3
次の日の昼休み、今日も天気がよかったので明日香は屋上で昼食をとることにした。屋上に向かって足を進めると、昨日の関西弁の先輩のことを思い出す。
結局あの後、昼休みが終わると、「ほな!」と爽やかに去っていたが、一体何だったのだろうか。本当に変な男だった。
屋上の扉を開けて自分の定位置に向かうと、そこには昨日の関西弁の先輩が先に来て座っていた。
「よっ!」
呑気に挨拶までして一体どういうつもりなのか。いや、そんなことは知ったこっちゃないと、明日香はその場で回れ右して屋上を出ていこうとした。
「ちょっとちょっと、待って!」
先輩は焦って立ち上がり、屋上のドアに先回りして行く手を阻んだ。
「何がしたいんですか?」
「キミと昼食一緒に食べたいだけやねん、お願い」
「私が知らない先輩と一緒にご飯食べたいとか、思うと思いますか?」
「ほんまにごめんって。悪かった。ちゃんと説明するから聞いてくれへん?」
関西弁の先輩は両手を合わして頭を下げている。引き下がってくれそうにもないので、仕方なしに明日香はいつもの定位置に腰をおろした。
関西弁の先輩は、私が屋上から出ていくのを止めたのが余程嬉しかったのか、さっきまで頭を下げて謝っていたのが嘘のような満面の笑みだった。
関西弁の先輩は物事を順序付けて話すのが恐ろしく下手くそで、あっち行っては戻り、こっち行っては戻り…といった具合に脱線し放題に長々と話をした。明日香はと言うと、「脱線したな」とわかると話を右から左へ受け流し、話の本筋だけをそれなりに聞いていた。
明日香が彼の話を聞いて解ったことは、名前が工藤七斗だということ、剣道部所属だということ、剣道部の顧問が明日香の担任の教師であるということだ。
以前一度明日香が学校を休んでいる間に出しそびれていた提出物を出しに、剣道場まで担任を訪ねたことがあった。その時に私のことを知ったそうだ。その時たまたま工藤が近くに居て、明日香が形式上、剣道部所属になっていることを聞いたらしく大層驚いたらしい。
明日香の高校では全生徒の部活動への加入が強制されている。休みがちで体の弱い明日香は部活などしたくなかった。そのことを一年生の時から明日香の担任をしている剣道部の顧問に相談したところ、剣道部のマネージャーということにして、幽霊部員になっておけばいいと提案してもらったのだ。部活の集まりには一切顔を出さなくてもいいし、他の教師に何か言われたら俺のせいにしとけ、と言われている。これは本当にありがたかった。
「その時先生にちょっと話聞いて、せっかく部活同じなんやし仲良うなりたいなーって思ったんや。」
部活の問題を解決してくれたのはとてもありがたかったが、これはこれで面倒なことになってしまった。この関西弁の先輩――改め工藤先輩――は悪い人ではないのは解ったのだが、私と仲良くなりたい理由はいまいちわからない。
「事情も知って貰えたことやし、俺と仲良うしてくれるよな?」
「お断りします」
「ええ~?なんでなん」
「部活が一緒なのは形式上だけで、剣道部の方とは関わらなくて良い、と先生が仰っていました」
「ほんっっっまに強情やな~、自分~」
工藤先輩はいきなり立ち上がって大きな声で言った。
「部活とかそんなもんどうでもええねん!きっかけは部活やったけど俺はキミと仲良くなりたいねん!分かったか!」
突然大声でめちゃくちゃなことを言い出した先輩を明日香はぽかーんと口を開けて見ていたが、なんだかおかしくなってきて思わず吹き出してしまった。なんでこの人はこんなに必死なのだろう、と。
「何わろてんの!真剣なんやけど!」
「意味わからなすぎでしょ。先輩」
工藤先輩はしばらくあーだこーだと怒って何か言っていたが、明日香が笑っているのを見て、やがて笑顔に戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます