Season

椿

第一章 春

 内海明日香は幼い頃から病弱だった。

 体調を崩して寝込み、良くなったと思ったらまたすぐ体調を崩すのだ。

 普通は成長していく過程で体が強くなって、風邪を引いたりすることも少なくなっていくのだろうが、明日香の体は高校生になっても一向にその兆しを見せなかった。

 小学生のときも、中学生のときも、そして高校生になった今も、しばしば学校を休んでいる。

 高校一年生、はじめはちらほら話しかけてきてくれる人もいたが、女子はグループを作って行動する。休みがちな明日香はグループに入るタイミングを逃し、ひとりになった。中学の頃もそんな感じだったから、少し寂しいような気もしたが、仕方ないと割り切って高校生活を送っていた。


 二年生になった。

 クラスが変わっても、明日香に話しかける人はいなかった。

 一年のときと同じように、体調の良いときには学校に行き授業を受ける。友達とのお喋りを楽しむためではなく、勉強をしに行くだけだった。


 四月も後半に差し掛かった頃、午前の授業が終わって昼休みを告げるチャイムが鳴った。教師が出ていくと、生徒たちも席を立ち始める。

 明日香も耳にイヤホンを押し込みながら席を立ち、弁当を持って屋上に向かう。

 今日は快晴で、外で昼食をとると気分が良いだろう。夏や冬にはできない、春の楽しみだ。

 イヤホンで音楽を聞きながら、階段を登る足取りは軽かった。今日は体調も悪くなさそうだ。

 誰もいない静かな屋上に出た。雲一つない青空が広がっている。なんとなく空気が美味しい気がした。この学校の屋上は人の入れる場所が少ない。フェンスで阻まれていて、フェンスの向こう側に行く扉はガッチリ鍵がかかっているため、あまり人は寄り付かない。狭くて手入れも大してされていないが、明日香は静かなこの屋上でお昼ごはんを食べるのが好きだった。

 壁際を少し歩き、扉を開けた時見えない位置まで移動すると、壁に寄りかかって座った。

 音楽を止めるために、スマートフォンを操作している時、突然イヤホンが外れて音楽が消えた。誰かに引っ張られて外れたのだ。明日香ぱっと顔を上げた。

 そこには知らない男子生徒がいた。一年の時は同じクラスではなかったはずだが、今はクラス替え直後である。もしかしたら同じクラスの生徒かもしれない、と思った。

「内海明日香?」

 突然の出来事で頷くことしかできなかった。

 名前も知らない男子生徒は、少し微笑んで明日香の隣に腰を下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る