろう。
「で、用ってなんだぃ?」
武田さんは単刀直入に切り出す。
店長は探り探り言葉を選びながら話し始める。
「今日は急に呼び出してすみません。一人来ていませんがここの5人でゲームを始めませんか」
「そんなことで呼び出したのかぃ。女を誘うならもうちょいマシな冗談考えな」
武田さんが今にも帰ろうと扉まで行ったところで扉向こうでドタバタと物音がした。
武田さんが開くとそこには辺り一面に髪の毛が散らばっている…
と思ったら件の狭山さんが転がっていた…
そしてその場に居直って
「…もしかして、KoCですか…?」
彼女の声は初めて聞いた店長だったが、どうやらキングオブコモナーの別称まで知っているらしく興味津々の様子だった。
そして5人が揃った。
初めての会合は武田さんに説明するところから始まったが、いつの間にやらノリノリだった。主に金の話しをしたあたりから…
改めて、店長は、さらに本題を切り出す。
「この5人でギルドを作りませんか」
賛成賛成!と女性3人(主に武田さん)は乗り機であるが嵐山だけは首を縦に振らなかった。
「このゲームは素人と遊ぶとリスクがあるんで…」とのことだ…
実際のお金が動くとなるとこれは投資だ、慎重にならねばなるまい。
「何これ…見たことない装備!」
ミキが声を上げる
「カッコいいじゃーん?」
武田さんも続いた
どれどれと覗いた嵐山は息を呑んだ。
「ランクAのパラディンだとッ!?しかも武器はランクSばかり…なんだこれは…」
「αテストからやってて…それで…」
狭山は恥ずかしそうに言った…
「ぜひこちらからよろしくお願いします。」
嵐山は頭を深々と下げた。
そこからはトントン拍子だ。
武田さんはマスミと言うアカウントを作り、狭山さんはねこポストと言うランクAアカウントがあり
嵐山はストームマウントというなんとも愚直な名前だったことを確認し
彼らはギルド「SITMar」の旗を掲げた。
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