政治性・アイロニー・SF

丁寧に作り込まれたSF世界観と作者の政治への深い造詣とが調和した作品。

ストーリーとしては人類が宇宙に定住した23世紀の未来を舞台に、日本の宇宙戦艦(作中では航宙護衛艦)が武力衝突に巻き込まれる話です。
特に後編の戦闘シーンで顕著ですが科学技術が相応に進歩し、未来感を演出する一方で、作中には(紆余曲折を経つつも)日本があり、イギリスが登場するように、政治面では今私たちのいる現在との連続性が高いものとなっています。
政治的な連続性の強さは例えば23世紀の宇宙であっても依然日本は自衛隊を有し、艦種名に政治的な配慮をするという点にも現れており、この他にも作者の政治への深い造詣がSF的世界観をまとって展開されることで緻密な世界観を作っています。
また一見すると未来と現在が混在したこの世界はアンバランスな印象がありますが、このギャップを登場人物たちの皮肉的なトーンで整えた点も本作の魅力でしょう。
やや難を言えば、過去に渡って作り込まれた設定が作中散りばめられたため、読み進める際に時系列が定常しない部分もありますが、前述の魅力はそれを上回るものと考えます。
ハードな上に政治SFというニッチなジャンルが災いしてか、反響に乏しいようですが、個人的には作者の今後に期待したい。

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