第3話 引力

帰りのHR終了後。不意に視線を移し、校門の両脇にある枯れ果てた木の枝をみていると入学したての頃を思い出した。私は燐斗がこの篠ヶ丘(しのがおか)高校を受けると知ってから合格可能だった第一志望の別の高校を蹴って今の高校を選んだ。それは言うまでもなく、高校でも燐斗と一緒にいたかったから。


…私が燐斗と同じ高校に行くと言った時、凄く驚いてたな。


––––『お前なら、もっと上行けただろ?何で篠ヶ丘選んだんだよ?』


あの時はなんて言葉を返したらいいかわからなかった。何年も自分の中で密かに秘めていた想いを伝えたら離れてしまいそうで、否定されそうで怖かった。


「3月になったら卒業か…高校生活は残すところ約1ヶ月しかないんだ」


流石に大学は一緒になれない。何故なら進路がお互い違う上に、燐斗の場合は県外の大学に行くからだ。燐斗は今、自分より偏差値が高い大学に進もうと必死に勉強をしている最中。''燐斗と一緒にいたい''という私の勝手な気持ちで邪魔をしたくない。


卒業式の日、私は燐斗にどんな反応をすればいいんだろう。


一抹の不安が心の中で渦を巻く。それを振り払うように私は鞄を肩にかけ直し、生徒会室へと向かった。

私は高校一年生から生徒会に所属していて、高校三年生の春に副生徒会長へ任命された。代々繋がる巫女の仕事と生徒会を両立させるのは大変だが、苦痛だと思ったことは一度もない。それは元々人の為に何かをするのが好きなのもあるかもしれないが。下校する生徒で賑わう廊下を歩き、生徒会室の扉を開ける。静寂に包まれた中、一週間前に実施したアンケート結果を1人でまとめる生徒会長、西凪 にしなぎゆうが視界に入った。


「あ、ごめんなさい。遅れちゃいました。私も手伝います」


「ああ、ありがとう。蘇宮さん。じゃあ、そこにある生徒からの手紙を纏めてもらってもいいかな?後輩から俺たちにたくさん来てるんだ」


「わかりました」


会長が指した白い箱には数多い手紙が溢れていた。1枚1枚手紙をよみながら1時間以上同じ作業を繰り返す。それでも減らない感謝の手紙に、思わず笑みがこぼれた。


「沢山の後輩からメッセージが…。これを見ると嫌でも卒業が近づいているのを感じますね。お礼を言いたいのは私達なのに」


「…そうだね。俺からも蘇宮さんに言いたい事があるんだ」


ふと、会長が作業の手を止めて私を見据える。


「…何ですか?」


「3年間、支えてくれてありがとう」


「そ、そんな。私こそありがとうございます。会長が引っ張って行ってくれたの、感謝してます」


「うん…。後、もう1つ。蘇宮さんが好きです」


何を言われたのか理解できるまで時間がかかった。静まり返った生徒会室に時計の針が時を刻む音だけが響く。


「え…?」


「3年間生徒会室で過ごす時間が1番多かったのが蘇宮さんなんだ。一緒に作業していく内にいろいろな場面で助けられた。…そして知らない内に好きになってたんだ。卒業式に言おうとしたけど…それじゃ遅いと思って」


向けられた真剣な瞳に吸い込まれて、息をする事を忘れてしまう。想いを伝えられて真っ先に思い浮かんだのは勿論、燐斗のこと。幼い頃から助けられて側にいてくれた燐斗。私は燐斗が好きなのだが、何故か会長に告げる言葉がすぐに出てこなかった。いや、出す事が出来なかったのかもしれない。


–––––––会長の恋、私の恋と似てる。


私も燐斗に助けられて、一緒に過ごしている内に好きになっていた。全く会長と同じ理由だ。それに気づいた瞬間、答えは決まっているはずなのに喉につっかえたように声がでなかった。


「あの、私…。っ、すみません。用事思い出してしまいました。神社でやる事があるので…」


会長の顔を見ずに生徒会室を飛び出す。会長の真剣な表情を見ていると胸が苦しくなった。すっかり暗くなり、冷え切った廊下をただひたすらに駆ける。角を曲がった時、誰かと激突した。恐る恐る顔を上げる。


「おい…大丈夫か?美優奈」


視線の先に見慣れた姿が立っている。


「燐斗…大丈夫。何でこんな時間までいるの?」


「…図書室で勉強してた。美優奈は生徒会だろ?終わったのか?」


「…一応ね。一緒に帰ろ」


「…お前、何かあっただろ。お前が視線合わせない時って大体何かある時だから」


見透かされて、私は燐斗を見据えると意を決して起きた出来事の顛末を話した。会長に告白された事、自分には好きな人がいる事を全て。


「…そっか。美優奈好きな人いたんだな」


目を伏せて燐斗は呟く。


「燐斗…?どうかした?」


「いや?別に。…そろそろ帰ろうぜ。寒くなって来たし」


燐斗の言葉と仕草に疑問を持ちながら私は頷く。変わらない通学路を歩き、神社の鳥居の前を通ると自分の意思と関係なく自然と足が止まった。強い引力を感じる。


「美優奈……?」


「ごめん…私1回神社寄ってもいい?少し気になって」


燐斗は一瞬驚いた表情を浮かべたものの、すぐに優しく頷いた。心なしか、普段より表情が和らいでいる気がする。


「ありがとう、燐斗!」


燐斗が返事をしたのを確認して、私は鳥居を潜った。

____________________

《作者から》

2ヶ月くらい開けての更新です!遅くなってしまいすみませんm(_ _)m

寝ぼけて書いたので誤字あるかもしれません…

いよいよ神社の謎が解けます!美優奈の脳裏に浮かぶ女性が何者なのかもわかると思います。次話もよろしくお願い致します!

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繋がる記憶 ~古の神社と真実~ 紗凪 @1098135

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