1-10

 それからしばらくした、朝。

 ああ、今日もいる。

 電車の一番前の車両。その一番後ろの席。

 いつもの席で彼は文庫本を読んでいた。

 私服は白いワイシャツに紺色のカーディガン。そしてジーンズと白黒のスニーカーだ。

 彼の視線がふと上がって、私のと合った。

 すると彼は軽く会釈する。

 私もつられて会釈した。

 ただそれだけで彼はまた文庫本を読み始める。

 あれからまだ一言も話してない。

 それでも、二人の距離はずいぶん縮んだ気がした。

 もう少し縮んだら、お茶にでも誘ってみよう。

 そんな決意をもう何回もしている。

 多分私はこの幸せな時間をあと少し味わっていたいんだと思う。

 そして今日もまた、私はドキドキしながら通勤する。

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恋愛通勤 古城エフ @yubiwasyokunin

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