最終食 BFF大勝利! 希望の未来へレディー・ゴーッ!

最終話 嵐の中で食べ終えて

「くそ! なんだってんだ! なんで急に、食べる速度が上がりやがった!?」


 厨房を出て、慌てて決戦場に駆け付けると、織牙さんが悲鳴を上げていた。

 すでに二人とも胃袋は満杯のはずで。

 それでも気力だけで食べ進めている。


 だが、レムさんはなお、食べる速度を上げていた。


「なんでだ、ファイター!」

「……気が付かないのか? だったら、それがあんたの限界だぜ!」


 ニヤリと、レムさんは不敵に笑う。


「まさか……」


 なにかに気が付いた織牙さんが、表情を一変させた。


「あんなに一緒だったのに、味付けが違うものだとぉぉぉ!?」


 そう、僕はBパートが終わるまでのわずかな時間に、鉄火丼の味付けを変えた。

 ちょうどこの、Cパートで供給されるように。

 飽きがくるタイミングで、変化球が来るように。

 その味付けとは──


「父さん譲りの、激辛鉄火丼だあああああああ!!!」


 ワサビ、ショウガ、ラー油!

 それらは見た目を損なわないまま、鉄火丼を激辛メニューに変貌させる。

 僕は覚えていたんだ、あの日ポケットに入れられた調味料の味を。

 そして、激辛ジンジャークッキーを!

 そう、レムさんは、激辛ファイターでもあったのだ……!


 もちろん、工夫はそれだけじゃない。


『これはもしや……』

『乱場河豚殿、なにかお気にづきに?』

『セイのやつ、赤身をマグロ以外に変えおったわ!』

『な、なんとー!?』

『遠い西の地、ナガサキではハマチやブリをマグロの代わりに使うと聞く』

『これがユニバーサル規格かああああああああ!!!』


 そう、ちょっとした遊び心ってやつさ!


「くそったれが! ちっとも面白くねぇ! 実花ぁ! 俺の料理はどうなってる!?」

「え? 織牙がなんでもいいっていうから、同じ味付けにしてるけど?」

「なにやってんだ実花ぁああああああ!?」


 絶叫しながら、それでも織牙さんは鉄火丼を胃袋に押し込んでいく。


『さあ、残り時間もあとわずか! 食べている量はほぼ互角! これはいまこの瞬間に食べている鉄火丼を完食できるかどうかの勝負になってきたぁ……!』


 熱の入った波呂沢さんの実況を背に、織牙さんが食らいつく。


「教えてくれ実花ぁ、俺はあと何杯お代わりすればいい……」

「織牙の言うとおりにするよ」

「実花は答えてくれねぇ……」


 レムさんが歯を食いしばる。


「たかが鉄火丼の一つ、私の胃袋で飲み干してやる……!」


 会場からは、弾正! なにやってんだ弾正!? という声が無数に飛んでくる。

 多分養護施設の人たちなのだろう。

 織牙さんたちにも、背負うものがあるのだ。


 でも。


「負けられないよなぁ! こんなに腹が減る料理が目の前にあるんだもん……! うわあああああああああああああ!!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! 俺が、鉄火丼の王だあああああああ!!!」


 最早箸を捨て、手で料理を食べはじめる織牙さん。

 ふたりのファイターの熱気が輝き、その雄たけびがとどろき叫び、そして。


 カーン!


 ゴングが、鳴り響く。


『集計中……集計中……集計結果を発表……な、なんと、二人とも食べた量は全く互角!? これはファイター足元のリアルタイム計測装置によるものなので、間違いはありません! まさか、同着ということなのでしょうか!?』

『いや……見ろ、波呂沢。あれを……!』

『なんと!?』


 ゆらりと、織牙さんが、立ち上がった。

 その顔には脂汗と、奇妙にすがすがしい笑みが浮かんでいる。


「弾正!」

「織牙!」

「……なんて顔、してやがる……実花ぁ」

「いや、普通の顔だけど?」

「なんだよ、結構辛辣じゃねーか……俺はよぅ、止まらねぇからよ……おまえらが止まんねぇ限り、その先に俺はいるぞ……!」


 必死で涙をこらえている、実花さん以外の養護施設フリージアの面々。

 そして、ふらふらとオルガさんは歩いて。


「だから」


 歩いて。


「だからよ……止まるんじゃ、ねぇぞ──」


 ばたりと、その場に倒れた。


 まっすぐにのばされた彼の左手。

 その手の中からは──


 真っ赤なマグロが、数枚こぼれ落ちた。


『握っていたぁああああああああ!? 織牙選手、手の中に料理を隠し持っていたあああ!? つまり、この勝負──』

『文句なしだ、小僧』

『優勝は、BFF──チーム・ビルフードファイターズだああああああああああああああああああああああああ!!!!』


 巻き起こる万雷の拍手。喝采の嵐。

 ……勝った。

 僕らが、勝った?

 呆然としていると、バシンと肩を叩かれた。

 振り返ると、いつものように笑っているレムさんがいて。


「セイ。大事な話があるんだ」

「は、はい?」

「私、私な」

「う、ん」

「おまえの料理、めっちゃうまかった! 最高だったぜ! ごちそうさま……!」

「────」

「また、私のために料理を作ってくれるか……?」


 どこか不安そうな、彼女のそんな言葉に。

 僕は満面の笑みで、こう答えるのだ。


「もちろんさ!」


 だって。


「僕が作って、君が食べる! 僕らは、チーム・ビルドフードファイターズだから!」


 自分が心を込めて作った料理を。

 心の底から楽しんで食べてくれる。

 こんなにもうれしいことはない。

 ああ、本当に──


「親父が熱中するわけだ」



 ビルドフードファイターズ‐BFF‐ 完食!

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ビルドフードファイターズ -BFF- 雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞 @aoi-ringo

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