滅亡まで、あと27日 中編

不意にあることを思い出す。

あれは、たしか小学校の頃だろうか。


社会で戦国時代の歴史を勉強中、「泣かぬなら殺してしまえホトトギス」という信長の短気な性格を表した無季俳句を知った。


秀吉は「泣かぬなら鳴かせて見せようホトトギス」


家康は「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」


じゃあ俺はなんだ?

よく気が動転し、面食らい、無鉄砲で野暮。


そんな俺を表すとしたら。

まあ、

「鳴かぬなら儂が泣こうホトトギス」

って所かな。


小心者の俺には型がぴったりにハマる。


それにしても随分とひんやりしてる。

てか、俺は一体何をしているんだ?

いったい何があったんだ?


「ちょっと!起きなさいよ!」


見知らぬ声。少女だろうか。


全く、一体誰だよ。



と、その瞬間。足を何者かに蹴られる。

「いってぇ…」


目を覚ます。


「さっさと起きなさい!」

視界に映る人物。

最大限に鼓膜を震わせる声の主。


ルックスこそは良いが、見掛けだおしで、気が強そうな少女がそこにいた。


「全く、饒舌な奴だな。」

愚痴をこぼす。


「うるさいわね、さっさと起きないのが悪いんでしょ!」


「てか、ここどこだよ?」

周りは鉄格子で覆われている。

まるで刑務所だな。


「拘置所よ、知らないけど。」

知らんのかよ。

「あたしは何度も来てるけどね。その度に抜け出してるけど」


気質に似つかわしい反骨ぶりだな。

「てか、なんで俺は留置所にいるんだ?なんか悪いことでもしたかね。」


「ここにいる以上、あんたがヤバい奴なのは確定しているわ。何をしでかしたのかしら。」


「しらん。」


「もしかして、少女に手を出したとか?まさか、私を狙ってるの?」

と、蔑む目でこちらを睨む。


「俺はロリコンじゃねえよ。もし仮にロリコンだったら俺は既に行動をおこしている。」


少女は冷笑と嘲笑を化合した言葉を放つ。

「キモ」


やめてくれ。嗚咽してしまう。

少女に泣かされるなんていう人生初の体験をしてしまう。


「そ、そんなことより、早くここを出ないといけないよな。」


話題をそらす。

全く、年上になんの躊躇も無くないがしろにする奴は俺の妹以来の出現だな。


「てか、お前はここの脱出方法を知ってるのか?」


「当たり前よ。じゃなきゃこんなに馬鹿みたいに冷静じゃないわよ」


と発言の末にポケットから鍵を取り出す。

少女は合鍵よ。と平然に言い、扉の南京錠の鍵を開ける。


なんで鍵なんか持ってんだよ。

と、言いたかったが瑣末な事なので言わなかった。


「ありがとよ」

「別に」

案外可愛いやつだな。素直じゃないところは少し愛らしい。


俺にはロリコンの才能が眠っていたんだな。


「あっ、」

すっかり忘れてた。チトセの事だ。

もしかしたらここら辺にいるかもしれない。


「なぁ、俺と同い年ぐらいの少女を見なかったか?」

「さぁ。見てないわよ。」


そうか、と、ため息をつく。

少女はその時、

「まぁ、探してあげないこともないけど」

「本当か?!」

「早くついてきなさい。」

と、少女は無表情で早足で進んでいく。俺はそのあとを急いでついて行った。




それにしても少女はなぜここにいるのだろうか。

気の荒いことから、勝手に暴力事件でも起こしたのだろうと解釈する。


俺がここにいる理由は既に明確だ。

きっと、俺とチトセがこの国の人ではないことがバレたに違いない。


ズカズカと進む少女が、足を止める。

「どうした。」

「誰か来る。隠れて!」

と、真横の倉庫と書かれた部屋へ背中を押されて入る。


真っ暗な部屋は隣の少女の表情すら見えないほどの暗闇だった。


カツカツと足音らしき音はだんだん大きくなり、俺たちの扉の前で止まる。


鼻息が荒くなる俺に比べ少女は安定した呼吸を続けていた。

もし扉を開けたら、こいつは相手の顔面を殴るに違いない。


刹那、扉が開く。

暗い部屋へ光が差し込む。


しまった、と思い絶望に浸るが、扉を開けた人物に度肝を抜くことになる。




扉を開けた人物は、「チトセ」だった。




――――――――――――――――――――



俺の人生の旋律はこの世界に来てからというもの、まがまがしい災難が周りをくるくると回っている。


どう酷いのかは、わざわざ言わんでもわかることだろう。

見に降りかかる出来事が如実に語っている。

早くこんなことに暇乞いをしたいものだな。



チトセから話を聞くと俺たちと同じような部屋で目を覚ましたらしい。


「部屋には鍵がかかってなかったの。」

「それは不思議だな。」


実際そうとも思ってなかった。

なんせ、ほかの部屋には鍵なんてかかってなかった。


少女といた部屋はVIP待遇された鍵付き監禁部屋だったのだろう。

全く、そこまで大事にしなくても。


「そんなことはどうでもいい。俺たちは首都を目指してるんだ。」


その言葉に少女は首を傾げ

「は?ここは首都の中心部よ」


「そうか…」


一応返事はしたが、実際問題、俺はこいつを信用していない。

眉唾物である確信はないが真実である確信もない。

まずは自分自身で確かめる必要がある。


それにしてもチトセはこいつに不信感を持たないのか?

チトセに視線を向ける。

「な、なに?」

「いや。何でもない。それよりここを早急に出ないとな。」


「あたし知ってるわよ」

そう言うと、少女は迷いもなく廊下を進む。

こいつの言葉を信じるべきなのか、実際俺たちは迷い子なもんだから、こいつの言葉をはばかる理由はない。


仕方がなくついて行ってやるか。

逡巡することなくついて行く俺にチトセは


「もしかして、ロリコンなの?」


耳が痛いな。

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