みなさんは虫取りをした経験はあるだろうか。チョウに見惚れ、セミの抜け殻を集め、カブトムシに憧れ、これはそんな思い出が忘れられない大人たちの物語だ。
主人公のケイとその妻スミレさんは「虫屋」だ。虫屋といっても虫を売っている人ではなく、虫好きのなかでも特に筋金入りの昆虫マニアをそう呼ぶそうだ。
昆虫の研究者である二人が、標本採集のフィールドワークに出向き、真っ暗な山奥でライトを点けるとセミやカブト、ハチやカメムシ……種類もサイズも様々な虫が集まってきて、昆虫マニアが語りだす。
次はどんな奇妙な虫がやってくるのか、どんな面白い虫の話が聞けるのかと期待や想像が膨らむ。
同じ虫屋仲間のハチ専門のスガルさん、ガ専門のマユさんなども加わり、いい年をした大人たちが虫取り網と籠を持って虫を追いかけて一喜一憂する姿は、なんとも無邪気でクスクス笑ってしまう。
「ヨナグニサンってどれだけ大きいの?」、「ルリジガバチって本当に瑠璃色なの?」、作中に登場する昆虫たちが気になって検索サイトで調べていると、幼い頃に『ファーブル昆虫記』を読んだワクワク感を思い出した。
(『夏色の物語』特集/文=愛咲優詩)
私は虫にはほとほと触れません。見るのも苦手な虫もいます。
でも不思議な事に、彼らの生き方はなんだかとても魅力的で、それが私をほんの少し虫好きにさせてくれます。
子どもの頃、家の前が田圃だった事からカメムシがよく飛来してあの激烈な臭気に鼻をやられていましたし、家の裏が山だった事から夜はよく蛾が飛来して窓に寄り集まっていました。その様子は灯火採集で白い布に集まるそれとほとんど変わらないかもしれません。
また昔、ジャノメチョウが嫌いでした。家の目の前にイチジクの樹が生っていて、春先から夏にかけて数匹のジャノメチョウがそこをよく止まり木にしていて──あの目玉のような模様が本当に気持ち悪くて、蝶特有のひらひらした不規則な動きをしながら素早い動きで迫ってくるのはどんなホラー映画以上に恐ろしかったです。たまに地面でお亡くなりになっているのを見かけると、まるで生々しい目玉がゴロリと転がっているようにも見え、言い様のない不気味さに背筋を伝うものがあった事もあります。
ですが、今はちょっと違っていて、虫をもっと好きになろうという努力をしています。
元来本を読むのが好きで、数年前に刊行された昆虫学者・丸山宗利さんの『昆虫はすごい』『昆虫はもっとすごい』を読んでから、虫嫌いな自分がなんだか酷く惨めな気持ちになりました。カブトムシやクワガタ、トンボやカマキリといった虫は大丈夫なのに、同じ虫の蝶や何やらが好きになれないのは何かがおかしい、と。私の一番好きなナボコフという作家は、鱗翅目はジャノメチョウの研究をされていて、スケッチ集なども出版されその界隈では有名なようです。
タマムシのように見た目がとっても丹精で綺麗な虫がいます。鱗粉や毒の無い無害な蝶もいます。タランチュラのように毛が動物のようにもふもふで可愛らしい虫もいます。
確かに苦手な虫はいます。昆虫食の本を読んでからカメムシやセミも油で揚げれば食べられる事を知りましたが、セミはまだしもカメムシだけは本当に未来永劫無理かもしれません。でも少しでも好きになる事は難しくないと思います。この作品に出てくる登場人物のように、幼い頃から虫が好きだったという事も無く、後からのめり込んでしまうのも十二分にあり得ます。
虫はほとんど嫌い、でも全部が全部突き放せない──そんな微妙な気持ちに嘘は吐けません。だからせめて好きになる努力がしたい。そんな中「虫が好きだ!」と全力を出して主張している作品で培えるのはとても幸運な事だと思います。
スマートニュースのコンテストに参加されているようなので、応援の意味も込めて取り急ぎレビュー致しました。つらつらとした文章でお目汚し大変失礼しました。