今日は朝から雨が降っている。明日香の体調も、天気に引っ張られたように悪かった。熱を測ると微熱。今日は学校に行かずに家で大人しくしていた方が良さそうだ。

 母に学校を休むと伝えると、特に理由を聞くこともなく学校へ連絡してくれた。

 長年こんな生活を送っているせいで、少し熱が出たくらいでは家族は誰も動揺しなくなった。もちろん明日香自身も。

 友達らしい友達ができたことがない明日香のことを心配してくれる人は、家族以外では担任の先生くらいのものだったが、担任の先生も明日香が何度も学校を休むと、やがて気にしなくなって心配されることもなくなった。

 昨日と一昨日屋上で過ごした工藤は、明日香のことを心配してくれているだろうかと考えはしたが、この雨だ。屋上に行くこともないだろうし、明日香が学校を休んだことすら気付かないだろう。

 明日香は熱でぼうっとする頭でちらりとそんなことを考えて、その後は工藤のことなど忘れて、体調に気を使いながら一日を過ごした。


「昨日学校おらんかったやろ!」

 翌日、工藤は屋上で顔を合わせるやいなや、いきなりそんなことを言った。

「休んでましたけど…」

「休むんなら連絡寄越さんかい!俺キミのクラス知らんかったし二年の教室の前ウロウロする変なヤツになってもうたやん!」

「私先輩の連絡先知りませんよ」

 明日香が言うと工藤はアチャ~とオーバーリアクションをして言った。

「ほな教えて」

「お断りします」

 明日香としては別に教えても良かったのだが、この変わった先輩を少しからかってやろうと思って、わざと嫌な顔をして断ってみた。

 工藤はまんまとからかわれてくれたようで、ひとしきり「え~!」だの、「それはないわ~!」だのゴネた末、何故か可愛こぶり始めた。

「明日香ちゃ~ん、ななちゃんに連絡先教えてぇ」

「教えるのでその気味が悪い話し方やめてもらえますか?」

 こうして明日香は工藤と連絡先を交換して、学校を休む日は必ず連絡するように、と約束させられた。

 高校生になってからスマートフォンを持ち始めた明日香は、誰かに連絡先を教えることが初めてだった。

 その日明日香は、家族以外の連絡先が入っているスマートフォンを見て、少しそわそわして過ごしたのだった。

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Season 椿 @0tsubaki0

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