第188話「逆転憑依」


 ******

 

 アンキャナーとヤト、この二人を神妙な顔で見守る憑依体が居る。

 それは二依子である。

 

 彼女は半壊していたボディを取り換え、新たな軽量二脚ロボのプラモボディをストックから出して交換。

 その工程を行い、収納ボックスから出てきた彼女の前に二人の影があった。

 

 (……?)

 

 ここでの二依子はアンキャナーとヤトは黙っているが "何か面白いやり取りしている" 様に見えて仕方なかった。

 だが……そんな事よりもファントムドローンの構造の説明が興味深く、気になってドクやプラモ屋店長の話に注目していた。

 再びファントムドローンの仕様についての中継が流れる。

 

 「今、ハッキングにより地下帝国はオンライン状態を切ることが出来ない、故にディルムンのサーバーは……以前このバトル状態を維持させられている」

 「つまりこのゼウスタイプが起動する条件が揃っている、このファントムドローンは亡霊のエンジンを積んだ"人間"の憑依アプリによる操作ドローンと言うのがこの解析の結論だ」

 

 この報告はユナが大いに困惑した、そして彼女はその困惑の理由を言葉で語る。

 

 「それじゃあ……未来霊たちはみんな"人間"ですって言ってるようなものじゃ……」

 

 だがここでユナにある記憶が呼び起こされる。

 以前に水盆で浮かんだ未来の自分が "もう売られて無くなっていた札を何時入れ換えた" かがユナの頭の中でずっと疑問になっていたのだ。

 だがここで疑問が晴れる。

 

 「つまり未来霊は、始めから人間の中に入り込んで……え、あれ? え、まさか? 」

 

 そう、気が付いたのだ!!

 

 "未来のユナ"は始めからユナの中にずっと潜んでいて、高度なナノ霊糸術を使って"札"を造り上げ……

 現在のユナの意思を"クマ"に保存して……

 自身に何かあった時に"後に託す"様に仕込んでいたのではないか?

 

 ユナは無性にこの戦いが早く終わる用に祈りたい気分になった。

 一刻も早く未来の自分に問い詰めて、知っている全てを聞き出したい……

 そう言う衝動がユナを突き動かしていく。

 

 「紀伊ちゃん……コイツ等、早くやっつけよう!! 逃がしたらきっと、人を殺して亡霊に変えて戦力を増強して来る」

 

 「わかって居るのです、ですがこのファントムドローン全部が"陽動"とも見てとれるのです……」

 

 紀伊は何か勘繰った様子である、そして結論を語った。

 

 「つまりこの戦いの裏で……」

 「「 "人間"の部隊がこの地下帝国に対し、攻撃準備をしていると見ているのですよ 」」

 

 「 !! 」

 

 ユナは紀伊が語る結論に驚愕する、人間対亡霊……最早結果は見えて居る。

 ……亡霊は人間には勝てないのだ!!

 

 ******

 

 (ヤトちゃん、僕はクハンダーとの会話でちょっと見誤った事が有るんだ……)

 

 アンキャナーはヤトに語る事、それはクハンダーに煽り散らかし過ぎてキレられた事を思い出していた。

 

 ……(百六十話抜粋)

 

 アンキャナーはこの国の中枢を指すと、高らかに語る。

 

 「霊体のまま飛び出し憑依し、肉体(オリジナルボディ)は眠りに付き、数千年の長きに渡る"小さな繁栄"を始めるのだ......」

 

 ……(抜粋終了)

 

 (彼等はずっと機械的なプログラムであると、てっきりドローン兵器の一部であって、ここでアップデートの為にデータを収集しに来ただけだと思ってた……だが違った)

 

 アンキャナーはヤトに確信を持って語る。

 そして、最もおぞましい事実が行われた可能性を示唆した。

 

 (彼等がどの様に時間を超えて来たかは置いておいて、超えて来た所で彼等を留まらせて置けるデータサーバーはきっと窮屈だろう)

 (その上……活動もかなり限定的だ、ロボティクスの普及はまだだいぶ先で、技術も進んでない)

 

 アンキャナーは画面を指差して言う。

 

 (今攻撃しているヒト型ロボでさえ、未来のロボティクスに比べたらヒトとサル位の差が有り)

 (せっかく未来から来ても技術向上まで眠って待つ必要性が出てしまい本末転倒になるだろう)

 

 (よって……彼等は)

 

 (憑依アプリを"逆転"させて……)

 

 ("人間の脳に受信させる"事にしたんだ)

 

 (人工的に産み出されたデータ霊体だからこそ、出来る芸当だと思われるよ)

 

 アンキャナーの憶測を聞いてヤトが驚き、そして思った事を口にする。

 

 (データ霊体のクハンダーを皮切りに、現地で人間に霊体を受信させる霊糸ナノマシンの様なモノを入れてしまえば、データ霊体以外の未来霊も受信出来ると見ていいの?……)

 

 ヤトの指摘を聞いてアンキャナーは答える。

 

 (そう、彼等の国がこの時代でも成立するんだ……シンギュラリティポイントを早めて"大崩壊"を起こすのだと……)

 

 そんな会話をヒソヒソと交わすアンキャナーとヤト。

 だが……その会話の間を入って来る存在が居た、そしてアンキャナーの前に現れてゆっくりとした声で彼女は言う。

 

 「情報の共有をしませんか? ……時・空・警・察さん」

 

 怖いもの知らずなのか、それとも除け者になってるのが気にくわないのか、二依子がボディを付き出してアンキャナーの目の前に居座り、後ろの霊体がニッコリ微笑んでいたのである。

 

 

 

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走る方舟の憑依玩霊達(ファントムズ) (旧タイトル 方(匣)舟のファントムズ) 丸ーニィ @raksas333

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