第3話

 渡された地図に従い、着いた場所は廃工場の倉庫のような場所だった。

 水色ワイシャツには15時までと指定されたが、オレはもちろん10分遅れで行った。遅れて堂々と登場する。それがヒーローの登場というものだろう。

 水色ワイシャツに持たされた携帯電話が何度も鳴ったりもしたがマナーモードにして無視してやった。

 あとのこと? そんなものは知らない。そもそも、そんな考えのあるヤツがその日暮らしなんてしているわけがない。

 ちょっと自分でも情けないが、それがオレの現状だ。


「ヒーローが遅れて登場とか、陳腐すぎるんじゃないですかねー」

 オレの耳元で「なにか」が呟いた。「なにか」、これは、水色ワイシャツがオレにつけたGPS機能つき妖精風マシーン。

 こんなものを作る技術があるのなら、オレなんかにヒーロー業やらせてないで、もっと役に立つアンドロイドとか作ればいいのに。

 まあ、そうなったらオレは廃業になるわけだが、毎度毎度かかとを痛める必要もなくなる。

 金を稼ぐ手段なら他にもあるのだ。時給が低いだけで。


「さ、早く行きまっせ。悪に休みはないのだ」

 口調の統一感のなさは何なんだろうか。開発者に小一時間問い詰めたい。

 「なにか」に急かされたからでもないが、オレは倉庫のような建物の中に入ってみた。

 するとそこには――


「な、なぜここがわかった!? レンジャーローズ!」

「お、お前らの悪事などすべてまるっとお見通しだ!」

 案の定、ブラック企業の社畜がいた。

 オレは思わず何十年か前のマニアに受けまくりだったドラマのセリフの真似みたいになったが、とりあえずかっこつけてやった。

 あ、ちなみに、赤薔薇ヒーロースーツには既に着替えてはいる。というか、ネットカフェから出る前に着替えてやった。

 都市部を歩いていたときには結構恥ずかしい思いもしたが、背に腹は代えられぬ。というか、洗濯が溜まっていて着るものがなかった。

 ヒーロースーツは洗濯が難しいのであんまり洗濯していないが、そろそろ臭いがきつくなってきた。

 今日こそ洗濯してやる……時給1万円をもらったら洗濯するんだ……!! そこ、死亡フラグとか言わない。

 

「なんだと!? だったら当ててみせろ、私がこれから何をするのか!!」

「なんだと!?」

 今日の怪人は……というかスーツ男は、この間のスーツ男と違って、結構派手な色のスーツを着ていた。

 そうでもないか。ただの水色だ。でも、水色に白……どこかで見たような色合いだと思っていると……クイズだとぉ!? 

 スーツ男が持っているのは、またしてもタブレット型端末だ。

 あのブラック企業……なぜそんなに金があるのだ。社員一人一人にタブレット型端末を持たせることができるとは……オレも欲しい。

 うーん……。端末を持っているということは、またしてもネット関係の悪事だろう。

 この間がネトゲ関係だったから次は……次は……次は……



……何だろう? 

「ぶー! はい、時間切れー。そんなことでは世界は守れないぞ! レンジャーローズ!」

「しまった……!!」

 シンキングタイムが切れてしまったとは。むむむ。こんなことでは東大王になれない。そもそも東大になんか受かってないが。

 そんなことはおいとくとして、ヤツはタブレット型端末を掲げて言い放った。

「なんでもない一般人のツイートをバズらせて24時間通知音で眠れないようにしてやる!」

 どこかで見たことのある色合いは、ツイッターだったのか。確かに、水色に白……標準のツイッターはその色合いだ。

 しかし、それにしても……。

 

「やめろ! 通知音切ってるもしくはスマホを持ってないとかだったら何の意味もないぞ!」

 オレが言うのもなんだが、地味すぎる企てだ。そして、通知切ってたら何の意味もない。

「はっ!? しまった……!! だが、もう遅い!!」

 オレが止める間もなく、スーツ男は端末で何かを操作した。

 すると、オレの携帯電話が「ピコン」と鳴った。

 と、思ったらそのあとからあとから次々に「ピコン」「ピコン」と通知が止まらなくなった。

 不審に思ったオレは、携帯電話をチェックした。

 

「!? なぜオレのツイッターアプリに通知が!?」

「お前ツイッターアカウントあったのか。しかもスマホ持ってたのか」

 オレがネットカフェ難民というのは敵も周知の事実なのだ。当然、携帯電話など持ってないと思われている。

 しかし、オレには水色ワイシャツから持たされた携帯電話がある! そして、持たされて3分でツイッターアカウントと連動している。

 「ピコン」「ピコン」「ピコン」「ピコン」……。

「ああああああ!! うるせええええええ!!」

 オレの必殺かかと落としがスーツ男の端末とオレの携帯電話に炸裂する。

「ああああああ!! 会社の備品があああああ!!」

「ああああああ!! やっちまったあああああ!!」

 携帯電話を操作して通知を止めるという方法を思いつかなかったオレの、今日は負け。

 その後携帯電話を壊して水色ワイシャツの逆鱗に触れたオレは、ヒーロースーツを洗濯することができなかったのであった。

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正義の味方とか興味ないけどとりあえず時給1万円でヒーロー業やってます 桜水城 @sakuramizuki

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