第185話「吐き気を催す邪悪」


 病院の外から乾いた音が木霊する、そしてしばらくして……

 

 音は消えた。

 

 ユナ(未来)と頭目(プラモデルボディに憑依)は警戒を強める。

 そんな中……

 

 「……様……」

 

 「頭目様……聞こえますか? 」

 

 憑依アプリ越しでの頭目の耳に入る声、それは黒服達の一人、斎藤の声である。

 

 「斎藤か?! 一体何が起こっておるんじゃ!? 」

 

 頭目は落ち着いて、憑依アプリの先の黒服達の身に起こった事を訪ねる。

 黒服(斎藤)が答える。

 

 「良く聞いて下さい、頭目様……我々は現在、何者かの攻撃を受けてます……」

 

 「……!! 」

 

 頭目とユナ(未来)に緊張が走る。

 続けて斎藤(黒服)が今現在の相手の特徴等を語る。

 

 「ファントムドローンです……しかもかなりの高性能の……」

 「ですが、小笠原(黒服)はファントムドローンに攻撃される前に、何か"人影"とスコープの反射を発見したらしく、先行して視認による確認を行ったのですが……」

 

 頭目がその報告を聞いて大きく困惑する。

 

 「"人影"じゃと!! 」

 

 ユナ(未来)も表情が強張る、この時代に潜んだ何かと遭遇したと言う戦慄が走る。

 頭目が再び斎藤に問う。

 

 「数は!!? 」

 

 「後に確認されたのは複数の班(複数の三人四人組)、または小隊(三十人)程の人数です……」

 

 頭目の問いかけに答える斎藤(黒服)、声には必死さが感じられる。

 

 「………!!! 」

 

 愕然とする頭目、憑依アプリの上でも焦りを隠せない。

 そして憑依アプリ越しに斎藤との距離が離れている事に気付く。

 

 「斎藤、大谷!! お主今何処じゃ!! 」

 

 頭目から黒服達の安否を確認する声が出る。

 

 「私達は今、小笠原が作ってくれた逃走の機会を逃さず……銃撃の中、車を走らせて大谷と共に奴らの囲いを突破しました」

 「今は病院から離れ、近くの道路を走行中です。」

 「奴らが追っ手のファントムドローンを放ちましたが一度は撒きました、よって頭目様の身体は無事です」

 

 ここでホッと頭目が胸を撫で下ろす、帰る身体が無事なのが唯一の救いある。

 続いて斎藤(黒服)は語る。

 

 「ですが、小笠原はとても救出出来る状況ではありませんでした、私の責任で……ゥッ!!」

 「大谷!! 後ろにまた"アレ"が来たぞ!! 」

 

 ここで斎藤と大谷が敵(ファントムドローン)との交戦を匂わせる声をあげている。

 

 「大丈夫か!! 小笠原は気にするな、あやつにはちょっと"撃たれた程度では重傷にならん"術が仕込んである(気休めじゃが)」

 「今は何とか逃げ切れ!! 生き残るんじゃ!! 」

 

 「はい!! (頭目様最高です) 」

 

 黒服達との交信を終えた頭目に、ユナ(未来)が語りかける。

 

 「頭目さん、いや師匠……」

 

 「"奴等"が、上がって来ます……」

 

 真夜中の病院廊下を歩く複数の気配、もう近くまで来ている。

 ユナ(未来)は窓を開けいつでも頭目が逃げれる様にしている。

 

 ……そして足音が止まると

 

 荒々しく病室の引戸が開かれる!!

 

 ……パシュ

 

 突如聞こえる謎の音、空気で飛ばしたダーツの様なモノがユナ(未来)の肩に刺さる。

 

 「………!! 」

 

 「ユナ!! 」

 

 頭目が倒れるユナを見て叫ぶ。

 薄れゆくユナの意識、だが眠る間際で彼女の意識は大きく揺らいでいた。

 

 (これは! ……麻酔弾……)

 

 ユナへの発砲と共に、病室に黒い目出し帽とコンバットスーツの一団が押し入る。

 そして腕には腕章が見える。

 その腕章は……

 

 "陰陽庁"の腕章であった。

 

 (そうか……これはそういうこと……)

 

 未来の世界ではメサイヤー(救世主)に対する唯一の敵対組織であった陰陽師組織、その基盤でもある陰陽庁。

 敵(メサイヤー)はその組織そのものに先行して、"潜り込み"をかけていたのでは無いか?

 

 ……いや或いは

 

 メサイヤーとは、この時代の陰陽師たちが何らかの方法で……

 

 呼び込んでしまった、"何らかの霊体"のでは無いか?

 

 だがそう確かめようにも、もう意識が朦朧とし始め、ユナ(未来)はまどろみの中に沈んでいく……

 横になって目を閉じていくユナ(未来)の視線の先、プラモデルボディの頭目に向けて……

 ユナ(未来)は念話の様にメッセージを送った。

 

 「頭目さん、その姿(ボディ)のままで逃げて……下さい、私は……」

 

 「この身体が……メサイヤーに奪われるのに……」

 

 「……抵抗して見せます」

 

 「「 !! 」」

 

 頭目の前で、ユナはゆっくりと眠りに付く。

 その様子をワナワナと悔しさに震えながら、頭目は強い霊声で陰陽師達に聞こえる様に叫んだ!!

 

 「貴様等!!」

 

 「一体何の権限でここに来た!! ワシは陰陽師宗家……」

 「党首代行安倍みちかの妹、芦屋みちよであるぞ!! 」

 

 その声を聞いた目出し帽の一団が後ずさるが、一団の奥から責任者らしき男が集団を割って、前に出て……

 頭目のプラモデルボディの前に現れる。

 そして……

 

 拳銃を出して、頭目のプラモデルボディに向けて……発砲したのである!!

 

 「うわあ!! ……」

 

 頭目のプラモデル、ヴァリアントドーマンの左腕パーツが激しく吹き飛んだ。

 そして同時に銃撃の勢いで吹き飛び、部屋の隅に転がる。

 バリアが間に合わなかったと言うこともあり、銃撃によって破壊されたパーツが散乱する。

 

 そしてそれを行った男は、目出し帽を脱いで顔を出して語り始めた。

 

 「ええ解っています、義姉(ねえ)さん……でもこれは"革命"なんです……」

 

 「 !! 」

 

 頭目は、その素顔を見て驚愕する、彼女にとって姉が嫁いだ安倍家に居る義理の弟の顔だ。

 存在は知っていても、面識がなく、過去の写真以外は顔を合わせたことも無い。

 

 そして、過去の写真とは似付かない位に金髪と日焼けタトゥー肌で彩られ。

 チャラさが全開になった姿での対面である。

 

 「お前は……!! 安倍利彰(あべのとしあき)!! 」

 

 頭目の脳裏によぎるのは、ユナ(未来)が語った自身の婚約と、その先の苦労話。

 その婚約の相手が今、目の前に居るのだ。

 そして彼は言う。

 

 「お前等姉妹はこの先、失脚するんだ!! "亡霊との密約共謀の疑い"で、地位を剥奪され更迭される!! 」

 

 彼は高々に手を掲げ、野心を見せつける様にアピールしながら語り始めた。

 

 「そして陰陽寮のジジイ共に、式神なんてカビの生えた札……"俺達が使えない紙屑"よりも、亡霊をエンジンにしたファントムドローンの方が扱い易くて優秀だって証明するんだ!! 」

 

 「「 これは革命だ!! 」」

 

 強い式神を使役出来る頭目達姉妹に地位を奪われた、霊力の無い安倍家の男の革命の予告であった。

 

 「そしてそれを磐石にするため、未来から"ミロク様"を召還する!! 」

 

 突然聞き慣れない言葉である"ミロク様"を語る安倍利彰はベッドに横たわるユナの身体を見て、部下に指示する。

 

 「ユナ受容体に、未来から送られて来たクハンダーTYPEのナノマシンを注入しろ!! 」

 

 「はっ!!! 」

 

 男達がユナの身体を運び出す。

だがそれに反応したのか……


「止めんか貴様等!!! 」



 慌てて頭目がプラモデルボディで止めようと飛び上がるが……

 

 「駄目だね!! 」

 

 頭目のプラモデルボディに、安倍利彰がトゥーキック!!

 頭目のプラモデル、ヴァリアントドーマンは開けてあった窓から、外に向けて吹き飛んでいったのである!!

 安倍利彰は不適に笑う。

 

 

 「時間はたっぷり有るんだ……義姉さん……フフフ」

 

 

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