『たばこ喫煙師』

やましん(テンパー)

  たばこ喫煙師

 二度目の東京オリンピックが終わった後、世界各国からの、厳しい批判がこの国に向けられました。


 曰く『国民のタバコ・マナーが先進国で最低。』

 曰く『社会的な管理が全く未完成で最悪。』

 曰く『あの国に行くと、病気になる確率がぐっと上がる。』


 まあ、一部はデマとか、当時まださかんに闘わされていた『フェイクニュース』論争とのつながりもあったけれど、そこまで叩かれながらも、なかなか社会の抵抗や批判も大きくて、喫煙マナーに関する大きな成果は得られていませんでした。


 ところが、それからの十年というもの、この国の外国人観光客が『半減半減』となってゆき、もう放ってはおけない状況になってきたのです。

 そこで、その当時、まだ総理であった、かの有名な杖出首相は、ついに恐るべき制度の導入を決定しました。

 『喫煙免許制度』であります。


 喫煙をするには、試験を受けて、きちんと『免許』を取得しなければならなくなったのです。


 資格は三種類に分かれていました。

 『第一級 たばこ喫煙師』

 『第二級 たばこ喫煙師』

 『第三級 たばこ喫煙師』


 『第三級』のひとは、国が認定した『独立型喫煙ルーム』でのみ、喫煙が認められます。ルームに入るときには、資格カードをゲートの認証機に読み取らせ、ついでに顔認証でパスしなければなりません。

 また、一回使用ごとに使用料が自動引き落としされます。

 最初の頃は一回、使用料500円でした。


 『第二級』では、さまざまな公共機関や博物館とかホールとか飛行場とかで、設備のきちんと整った『喫煙場所』として、国に認定された『ルーム』が設置されている、その『各種施設の公式喫煙ルーム』でも、喫煙が可能となります。

 もちろん、同じような入室管理が行われます。


 しかし、この二つの資格では、例えばレストランとか、小規模な食堂とか、酒場とか、そうした場所では喫煙が認められていません。


 このような場所では、もちろん客席でそのままでは、喫煙は出来ないので、しっかりした喫煙ルームを作るか、余裕がなければ、『特別席』にある、特殊な『喫煙マスク』をかぶって喫煙するのです。

 この『喫煙マスク』は、排出される物質の無害化を行えるのですが、けっこう大きな『室外機』を設置することが必要でした。

 ただし、10年くらいで、かなり小型化されましたし、単独型のマスクも開発されました。

 おかげで、この小型『喫煙マスク』を被って、屋外の許可されていた場所で、喫煙することも、やがて可能になりました。


 テレビでは、『正義の味方・喫煙マスクマン』が活躍するヒーロー・アニメも流行りました。

 タバコ自体の改良もあったのですが、やはり『美味しくない』と言われてしまい、あまりうまくゆかなかったのです。


 まあ、とにかく、当時は、公式に認可されたすべての『喫煙可能領域』で喫煙が出来るのは、『第一級 たばこ喫煙師』だけであり、ついでに自宅の中で喫煙できるのも『第一級』のひとだけでした。


 実は、たばこのケースも高度化されていて、資格カードを、たばこのケースに読み取らせないと、たばこを取り出すことさえも出来なくなっていました。

 また、このカードは賢くて、どこの場所にいまいるのかを、常に感知していたのです。

 しかもまた、違反を感知する事も可能で、すぐに通報されました。

 まあ、検挙されても重罪にはならないのですが、交通違反と同程度のペナルティーが用意されておりました。

 ただし、もし、誰かを死に追いやったと証明されたような場合は、制度上では、重い刑罰もあり得ました。

 ただ、実例は起こらなかったようです。


 さらに自宅での喫煙には、かつての『防音室』のような、密閉された空間を設置して、排出無害化装置をきちんと据え付けたうえ、国の検査に合格しなければなりませんでした。結構な費用もかかったのです。


 ただし、この『自宅で』という部分が、ものすごい論争となり、国会内で乱闘騒ぎまで起こったのですが、この様子を見た海外から、またまた『大いに軽薄』する視線を浴び、おかげさまで、最後には、ついに首相が押し切る形になりました。


 野党・与党両方の一部議員から、首相の不信任決議が出されたり、逆に喫煙議員たちに対する辞職勧告案が出されたりで、与野党混合の大混戦だったのです。



 ところで、外国からの観光客は、入国に当たって特別の「カード」を請求購入する必要がありました。

 これが、なんと、結構人気になり、カード欲しさに観光に来る人もいたほどでした。

 さらに政府は、沢山珍しいカードを作って、それなりに収益をあげたようでした。

 こうした、国民の奮励努力の甲斐があって、『世界で一番安全な大気の国』と言われるようになり、観光客は最盛期の10倍以上に跳ね上がって、官民あげて一時期大いに儲かったものなのです。

 おまけに、健康にとても良い、空気環境にもなったのでした。


           めでたし、めでたし。


 

 しかし、それも、今は昔の物語で、やがて人類は、核戦争のおかげで、もうあと地球上にせいぜい50万人を残す程度、ほどの人口となってしまいました。

 たばこによる『発がん性問題』どころでは、なくなってしまったのです。

 いま、強烈な放射性物質が、地球全体を取り巻いております。


 結局、もうたばこの大規模な製造能力もなくなったし、まともに動いている政府もあまりなくて、せっかくの精緻な社会制度も、あっと言う間に終わってしまいました。


              なんのことやらやましんさん   おしまい

 








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 『たばこ喫煙師』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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