第186話「ヴァリアントドーマン・フリーダム」


 ******

 

 (ああ、何と言う事か……)

 

 吹き飛ばされたヴァリアントドーマンだったが、病院の外の茂みに落ちる事でダメージを緩和されたようだ。

 以外にも頭目のヴァリアントドーマンは、左腕の破損と一部の装甲パーツの損傷を受けながらも、憑依している頭目の霊体を逃がす事はなかった。

 

 (以前のヴァリアントドーマンのボディを改修に出したので……)

 (最新のプラモデルをベースに代用品としてヴァリアントドーマンSPEC2として仕立ててみたが……間接以外市販品ベースのままにしては中々に頑丈じゃな)

 

 冷静な面持ちの頭目は霊体を少し出して、そのボロボロの代用ヴァリアントドーマンの姿を確認して思う。

 

 (いつか、いつの日か……)

 

 (ワシは姉上に頼られる陰陽師を目指したかった……)

 (だが以外にも、姉上に最も頼られたのは……)

 

 (このプラモデルの憑依している状態じゃった!!……皮肉なものじゃ)

 

 ヴァリアントドーマンの制作の経緯が頭をよぎる。

 

 子供の頃によく遊んだ親戚の兄であった姉の婚約者。

 現在の安倍家党首、彼は陰陽師の才能がほぼ無かったが、術に対する興味は強く。

 プラモデルを動かす為に、わざわざ頭目に蔵の鍵をこっそり渡したりする理解者でもあった。

 

 彼も術で動くプラモデルと言う子供のような理想に加担する共犯者で、頭目は彼の理想の体現に付き合ったのだ。

 そして頭目が蔵の品を持ち出す暴挙がバレた際に、頭目と同様にこっぴどいお説教を嫁から受けていた。

 そのちょっと情けない顔が、頭目の脳裏によぎる。

 

 

 (義兄上、いや……党首様)

 

 (貴方様の弟君、利彰様の暴挙を……私目に止めさせて下さい)

 

 (そして……願わくば)

 

 (皆でまた、姉上のキツい説法でも聞きましょう)

 

 彼女は、安倍利彰のクーデターを姉に知らせなければならない。

 証明するのに必要な音声データを届け無ければならない。

 手遅れになる前に……

 

 

 「この辺りに飛んでいった筈だ!! 探せ!! 」

 

 幾人かの人影が見える、安倍利彰が蹴り飛ばした頭目のヴァリアントドーマンを探しているようだ。

 

 (これはマズイのじゃ、本来ならもう少し考える状況を作りたいのじゃが……見付からずに何とか成らんか……)

 

 頭目が茂みに隠れてやり過ごせるかと様子を伺って居る、だが追っての迷彩服を着た男達は大きな箱を出してきた。

 

 「ZPDドライバーから指示があった、アムンを起動……捜索対象を入力しろ……」

 

 銀色のケースから虫の様な羽を機械で再現した下半身が飛行物体形状のロボット、ファントムドローンが姿を表した。

 

 「ZPD07……アムン、起動する……」

 

 上半身はヒト型に近いロボット、下半身はスカラベをモチーフにした昆虫ロボットと言う異質は見た目のファントムドローンが姿を現した。

 

 (……んなあ!!! )

 

 (なんじゃあ!! あのファントムドローンは!! )

 (鳥の奴の時で見たのとは比べ物にならんぞ、精錬され完成過ぎておる!! )

 

 起動したアムンはふわりと上空に上がると昆虫の様な目の形をしたセンサーを光らせ、暫く停滞した後。

 何かを見つけた様な仕草をすると、霊力を剣の様な武器パーツに走らせて急降下を開始する。

 

 ……目標は、頭目のヴァリアントドーマンである!!

 

 「マズイ!! 」

 

 頭目はその場から逃げ出そうと霊力のブースターを吹かして飛び、茂みを突き進む。

 

 ……だが。

 

 茂みの先に有った木がアムンに斬り払われると、倒木により頭目のヴァリアントドーマンは行く手を阻まれ、アムンに追い付かれてしまった。

 

 「………!! 」

 

 ヴァリアントドーマンの目の前にZPDアムンが詰め寄る。

 頭目はそのアムンの機動性に思わず声が漏れる。

 

 「おわあああ!! 」

 

 間近に見えるアムン自体にセンサーの様な顔が有るが、霊体がやんわり見え隠れしているのか何処か嘲笑っている様にも見える。

 そんなアムンから霊声がする。

 

 「ほお……こんな年代物の玩具に陰陽師が憑いていると、亡霊の真似事とは……何と滑稽な!! 」

 

 ZPDアムンを見てキツく凝視する頭目、そのボディには異様な霊力の流れを感じとる。

 

 (何と……霊体が……二つ?! 一つはとても大きいが、もう一つは……)

 (これは、まさか……!! )

 

 頭目の様子なぞ気にもせず、アムンから聞こえる声は頭目のヴァリアントドーマンを面白く見ているようだ。

 アムンが言う。

 

「憑依方法が気になるなあ!! とりあえず……」

 「腕足バラバラに切り取って、胴体だけにして回収しようかあ!! 」

 

 「 !! 」

 

 アムンの下半身のスカラベの様なパーツから伸びた昆虫の様な6本の足、それぞれが超振動カッターの様な刃先を展開させてヴァリアントドーマンに襲いかかった!!

 これには頭目も回避出来る暇も様子も無い、万事休すなのである。

 捉える昆虫足の刃先がヴァリアントドーマンの装甲を削り始めたその時!!

 

 

 

 「「 頭目様ッ!!! 」」

 

 大きな火花がヴァリアントドーマンの前で炸裂する!!

 9ミリパラベラム弾による銃撃がアムンに直撃したのだ。

 発砲したのは頭目側近の黒服……小笠原である。

 

 「小笠原!! 御主、生きとったんか!! 」

 

 パンパンと乾いた音が木霊すると、ガキンガキンと弾く音を立てたアムンが狼狽える!!

 

 「この化物め!!」

 

 カチカチとスカイマーシャルリボルバーの弾切れ音がすると、小笠原は他の迷彩服の敵から奪ったらしい自動小銃を取り出して乱射した!!

 攻撃で狼狽したアムンが体制を立て直して奮起すると……

 

 「対人用戦闘モード……邪魔なお前から切り落としてやる!! 」

 

 変化する霊力の属性、異様な悪意がアムンから放出される。

 

 「"ハルペー"射出!! 」

 

 アムンの上半身の腕からワイヤーの様なものが飛び出し、重りの付いた先端を射出しようと構える。

 

 (小笠原に攻撃する為に霊力を……切り替えたじゃと?! )

 

 頭目が察する、これが先程木を斬り倒した武器なのだろう。

 そう頭目にもハッキリ解るその武器は、"マンイーター"の霊力を帯びた殺人を行える武器だと直感する!!

 頭目の脳裏に大橋の惨状がよぎった。

 

 

 「イカン!! 小笠原!! 逃げるのじゃ!! 」

 

 しかし小笠原は発砲したまま、小さなファントムドローンの仕草など見えてはいない、霊の感知も出来ない人間にはきっと頭目の声も僅かにしか届かないであろう。

 

 「くそおおおお!! 」

 

 頭目はヴァリアントドーマンの残った腕で腰の小烏丸サーベルを抜き、必死の抵抗を行う。

 ここで、しかし昆虫足の拘束が邪魔をしている筈だが……

 

 「ぬう? 」

 

 先程までにボディに食い込んでいた昆虫足のブレードが、ヴァリアントドーマンの陰陽装甲に阻まれ拘束が抜けるようとしていた。

 

 これは霊力の属性変化により、亡霊属性に近い憑依体を攻撃出来なくなった証拠である。

 

 (何か解らんが、好機じゃ!! )

 

 ヴァリアントドーマンがサーベルを振り、昆虫足のブレードを切り払う。

 そして返し刃を構えると……

 

 「でやああああ!!! 」

 

 激しい突きによる一閃!!

 

 ……これはアムンのスカラベに似た下半身の急所に突き刺さった!!

 

 「………ギアアア!! 」

 

 激しく刀身が食い込む!!

 

 大きな霊力漏れを起こすアムン。

 この一撃は、ファントムドローンに贖う最初の一歩となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る