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「なんでいつもひとりなん?」
「いつもここで昼飯食うとるん?」
「学校、休みがちらしいけど勉強どうしてるん?」
突然現れた男子生徒は、名乗りもせずに次々と明日香に質問を投げかけた。しかも強烈な関西弁で。
「ごめんなさい、一回止まってくれますか」
それを聞くと男子生徒は質問をやめて首を傾げた。
「私、あなたのこと知らないんですが、一体どちら様ですか?」
男子生徒は一瞬驚いたように目を丸くした後、照れたように笑った。
「あーごめんごめん。そうやんな、俺のこと知らんよな」
悪い人ではないようだが、些かせっかちすぎるようにも見えた。
「同じクラスの人…とかですか?」
「ちゃうで」
同じクラスでもないとしたら、いよいよこの男がだれなのか何の用で話しかけてきているのか、明日香には皆目見当がつかなかった。
何がおかしいのか、関西弁の男は明日香の困った顔を見てニコニコ笑っていたが、明日香が何も言わないのでようやく説明する気になったようだ。
「あのな、俺キミのこと全然知らんねん」
「はぁ…そうなんですか…」
「俺、三年の工藤って言うねん、よろしく」
「はぁ…どうも…」
「あのな、キミ、俺の恋人になってくれへん?」
「はぁ!?」
意味のわからない突然の告白に、明日香はおよそ先輩に使うには正しくない言葉遣いをしたのにも気づかず、面食らってしまった。工藤と名乗った男は変わらずニコニコしており、告白した後の顔とは思えない。そもそも全然知らない女子生徒にいきなり恋人になってくれとはどういう了見だ。
「お断りします」
常識的に考えて当たり前の結論だった。
「えーそうなん?まぁしゃーないな」
関西弁の先輩はあっさり引き下がり、腕を組んでうーんと唸っていたが、やがて顔を上げてニコニコと微笑んで言った。
「ほな、俺の友達にならへん?」
「お断りします」
「嘘やんそれもあかんの?」
「恋人になってくれのあとに友達になってくれって、何言ってるんですか?」
明日香はこんな変な男に構ってやる時間はないと判断して、お弁当を広げ始めた。
先輩と友達になるというのもなんとなくしっくりこないし、どう考えてもからかわれているだけで、本気で恋人や友達になって欲しいなんて思っていないはずだ。学校を休みがちな明日香を興味本位でからかいにくる人は今までにも何人かいたし、学年が違うのにわざわざ近づいてくるなんてよっぽど暇なのだろう。
そんな明日香の内心を見透かしたように関西弁の先輩は言った。
「からかってると思てるんやろ。ちゃうで。ちゃうちゃう。キミのことからかって遊んだろーなんてこれっぽっちも思ってへんから話くらいしようや」
こういうものは否定すればするほど怪しいものである。この手の面倒な人間は、そこに居ないみたいに無視するのが一番良いのだと明日香は知っている。
「なあ無視せんといてーなー」
「……」
「キミと話したいねん」
「……」
「ほなもう勝手に喋ったるねん!」
何を話し出すのかと内心ぎょっとしながらもお弁当を食べ続ける明日香を尻目に、関西弁の先輩は勝手に話を始めた。
「あのなー俺、工藤って言うんやけどなー、下の名前なんて言うと思う?」
「七斗って言うんやけどなーみんな俺のことななちゃんって言うねん女の子みたいやろー」
「キミもななちゃんって呼んでな」
「今日の午後の授業なー古典やねん、キミは古典得意?俺苦手やわぁ~眠なるし」
本当に勝手に喋りだしてしまった。飽きる気配もなく楽しそうに中身のないような話をし続けている。お弁当を食べ終わってしまったら、私はどうすればいいのだろうか。
結局関西弁の先輩は、明日香がお昼ご飯を食べ終わって昼休みが終わるまで、ひとりお喋りを続けていた。
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