ハンター・キラーのまかないさん

リューガ

ハンター・キラーのまかないさん

 ハンター。

 ドラゴンやグリフォンなどの捕食者の事。

 増えすぎると人間や生態系にさえ被害を与える。

 ハンター・キラーは、ハンターを狩る人たち。

 現代の貴族。

 単にハンターを狩るだけなら他の人でもできる。

 だがそれは、大型の爆弾で吹き飛ばす場合など。

 ハンター・キラーは、もっと繊細な技を使う。

 ハンターの体は利用価値がある。

 例えばドラドンの皮膚や骨、爪は鋼鉄より硬く、高性能の武器や武器として使える。

 僕らが使う木と鉄だけの銃火器や、黒いウールデニムの活動服とはわけが違う。

 肉は珍味として知られる。

 ハラワタの内容物……つまりフンは大きな畑の肥料になる。


 僕はジェイソン。

 ビビッド・コープス。

 がっちり合わせた歯車のシンボルを飾る、ハンター・キラー騎士団。

 その、まかないさんだ。

 仕事場は、超大型4輪駆動の装甲車。

 赤外線を照らして闇を見る、暗視装置もついている。

 輸送車として食べ物やテントランプやレコードなどを積み、空ければ食堂や会議室として使う。

 全面板張りの車内は折りたたみイスと机をだせば、それなりのカフェにも見える。

 そのくらいの自負はある。

 今はそこで、窓からサブマシンガンを撃っている!


「ダメだ! 敵が多すぎる! 」

 運転席とカフェの間には2連装マシンガンの銃座がある。

 ハリーが、銃座の仲間が叫んだ。


 周りは薄暗く深い、杉の森。

 何千年生きているのかわからない大木が、僕らが逃げ込むのを拒んでいるようだ。


 その奥から、銀色の巨大なきらめきがいくつも迫ってくる。

 人型でありながら、人間ではありえないほど筋肉と身長があり、頭から角をはやしたのは鬼か?

 火を吹くライオンの首と、冷気を吹くオオカミの首を持つハンター。

 足の生えた人食いサメのようなハンター。

 肉食だけでなく、明らかに草食の象やサイも交じっている。

 そして、ドラゴンらしきものが、次々に飛び掛かっては火を吹いてくる!

 何でこんなに種類が集まって、しかも群れて襲ってくるんだ!?

 さらに厄介なことに、その種類を確信できない。


 その理由は、この車の後を見ればわかるだろう。

 ハリーが運転していた6輪駆動のクレーン付きトラック。

 くそっ!

 「世界で一番止められない車」というキャッチコピーはなんだったんだ!?

 そのタイヤは、岩の隙間にはまって動けない。

 地図を描いた人は、道の定義がわかっていないに違いない。

 森に返りかけ、岩をヤブに隠した道だ。

 僕の車はトラックを引っ張りだすため、鎖でつないでいる。

 

 トラックの荷台には血をしたたらせて、ハンターがいる。

 鎖と柵によって無理やりたたまれた大きな羽。

 一番上には、とげの生えた長いしっぽが折り曲げられている。

 地上で体を支えたのは、鋭い爪がのびた4本足。

 張り出したあごにナイフのような牙が並ぶ。

 その口は真っ赤な火をふき、1キロ先にも命中させる。

 火の魔法を操る、ファイヤー・ドラゴン。

 でも、それは関係ないはずだ。

 ドラゴンも飛行生物だから、見た目よりは軽いはず。

 それをトラックの積載できる限界、6トン近くに重くする物。

 ドラゴンの剣の切っ先のようなウロコに、切られることなく根を張っている植物だ。


 歯車ラン。

 本来は真っ赤なはずのウロコに、葉をスーツのようにへばりつかせている。

 植物である以上、花は咲く。

 花だとは言われないと、わからない人がほとんどだろう。

 腕や足、胸などに、平たく重なって張り付いている。

 四角い花弁を四方に伸ばす鈍色の花。

 雪の結晶のようにも見える。

 この花は金属を主成分とする。

 その硬さは、防御の呪文を書き込み、僕らの装甲車の装甲にも使えるほど。

 歯車ラン自体は昔から知られていた。

 鉱山に近い土地で、生き物の死骸に生えるんだ。

 だけど、去年くらいから生きている生き物にも生えるようになった。

 生えたハンターが一緒に生活するようになる。というのもよく知られた性質だ。

 植物食も、肉食もいっしょに。

 それをビビッド・コープスの精鋭4人は、強行軍に次ぐ強行軍でようやく、一匹手に入れた。

 そう喜んでいたのに……!

 

 その時、ビビッド・コープスのボス、ミネルバさんがかけよってきた。

 もう50代のはずなのに、今も若々しく、たくましい。

 ファイヤー・ドラゴンのウロコを使った、分厚いヨロイの下からでもわかる。

 背中から、使い込まれた太刀を抜いた。

 自分の背丈より長くファイヤー・ワイバーンの羽と爪を使っている。

 これで荷台のドラゴンにとどめを刺した。

 その太刀を振り下ろすと、トラックにつないだ鎖はあっさり切れた。

 

 同時に、3人の騎士が現れた。

 銃撃を潜り抜けたハンターを、4人で防いでくれる。

 水や氷を使う、青いヨロイのジェニファー。

 武器は変幻と勢いを合わせ持つ片手剣と、打撃力も大きいふくらみのある丸い盾。

 黄色は質量と破壊力を持つ土の色。

 そのヨロイのオティエノさんは、巨大なハンマーで、銀色の鬼を押し返した。


 彼らこそ、真のハンター・キラー。

 ドラゴンを狩った4人。

 伝説の神獣が語る。

 未来から過去に向かって流れる、現在を形づくる情報をとらえ使う力が、魔法。

 通常の物理ではありえない現象を起こせる。

 それは、動物たちも同じだ。

 4人の騎士の乗る馬は、一度に何百メートルもジャンプできたり、水上でも走れたりする。

 また、炎の魔法を持つファイヤー・ドラゴン。

 ハンターの体を使った装備は、使用者が魔法を使えるなら炎の魔法を与えてくれる。

 僕にはそんな運は訪れなかった。

 ハンター・キラーの武器を、持ち上げる事すらできない。


 緑のヨロイは風。

 武器は長い、やり。

 その穂先は目にもとまらぬ速さで、はるか遠くの鉄塊さえ貫く。はずだった。

「ホープ? 」

 彼女は苦しげに体を丸めながら、車の後ろに馬をつけた。

 そこのドアを開けると、ホープの体が転がり込んできた。

 やりが道におちた。

 馬は、しつけられたとおり、ついてくる。


「おい! どうした!? 」 

 抱えた手にべっとりとした感触。

 血の暖かさがべっとりと広がる。


 外から、ミネルバさんが叫んでいる。

「急いで! 逃げなさい! 

 それと、航空支援を申請しなさい! 」

 そう言って駆けだした。

 前にいるもう一台の装甲車に指示するためだ。

 あっちの役割は火薬庫。

 マシンガンの銃声に続き、森から爆音が響く。

 グレネード・ランチャーでも使ったんだろう。


 僕はホープの体を床に横たえ、応急処置セットを取りに行く。

「傷はどこだ!? 答えられるか?! 」

 ホープの意識はしっかりしていた。

 カブトと胸当てを外そうとしている。

 僕が外すと、きれいな顔のアゴから頬にかけて裂けていた。

 胸当ての下は、切れてはいないが内出血している。

 とっさに避けたのだろう。

 傷自体は深くない。

 でも、まともに立てないという事は、脳が揺さぶられたのかもしれない。

 車はすぐに動き出した。


「電信は俺がやる! 」

 屋根からハリーが下りてきた。

 僕らを見て息をのむ声がする。

 それでもボスからの指示どおり、隅にある電信席に飛び込んだ。

 電波を点や線に変え、その組み合わせで文字を伝える、あれだ。

 外ではオティエノさんとジェニファーが守ってくれている。

 僕は消毒のアルコールをガーゼにとり、ホープの傷をぬぐった。

 毒らしきものは、付着していないな。

 彼女は痛みが強まって顔をゆがめるが、それでも逃れようとはしない。

「ねえ、私から連絡が来なくて、ヤキモキした? 」

 痛々しいほほ笑みからでたのは、いつもどおりの涼やかな、でもか弱い声だった。

「当たり前だろ。電信機をもっていったくせに」

 クソっ! ハンターめ!

 ホープこそ、僕らのまとめ役だぞ。

 僕らの恐怖心に向き合ってくれた。

 ハンター・キラーと無能力者の分け隔てなく、扱ってくれた。

 今僕らの胸にあるバッチ。

 ちいさな歯車ランの小さい花を組み合わせてビビッド・コープスのバッチにしたのも、彼女だ。

 これは歯車のように、僕らの力をしっかり合わさる様にという願いが込めてある。


「よっしゃ!

 援軍が来るぞ。

 爆撃機がプロペラ響かせ、30分以内に来てくれる! 」

 無線席から、明るい声が聞こえた。

 ふと思った。

 こんな山の中、ちゃんと見つけてくれるのか?


 その時、強い振動が襲い、窓の外から飛び込む光が明るいオレンジ一色になった。

 僕は、ホープに覆いかぶさってかばう。

 直後、窓ガラスが割れ、車内に飛び散った!

 運転のエマが急ブレーキ。

 だが、すぐ走りだす。

「まだ大丈夫だよ! 」

 だが、後ろを走っていた馬は、ホープの愛馬アンソニーは、見えなくなっていた。

 と思ったら、天井からドカッという音がした。

 アンソニーだ!

 道に飛び下りて、また走りだす。


「クソっ! ハッチが熱い! 」

 ハリーはマシンガンのハッチに向かったが、開けられなかった。

 代わりに、胸に下げたサブマシンガンを窓から突きだす。

「ミルズも急げ! 」

 僕は呼び声にしたがうつもりだった。

 でも、ホープに止められた。

 そでを握られて。

「ごめん……なさい」

 何で、謝る?

 傷が痛むはずなのに。

「私は、あなたたちを利用したの」

 そう言って指差したのは、胸のバッチ。

「歯車ランの花には、魔力を集める性質がある。その可能性に気付いたの。

 正確には、取り付いた部分の魔法を、ね」

 それが、どうしたんだ?

 そのおかげで、この装甲車は無事だった。

「それだけじゃない。おそらく、歯車ランが持つ魔法の反応が、生えたハンターをひきつけ合う。

 私はその性質を利用することにした。みんなにバッチにして渡してね」

 君が?

 僕らの危険を無視して、歯車にしたっていうのか……!?


「なんで、というのは愚問かな。ハンターを狩れば、人の安全のためにもなる」

 僕はきっと、答えは違うと思いながら言った。

 やっぱりホープは首を横に振った。

「そうじゃない。私は、あなたたちが怖かったの。

 魔法なんか使わなくても、ハンターを狩れる人たちが。

 それはきっと、歴史さえ変えてしまう。

 今、私たちの持つ名声、富を失うのが怖かったの……! 」

 怖い……か。

 おそろいだ。

 だから僕も、告白することにする。


「実は僕、独立を考えてたんだ」

 彼女は痛みさえ忘れた様子で、目を点にした。

「人件費が、予算の何%を占めてるか、知ってる? 」

 僕は、彼女の手をほどき、立ち上がった。

 彼女もつられて、立ち上がる。

 残ったのは腰のピストルと、予備のアサルト・ライフルが2丁。

 ライフルの1丁をホープに渡した。

「こういう武器だって、このごろ値段がうなぎのぼりだよ。

 手柄の独占を狙うのが賢い方法だと思った。

 多分、援護に来る爆撃機パイロットだって、同じようなことを考えてるだろう」

 ホープは、おずおずと銃を受け取った。


「でも、独立は止めた」

 僕はこの時、ハンター・キラーでいる資格を失ったのだろう。

 仲間を歯車として使いつぶすことを選んだから。

 ハンターにすべての原因押し付けて。

 それでも僕はやったんだ。

「やっぱりハンターは怖いし、君には生きていてほしいよ」

 この最後の一言だけは、真実になるよう祈りながら。


 ホープの手はもう、おずおずしていなかった。


 応援が来るまで、およそ20分。

 あとは、ホープの無事を祈る誰かが欲しいな。

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ハンター・キラーのまかないさん リューガ @doragonmeido-riaju

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