最終話 決意は変わらない。

「──ヤダね」


 そう一言だけ告げると、頭の中で全力で叫ぶ。


 元の世界へ戻れ、と。


 その瞬間。


 また目の前の世界が真っ白になった。




 ──戻ると申すのか。


 頭の中に、最初に聞こえた声が響く。


 戻る、と短く伝える。


 頭の中の声は、この意思の硬さに──戻るとどうなるのか自分で理解している事に気付いたのか、もう何も言わなかった。


 そして、視界が暗転する。




 遠くに、聞き慣れた救急車のサイレンの音がする。


 戻れた。


 その瞬間思った。


 大丈夫かと聞く誰かの声が遠くに聞こえる。

 ゆるゆると目を開けるが、焦点が合わず歪んでよく見えない。

 その声に、冷たくなりつつある身体の、残りの全ての力を使って応えた。


「このまま……死なせて……もう誰かに使われ……たくない……」


 瞬間、身体中から力が抜けた。


 もういい。

 これ以上頑張りたくない。

 異世界に転生出来たって、世界を救う為に誰かにコキ使われるなら、今と変わらないじゃないか。

 力があろうとなかろうと、選択の余地なくそれを使わなきゃならないなんて……もうしたくない。

 そもそも、何かする為の気力がもうない。


 もう、何もしたくないんだ。


 これでいい。


 これでやっと、


 全てのしがらみから、解放されるんだから。


 唯一、轢く事になってしまった運転手さんにだけ、申し訳なく思う。


 その人が、どうか罪に問われませんように……


 それだけを思い──

 

 やっと、深い眠りにつく事が出来た。




 END

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異世界転生しても社畜は安らぎを得たい 牧野 麻也 @kayazou

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