第5話 勘違い
「もういい、そのスマホをよこせ!!」
俺は、死神からスマホを取り上げ写真とつぶやきを消した。その後、死神が返して欲しそうな目でこっちを見て来たので、仕方なくスマホを返してやった。今更だが、死神もスマホ使うんだな。
「これから、どうするの?」
「そうだな。とにかく、山を越えて隣町に行こうと思ってる。ところで、この洞窟の先は隣町かどこかに通じてるのか?」
「通じてるよー」
「よし、この洞窟を抜けて隣町まで行くとしよう」
俺が、そう言って洞窟の先まで歩みかけた時だ。死神が一言付け加えた。
「死の世界に」
「おい、それを先に言え!!危うく、死の世界に直行するところだっただろ」
「君は生きることを選択するんだね」
「当たり前だ。俺は、別に死にたかねーよ」
「分かったよー。じゃあ、洞窟を出て、町の交番まで行くと生きられるよ」
「交番まで、行かそうとするんじゃねーよ。洞窟を出るだけでいいんだな」
「イエス」
「そうか。なら、ささっと、この洞窟から出るぜ」
こいつとも、これでおさらばだ。
俺は暗闇の中を歩いて、洞窟の外まで出た。曇り空ではあるが、雨は降り止んでいた。雨の中を駆け抜けていくのは大変だと思っていたのだ。雨が止んでくれてほんとに良かった。
山の坂道を下っている途中、盗んだ宝石をもう一度見ようと、辺りに人がいないことを確認して箱の中から取り出した。
宝石は、ダイヤモンド。自然界で最も堅い宝石。とても美しい。
と、宝石の美しさに見とれて歩いていると、雨で濡れた地面に足を滑らせ転んでしまった。その拍子に手に持っていた宝石が地面に落ちて、粉々に砕けた。
ダイヤモンドがこんなに簡単に砕けるはずがない。どういうことだ、これは。まさか、あの死神、偽物とすり替えたんじゃ。そうにちがいない。
俺は急いで死神のいる洞窟まで行ったのだが、洞窟はすでになくなっていた。あいつ、やっぱり死神だったのか。てか、俺の盗んだ宝石回収できないじゃないか。
俺は、落ち込みながら山の坂道を下り町に出た。すると、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。一瞬、俺を探し回っているのかと思ったが、どうやら、そうではなさそうだった。
サイレンの音は、俺が盗みに入った宝石店の方から聞こえてきた。気になって、宝石店の近くまで行くと、店の周りには何台かパトカーが止まっていて複数の警察官が立っていた。
これは一体、どういうことなんだ。これじゃあまるで店が何か不祥事を起こしたみたいじゃないか。
しばらくすると、店の扉が開き、店主が手錠をかけられた状態で出てきて、パトカーに乗せられると、どこかに行ってしまった。思わず、俺は立っている警察官に話しかけた。
「あのー、これは一体何の騒ぎですか?」
警察官は、持っていた書類に目を通しながら言った。
「ああ、これかい。どうやら、ここの店で偽物の宝石を売り出してたらしくって、数億円もの被害が出たんだそうだ。それで、店主を捕まえに来たんだよ」
「そうなんですか。ええー」
俺は、偽物の宝石を盗んでいたのか。死神が偽物にすり替えられた訳ではなかったんだな。
「てっ、君、その格好、強盗犯じゃないのか!!」
警察官は、俺の服装を見て驚いた様子で言った。
あっ!?しまった。服装が強盗に入った時のままだった。
「ち、違いますよ!!」
俺は両手を振りながら、あわてて、否定した。
「じゃあ、何だというんだ?」
「仮装パーティーに行こうと思って......」
「そんな訳ないだろ!!署まで行ってもらおうか」
「ですよね」
俺は、警察官に連れられ、パトカーに乗った。パトカーの背もたれに持たれるとため息をついた。
はぁ~、これからひとの物盗むのやめよ。死神も、勝手にひとのもの盗まない方がいいと思うぜ。
「う、う~。おじさんのポテチ、賞味期限三年以上過ぎてた。お、お腹が痛い。死にそう」
死神さんと誰かさん 東雲一 @sharpen12
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