24*お互いの気持ちを伝え合ったあの日を境に、
お互いの気持ちを伝え合ったあの日を境に、恋人同士になった俺と沙里緒さんには、まず最初にどうしてもやりたいことがあった。
やりたいことというか、行きたい場所があったのだ。
それは、喫茶店。
約束まで交わしたのにいまだ訪れていないことが心残りになっていて、だからまずそこに行くことで、ふたりのはじめの一歩にしようと考えたのだ。
けど、そのはじめの一歩を踏み出すのは簡単なことじゃなかった。
原因はいろいろだが、理由はひとつ。
沙里緒さんが勇者だから。
かつて沙里緒さんが救った異世界の王族(ちなみに銀髪の超絶美少女である)が、勇者と結婚するためにこの世界まで追いかけてきたり。
ディアタナスが懲りずに何度も何度も挑戦してきたり。
その手のトラブルが絶えないのである。
実際、今日は五月の連休、いわゆるゴールデンウィークのまっただ中というやつで、今日こそ俺たちは喫茶店に行くつもりだった。
今日、喫茶店に行って、はじめの一歩を踏み出すことで、沙里緒さんとの関係がさらに加速するんじゃないかっていろいろと妄想――じゃなくて、想像してしまい、なかなか寝つくことができず、ほとんど徹夜状態で、待ち合わせ場所に向かうことになった。
いつもなら家の前で待ち合わせるのに、そうしなかったのには理由がある。
そうした方がデートらしいからだ。
沙里緒さんは俺の身を案じて渋ったが、最終的には、
『わかりました。どこにいても、どれだけ離れていても、今なら煌介くんのことを見守ることができますから』
ということで納得してくれた。
何気にすごいことを言われたような気がするのは気にしない方がよさそうだ。
待ち合わせ場所にはすでに沙里緒さんがいた。
「ごめん。遅くなった」
「大丈夫です。わたしも今来たところですから」
「そっか。なら、よかった」
と、俺が納得していると、沙里緒さんの耳元がキラリと光った。
ホリエスさんが顕現したのだ。
手のひらサイズで。
え、手のひらサイズ!? 見間違いかと思って何度も確認したが、間違いない。
驚く俺が聞けば、どんな形にもなれるらしい。
なるほど。
そのミニサイズのホリエスさんが言った。
「今来たというのは嘘」
「なっ、ホリエス、どうして言っちゃうんですか!?」
慌てふためく沙里緒さん。
どうやらホリエスさんの言葉が正しいようだ。
「本当はどれぐらい前に来てたんだ?」
「え、えっと……」
沙里緒さんの視線が激しく泳ぎ始める。
「よ、四」
「四分?」
沙里緒さんが微笑みを浮かべながら首を横に振る。
「じゃあ、四十分?」
沙里緒さんはまた首を横に振った。その笑みが若干引きつっているように見えるのは、俺の気のせいだろうか。
「え、まさか四時間前だったり……?」
自分で言っておきながら、それはないと思ったのが。
「……え、えーっと」
沙里緒さんの笑顔が完全に凍りつく。
「四時間なのか……!」
早すぎる!
「で、でも、煌介くんとあんなことしたい、こんなことしたいと思っていたら、あっという間に過ぎましたから! だから大丈夫です!」
いや、大丈夫とかそういう問題じゃないような気がするんだけど。
でも、まあ、
「沙里緒さんがそう言うなら、それでいいかな」
俺の言葉に、沙里緒さんがうれしそうに笑った。
ホリエスさんがポツリと漏らす。
「……これがバカップル」
褒め言葉と受け取っておこう。
「それじゃあ、行こうか」
「はい!」
今日こそ、本当に喫茶店に行くのだ。
チラシの有効期限はとっくに切れていたが、それでもこれではじめの一歩を踏み出すのだ。
そして俺たちの仲をいろいろと進展させるのだ!
――なんて、思っていた時期が俺にもありました。
今日こそはと思っていたのに、やっぱり現実はそんなに甘くなかった。
現れたのは恒例になりつつあった|お邪魔虫(ディアタナス)で。
「今日こそ倒してやるのじゃ、勇者よ!」
昨日倒したばかりなのに、よくもまあ、懲りずにやってくるものだ。
しかも、リコルプスが余計な入れ知恵をするものだから、日増しに厄介になっていくとか、最悪だ。
そんなわけで、たぶん、今日も喫茶店に行くことはできないだろう。
いろいろ邪魔が入りまくって、なかなか思うように過ごせなくい日々に腹が立ったりする。
でも、俺は思うのだ。
それでもやっぱりしあわせだ、と。
だって、好きな人と一緒にいられるのだから。
一緒にいられないことの寂しさや切なさを知った今、だから、そんなふうに思えるのだ。
とはいえ、やっぱり、邪魔をするなよ、と思ったりはするんだけど。
ストーカー勇者に愛されすぎて 日富美信吾 @hifumishingo
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