最終話 おぼろげさんの大ファンですから!
「校長先生、これは昨日この校長室の防犯カメラに記録された映像です」
タブレットの画面を見せられていた校長先生の顔色がみるみる青くなっていく。何を見せられているんだろう。
「櫻丘さんにお聞きします。あなたは昨日、ここで校長先生に何かされませんでしたか?」
「あ!」
そうだ、肩を抱かれたり抱きしめられそうになったりして、私はすごく嫌な気分になったのだ。まさか防犯カメラの映像ってその時のものなのだろうか。
「こ、これは違う。違いますよね、櫻丘さん」
校長先生が大慌てで私に同意を求めてきた。ここで私が校長先生の言葉に
「違うって何がでしょうか?」
「い、いや、だから、嫌な気分になんかなってませんよね? 私は櫻丘さんを慰めようとしただけですから」
「でも校長先生、私を抱きしめようとされましたよね?」
「い、いや、だから……」
「櫻丘さん、つまりあなたは校長先生からセクハラ行為を受けた、あるいは受けそうになったと感じているのですね?」
野中弁護士は淡々と私に確認してきた。それに対し私は深く肯いて見せる。だって嘘ついたらだめって最初に言われたんだもん。
その後の校長先生の狼狽は見ていてスカッとしたほどだった。そして小仏先生同様、厳しい処分を自らに下すことを条件に、私は被害届を出さないことにした。教頭先生はこれらの証人ということで立ち会わされていたようだ。もっとも後で言い分を
館林先生が学校を休んでいたのは、小仏先生の違法行為の証拠を掴むためだったそうだ。過去にも何人か小仏先生によって
「館林先生!」
「うん?」
「ありがとうございます!」
「辛かったね。でも、辛いことばかりじゃないと思うよ」
「あ……」
その時私の目からは大粒の涙が溢れ出てきた。その言葉、もしかして……
「あの、館林先生ってもしかして……」
「うん?」
「お……おぼろげさん……?」
館林先生はにっこりと微笑んで私の頭を軽くぽんぽんしてくれた。
「そうですよ、みかん猫さん」
聞いた瞬間、私はおぼろげさん、館林先生の胸に飛び込んでいた。そうか、この人があのおぼろげさんだったんだ。いつもいつも私を元気づけてくれていた憧れのアマチュア作家さん。こんな身近なところにいて、私のことを見守っていてくれたんだ。
「い、いつから知ってたんですか?」
館林先生は私をそっと抱きしめてくれていた。
「死にたいってメッセージのあと、学校であったことを語られた後かな」
「どうして教えてくれなかったんですか?」
「僕の小説をこれからも読んでほしかったから、かな」
「そんな、教えられたって読みますよ!」
「本当に?」
「だって私、おぼろげさんの大ファンですから!」
そう言って見上げた館林先生の顔は、私だけに向けられた優しい笑顔になっていた。
おぼろげさんとみかん猫 白田 まろん @shiratamaron
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