第2話 神社の謎
制服に着替えてウールのマフラーを首にまく。先程神社で起きた不思議な体験を母に伝えようとしたのだが、帰宅して時計を見ると思っていた以上に時間が無かった為、仕方なく学校から帰宅してから伝えることにした。
門を開けて学校へと足を進める。神社で掃除をしていた時より幾らか空は明るくなり寒さは和らいだものの、相変わらず肌を刺すような冷風は続いている。
身を縮こませながら寒さに耐えていると背後から声がかかった。
「あれ、美優花?今日も寒いな」
「あ、燐斗おはよう」
気温が氷点下にもかかわらず、ジャケットの前を開けマフラーだけで寒さをしのいでる久坂
「相変わらずだ寒い格好してるよね。燐斗は」
「いや、逆にお前厚着しすぎじゃないか?ダルマみてぇ」
「ダルッ–––!?」
なんて失礼な言葉なのだろうか、と一瞬不満を覚えたが普段と変わらない調子の燐斗を見ていると安心した。私の家系に不思議な力が宿っているとはいえ、ついさっき非日常的な体験をしたからだろう。当たり前のように側にいて笑顔を見せてくれる燐斗は、私にとって掛け替えのない存在だ。表情を和らげて
カバンを持ち直した時、ふと燐斗は思い出したように言った。
「なあ、そういえば美優花。まだ不思議な体験するのか?幼い頃から言ってただろ?」
「うん……未だに。無くなるどころか最近頻繁におきる。それに朧気だったものがどんどん鮮明になっていって––––」
記憶に出てきた20歳くらいの女性が見せた寂しそうな顔が脳裏に浮かんで私は思わず口を閉ざした。目を伏せる。女性が出て来るたび、心が深淵を彷徨っているような感覚に陥るのだ。無性に切なくなって、苦しくなる。
「…燐斗、実は最近脳裏に20歳くらいの女性が浮かんでくるんだよね。でもその人がどんな人なのか、何の未練があるのか分からないの」
一呼吸置いて静かに告げたときふわりと前髪が風を孕んだ。登校時間だというのに辺りには人があまり見当たらない。静けさに私達の足音が虚しく響いた。人は未練があると、魂はずっと現世を彷徨い続けている。怨みや憤り、不安、悲しみ。それらが無くならない限り。
「なあ、美優花。もしかしてそれ––––」
燐斗が何かを言いかけたとき、丁度背後から車が通った。まるで、燐斗の言葉を遮るように。
「燐斗何か言った?聞こえなかった」
視線を向けて尋ねる。たが、燐斗はただ無言でかぶりを振ると誤魔化すように制服のポケットの中に手を入れた。何でもはっきりと言う燐斗が言葉を濁し、頑なに口を閉ざしたりする事は幼い頃から付き合いがある私から見ても滅多にない。疑問に思ったが、それ以上は何も聞かなかった。いや、聞けなかったと言った方が正しいかもしれない。
「あ、そういえばさ、なんか夜の神社って幻想的じゃね?昼の神社とは何か雰囲気違うって言うか…」
無理矢理燐斗が話題を変えたのはすぐに分かった。表情は普段と変わらないが、声音には少し焦りが混じっている。
「うん……そうだね。夜の神社は神様との距離が一番近いんだって。だから昼に行くより幻想的なのかも。引き込まれるものがあるし」
「じゃあ雨の日に参拝ってどうなんだ?あまり良くないイメージあるけど…」
「そんなことないよ。確かに雨って言うとマイナスなイメージがあるんだけど、昔は『清めの雨』って言われていて悪いものを浄化してくれる力があると考えられていたの。貯水池でも手を洗って清めるでしょう?」
「ああ。言われてみればそうだな…」
頷いて納得する燐斗。神社に関する話をしながら暫く歩いていると、見慣れた校門が視界に入った。同時に校舎のすぐ傍に建っている時計に視線が移る。時刻は8時10分を指していた。今日は家を出るのが普段より遅くなってしまい、HRに間に合うか心配していたのだが、どうやらその心配は無用だったらしい。
「じゃあ、また放課後な」
生徒で賑わっている廊下で燐斗は私に振り返ると微かに笑みを浮かべた。
「うん、そうだね」
私と燐斗はクラスが別だ。去年は同じクラスだったのだが、クラス替えで離れてしまい登校と下校の時以外は一緒にいる機会がなくなってしまった。幼い頃から当たり前のように一緒にいたからか、会えない時間が増えると少し寂しく感じる。
…こんな事、口が裂けても言えないけどね。それに、大学に進学したらもっと会えなくなるからこんな事で寂しがっていられないし。
そう思いながら視線を窓の外に移す。風は校舎裏にある木の梢を優しく揺らしていた。
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《作者から》
予定通り土曜日に更新できました!来週土曜日の午後6時ごろにまた更新します。……にしても、私やっぱり幼馴染設定好きだな。幼馴染みたいに近くて遠い距離がもう大好きで笑
あ、先輩設定も好きなんです(*^^*)
この小説、見て頂きありがとうございます!次回の話も宜しくお願いします。
追記
テスト終了!春休みなので更新したいと思います。
3月26日
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