第187話「発覚」


 ZPDアムンが悶える様に蠢く、スカラベを模した下半身部分から強力な霊力漏れを起こし、不安定な飛行状態を見せる。

 

 「ざまあ見ろじゃ! こやつ間抜けにも"対人霊力のまま"、ワシの霊力の突きをモロに受けおったわ!! 」

 

 笑うとポーズを決めるヴァリアントドーマン。

 ……すると様子を見かねた迷彩服の男達がやってきて銃を乱射し始めた。

 

 「ひょええ!!! 小笠原!! 逃げるのじゃあ!! 」

 

 さっきの威勢も吹っ飛ぶ勢いで頭目のヴァリアントドーマンと黒服小笠原は一目散と逃げ出したのである。

 

 「頭目様!! こちらへ!! 」

 

 何処からか接収したのかバイクを乗りつけてきた小笠原は、跨がりエンジンを吹かせ走り出し、逃げながら携帯をかける。

 

 「聞こえるか斎藤、こちら小笠原、ヴァリアントドーマン回収成功した!!」

 「いや……なんで生きてるって? 頭を撃たれたけど、頭蓋骨を滑って大事に至らなかったんだよ!! そんなことより集合地点を指定してくれ!! 」

 

 携帯の向こう側で、小笠原の無事を喜ぶ斎藤達の声が聞き取れる。

 そして、以前に頭目が術をかけた事で助かったと言う話が持ちきりである。

 ……だが、当の頭目本人はと言うと。

 

 「え……何それ怖……」

 

 ……と、思わぬ術の効能にビビっていた。

 気を取り直して頭目が叫ぶ。

 

 「陰陽寮本部に凱旋するのじゃ! 急げ!! 」

 

 バイクの荷台にあったヘルメットボックスに入ったヴァリアントドーマンの頭目が小笠原に指示、頭目達は本部に向かった。

 

 ******

 

 こちら地下帝国正門前、ここでは大型のヒト型ZPDヘルケイオス、戦車型ZPDタライオスが交戦していた。

 派手な火炎放射攻撃やミサイルによる破壊行動が目立つ様だが、以前として進軍が緩やかで、余りにも好戦的に見えない位の防戦構えを見せていた。

 

 「おかしいのです……」

 

 地下帝国作戦指令本部、ここでは帝である紀伊主導によるファントムドローン撃滅作戦の陣が敷かれていた。

 電子戦の要であるサーバールームは未だ、バアル・シャマインの捜索で手一杯である。

 そんな中、吉報が紀伊達に届く。

 

 「各員伝達!! 下層ディルムン開催地区にて、大型ファントムドローン二体を撃破!! 」

 

 この報告と共に作戦指令本部が歓喜の声で溢れかえる、それと同時にまた新たな吉報が舞い込んできた。

 作戦指令本部に居た紀伊、紀伊ママ、ユナがこの報告に注目している。

 その報告とは……つまり。

 

 「撃破したファントムドローンから解析した"内部構造の報告"があります!!」

 

 側近の報告に、紀伊が待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。

 

 「今すぐ彼等と中継を繋いで欲しいのです!」

 

 中継モニターには解析しているザジ達のキャンパーメンバーであるドクが姿を見せており、内部の説明をしている。

 プラモ家の店長もこの説明に参加し解析に対し霊力の流れ等を示唆して補助している。

 ドクが説明を始めた。

 

 「結論から言わせて貰うと、このファントムドローンは"ゼウスタイプファントムドローン"と言う型式明記番号を持つ未来兵器ということ……」

 「部品も材質も今の時代のモノの改造品で出来ている、本来のモノより弱体化していると見るべきだろう……だがしかし!! 」

 

 ここでプラモ屋店長が説明に加わる。

 彼は霊力の流れや霊糸回路の説明をする。

 

 「ここを見て貰えるかな? 動力源とも思われる部分、この箱状のパーツは亡霊の霊体を圧縮し過剰に負荷を与え、延々と霊力出させている"亡霊エンジン"なんだ」

 「つまり未来の世界では当たり前の様にこれが運用されてると言うのは……安価なパーツと亡霊の霊体で出来る殺人兵器で、さらに殺した相手も活用出来ると見るべきだろう?」

 「で……問題はこの暴走状態の亡霊には意志疎通なんて出来ない、操作不能だがこれを改善するのが……」

 

 「憑依アプリだ……」

 

 その中継を見ていたのは実は亡霊だけではない。

 ディルムンを未だにログアウトしなかったプレイヤー達も見ていて、二依子やポゼ部の面々、アンキャナーとその従者であるヤトも見ていた。

 

 こそっとヤトに向けて聞こえない位の霊声を出して、アンキャナーは言う。

 

 (ヤトちゃん……今この状況は多分、我々の世界では記録がまともに残ってない事件だから注意が必要だ)

 ヤトはヒソヒソと話すアンキャナーに困った顔で問いただす。

 

 (元々好奇心で来ただけでしょう? 下手に介入してミッションに支障が出たらどうするんですか? )

 

 アンキャナーは首を振ってヤトの問いに答える。

 

 (人類の霊力技術への確信と言うシンギュラリティポイントは、多分50年以上先であるのが本来の見解だ)

 (だが同じく未来から来た奴等、しかもそこまで遠い未来じゃない時間干渉存在がやってきてシンギュラリティポイントを早めている)

 (これは彼等そのものが……我々の求めるデータを持ってる可能性が大いに有る)

 

 ヤトが驚きの顔を見せる。

 霊体の表情がボディの水銀質の上でもわかる位のモノだ。

 

 (なんですって! なんで急にそんな重要な事を!! )

 

 アンキャナーはちょっとキョドって、後ろを向いて語る。

 

 (俺にだって……予想出来ない事が……有るさ!! )

 (だから"事件そのもの"を我々のミッションと合わせて見て良いかなって……)

 

 (ええええええ!! いい加減過ぎだよこのお馬鹿!! アンキャナー!! クソ上司!! )

 

 ヤトが罵るそこにはクソ上司感の溢れたアンキャナーの本来の顔である、のっぺらぼうなまま表現された、キラリと光る謎な笑顔が有った。

 そして勝ち誇った顔で言う。

 

 (だが収穫はあった……彼等は我々が蒔いた"憑依アプリ"と言う技術に食いついたのだ……)

 (お陰でメチャパワーアップしているじゃないか!! )

 

 このアンキャナーの言葉で、一瞬ヤトが固まる。

 そして……

 

 (……って、敵に塩を送っとるやないかい!! )

 

 ヤトちゃんに突っ込みの龍としての才能が開花しつつ有った。

 

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