第3話 Go!ではなく…現実モード

僕は使命を得た。自由への探求者として、これからの人生丸ごと賭けて、

心の弱さを受け入れ、認め、己の抱く数多くの不安・不満へ立ち向かい、希望を見つけるという使命を!


この使命に心震えながら、僕は満員電車に揺られている。脳内では勇ましい冒険譚が始まっているが、現実は通勤中なのである。


少し、現実モードの話をしよう。


僕、北地燈は現実世界では普通に公務員として働いている。両親が公務員なのもあって、流されはしたものの、かなりの努力の末にこの職へつけたのである。

しかし、社会は噂通り厳しかった。試験前の取って付けた姿勢ではとても対応しきれない。その厳しさを常に傷に塩を塗り込まれるように痛く思い知った。その他にも様々な壁を感じた。公務員は民間企業とは異なり、ノルマは課されない代わりに、税金泥棒と日々周りから愚痴られ、上司からも嫌味ったらしく愚痴られる始末…。ほとんど僕が悪いのだけれども、そうは分かっていても余裕のない時に中々心の整理は難しい。

あとは、残業も厳しかった。それはもう、朝自宅に帰り10分後には家を出ることなんて日常茶飯事。

それでも元々遺伝的にもメンタルが最弱すぎる僕が、辛く死ぬほど嫌でも「これが僕の天職だ!」と己を叱咤し出勤し続けたんだ。いつか観た歴史番組のピラミッド建設のため岩を運び積みあげていく奴隷たちのように、辛くとも逆らわずにいた。

そんなことを意地のみで3ヶ月間粘り、予想通り限界はきた。

何の前触れもなく突発的に意識喪失する症状が出始めた。ドラマなどで倒れるシーンは見るが、直前まで立っていた自分が気付いたら横になっていて、時間が10分過ぎていた時の恐怖は言葉では形容できない。まさに無。息はしていたのか、心臓は動いていたのか、寝落ちするのとは訳が違う。もはや、全てが理解不能なんだ。3回目の症状が出た時にあまりの恐怖に、すぐさま検査をした。脳、肺、心臓、血液、病院を幾度も変え何度も何度も検査した。遂に預金が底をつきかけ、最後はこれまで目を背けてきた精神科医へ行った。そしてあっさり精神病という結果を突きつけられたのだ。正直、この結果は受け入れがたいものだったし、周りへ伝えることの劣等感が半端ではなかった。


けど、僕は意外と根気強く頑張っていたらしい。親や友人から「この軟弱者が!」と罵倒されると思いきや、世間的にもかなりの過酷な勤務状況だったらしく、周りは優しくしてくれた。

けど、その優しさは僕にとって決して心地いいものではなかった。優しくされる度に、僕が精神病患者である現実がダイレクトに心へ刻まれ、焼き付けられ、思い知らされて、自己嫌悪の泥濘へ沈み込まれる感じだった。

僕の心が2度目の限界を迎えてしまった時、本能的な自我保護機能からか、ブチリっと僕の中にあった我慢の糸が偉く派手に勢いよく弾けとんだ。


これが、自我のビックバンの現実モードでの姿と経緯だ。


リアルな話というのは、大体決まって面白くないものである。僕の場合も然り。

でも、これがきっかけで僕の人格はかなりポジティブ方面へ進行中だ。正直、あそこで我慢の糸が切れていなかったら、僕は自殺をしていたかもしれない。

今のご時世、こういったことでの自殺はよくある話だ。実際僕の同級生も働き出して1年経っていないけど、既に3人亡くなっている。亡くなった同級生のご両親を見ていると、本当に自殺をしなくて良かったと心から思う。闘病中の祖父が、護ってくれたのだろう。


倒れてから1ヶ月間お休みを貰った。みんなが働いている中、部活をサボった時の劣等感に似たものを少し抱きつつ、ひたする寝た。


そして、今は会社こそ同じだが、もう少し業務量の少ない部署へ配属され、それなりに元気に働かせもらっている。


3年目突入時に、その会社を辞めるという条件付きではあるが。


俺が本当に自らでする人生の決断まで猶予は1年半だ。


力はない、業がない。弱いことは知っている。何もかもが欠落している。組織の後ろ盾が無ければ、今は武器がない。けど、やってやろうじゃないか。


だって俺は、「オレンジ」なんだから!

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僕の爆走物語 橙奏多 @jazzu

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