最期之剣 「ソラの果てに」


 今から10年前ーー。


 イマリ村で、ソラは落ちこぼれていました。周りに打ち解けられず、何より誰よりも要領が悪かったのです。いつも、人目を避けて、森の中に入って、一人ただ空を眺めるのが日課になっていました。


 俺の名前はソラ。この目の前に公然と澄み渡る空とは似ても似つかない。きっと、両親は、俺の名前をつけ間違えたな、こりゃ。


「また、こんなところにいる。村のみんなのところにいかないの?」


 ソラが、空をぼんやり見つめていると、女性の声が聞こえきます。


「ポアルか。ポアルこそ、みんなのところへいかないのか。俺よりもみんなといる方が楽しいだろ」


「私だって、一人になりたい時もあるのよ。あなた、みたいにね」


「俺も一人でいたいんだよ。どうせ、戻ったって、誰も相手にしてくれないよ。だって俺、友達ゼロだもん」


「そんなことないわよ。たぶん......」


「急に、自信なくなったな。まあ、それが事実だから、当然の反応ではあるな」


「とにかく、友達がいないと思ってるなら、なおさら、戻った方がいいと思うよ。避けてるだけじゃ、できるもんもできないじゃない。それに......友達がゼロじゃないよ。私は、あなたの友達だと思ってる。違う?」


 ポアルが、少し頬を赤らめながら、恥ずかしそうにソラに向かって言う。


 か、かわいいな。ポアルのそういうところが。いや、何でもない。


 ソラも、顔を少し赤らめて、自分の気持ちをごまかすように、ぎこちない口調で答えます。


「あっ、あれだ。えーと、うん、ポアル、お前は俺の幼なじみだ」


「なにそれ、あくまで友達とは言わないのね。幼なじみということは、友達ということでいい?」


「か、勝手に解釈してくれていいよ!!」


「じゃあ、友達ってことでいいわね、私たち」


 ポアルは、笑顔でそういうので、ソラは自分の目から、こぼれ落ちそうになり、ポアルから顔を隠しながら呟く。


「ありがとう」


「えっ、何か言った?」


「いや、何でもないよ」


「ほんとに?」


「何でもないって言ってるだろ!!」


「ありがとうって言ってたでしょ」


「聞こえてたのかよ!!」


「うれしい」


「お、おう?!」


 困惑するソラ。完全にポアルに心を射ぬかれたようです。この時、ソラの中で、ある気持ちが高まる鼓動とともに強まっていました。


 大切な人を守れるようなカッコいい勇者になりたいーー。どうしようもなく不器用で、ろくに剣も使えない俺だけど、いつか、必ずなってやる。


 ソラに、この時、初めて、夢ができました。だけど、現実は、そんなにうまくはいきません。そもそも、剣の使い方すら知らないソラが勇者になれる確率は......この段階ではゼロに限りなく近かったのです。ことごとく、現実は、ソラの夢を否定してきます。


「ずっとあいつ一人だよな」


「ああ、学力も剣術も才能感じだしななんか、落ちこぼれ感ぱねーよ。あいつ。縦線入って、影が入ってきそうな雰囲気醸し出してる」


「いこうぜ。なんか、つまんねーよ。あいつ」


 そんな声を聞きながら、うつむきながら、家に帰ると、部屋の中で、ソラは、床に座り壁に寄りかかると死んだ魚のような目で窓から見える、夜空の月を眺めていました。


 やっぱり、俺にはムリなのかな、勇者になるなんて。俺には、とうてい越えることができない高すぎる壁なんだ。きっと。


「ソラ、夕食できたわよ。下りてきなさい」


 ソラが、考え事をしていると下にいる母親の声が聞こえてきます。どうやら、ソラ家?の夕食タイムのようです。一瞬で、アットホームな雰囲気になりましたね。


「えっ?!ちょっと待って。今、取り込み中」


 くそー。今、こんな落ち込んでる時に、飯なんか食べられるかよ。


「はやくしないと、夕食冷めるわよ!!」


「分かったよ!!今から行くから」


 慌てて、扉を開けると、階段をかけおります。


 俺の人生という階段も、この階段みたく下に続いているんだろうよ。

 ......。

 何、心の中で呟いてるんだろ。俺。そろそろ精神的に病んできてるな、これは。


 それから、しばらくしてソラは、テラと出会います。

 ソラがいつものように、森の中で一人黙々と、剣の素振りをしている様子をテラが目撃します。


 なんだ、あいつ。何であんなところで素振りやってんだ。変わってるな。

 いや、待て。あいつの足、体から魔力。将来性がない訳じゃないな。磨けば、とてつもない原石になるんじゃ。

それに、あの目。あの頃の、俺の目に似ている。


「よう、何してるんだ?」


 テラは、素振りを続けるソラに話しかけます。突然、話しかけられ、驚くソラ。ですが、剣を構え警戒しています。


「誰だ。知らない顔だな」


 へぇー、警戒するんだ。素振りに使っていた剣をもう、構えている。かなり慎重なタイプだな。だけど、、、

見事に隙しかないな。どこからでも、攻められそうだ。


「待てって、そんなに警戒しなくてもいいだろ。ちょっと気になって声をかけただけだ。魔物のように襲いかかったりはしない。いつも、こんなふうに素振りやってるのか?」


「えっ、まあ、そうだけど。それがどうしたんだよ」


 確かに、剣を打ち出すフォームはかなり、きれいだ。練習してきたことは分かる。だが、こいつ、分かってやってるのか。


「念のため、確認だけど、何のために、その素振り練習をやってるんだ?」


「それは、剣のパワーを上げたくて。攻撃力重視の勇者になりたいんだ。攻撃さえ当てれば、魔物だって一撃で倒せるだろ」


 だめだ。こいつ。自分の適性すら分かっていない。完全に方向性を間違えてるな。


「当てられればの話な、それ。素直に魔物がお前の攻撃をあたってくれるはずないだろ。相当間抜けでない限りはな。それに、先に、魔物から攻撃された場合、どうする。守る術も持たない状態では、すぐにやられてしまうのは、目に見えてる」


 テラが、冷静に落ち着いた様子で、ソラに説明する。ソラは、説明を聞きおわると、握りしめた右拳を左の手の平に叩きつける。


「あー、なるほど!!」


 意外とものわかりがいいな。こいつ。本当に理解してるかはさておき。


「第一、たぶんお前の適性は攻撃よりかはスピードだと思うぜ。足の筋肉、そして、光属性の魔力。どれをみても、スピード向けの素質しか見当たらない」


「スピード向けなのか。俺は。だけど、攻撃型の方がかっこいいんだよな」


 かっこいいんだよなだと。かっこ良さで、選んでるんじゃねーよ。


「そうとも限らないさ。そこの木を揺らして、葉を落としてみろ。できるだけ多くだ」


「こんな感じ」


 ソラは、テラの言われるままに木を揺らす。すると、葉が、たくさんひらりひらりと、落ちる。一つ、二つ、三つ、もう数えきれません。


 ''光''


 テラは、葉が落ち始めると同時に、凄まじい速さで駆け抜け、腰に下げていた剣を使って、葉を一つ残らず、しかも、地面に落ちる前に真っ二つにしてしまいます。あり得ない速さです。


 あ、しまった。速く動き過ぎた。これでは何が起こったのか、分からない。


「すごい。光の魔力が全身を覆ったと思うと、すごいスピードで駆け抜けて、葉を一つずつ剣で切り裂いてた。かっこいいよ」


 こいつ、あのスピードですべて動きを捉えていた。普通、捉えることはおろか、何が起こったのか分からない速さだぞ。やはり、こいつ、磨けば恐ろしい奴になるかもしれない。


 テラは、底知れない興奮を覚え、一瞬、口角を上げ笑うと言った。


「よし。俺が剣術を教えてやるよ」


「ほんとに!!いいのか」


「ああ。この時間にこの場所で教えよう」


「やったー!!師匠的な人が見つかった」


「お前の名前は、なんて言うんだ」


「俺はソラ。そういう、あなたは?」


「俺はテラだ。よろしく」


 こうして、二人は出会い、ソラはテラに剣術を教えてもらうことになります。

 三年後、テラは剣術を教える中で、ソラの急激な成長を垣間見ます。今まで、テラはソラの剣をよけ、攻撃を与えられることはありませんでした。ですが、三年ほどたったある日。


「こい、ソラ!!」


「うおおお!!!」


 いつものように、ソラが叫びながらテラに攻撃を加えようとした時です。


 ''光''


 ソラの全身にかつてないほどの量の光の魔力が集まり覆い被さったと思うと、テラはソラの姿を見失います。


「はっ!?」


 そしてーー気づいた時には、左腕の服に、きれいに切れた後が残っていました。


 ついに、ソラ。ゼロの構えをマスターしたか。末恐ろしい奴だ。


「やったー!!初めて、テラに攻撃があたった。今夜は、テラ、一緒にどこかに祝いとして飲みに行かないか?」


 テラは、ソラの成長を祝いたい気持ちがあったが、今夜の予定を思いだし、真剣な顔つきになると言う。


「すまない。今夜は用事があるんでな。飲みにはいけない。また今度な」


 テラの返答にソラは残念そうな顔をして言います。


「そうか。なら、仕方ないな」


 すまない、ソラ。本当にすまない。


 テラは、内心でそう思いながら、ソラと離れ、日がくれ、周りが闇に包まれた頃、テラは再び、人目を避けるように森の中に入ります。


「いるんだろ。話しがあるなら、ささっと出てこい」


「さすが、テラさん。分かってたんだね」


 エトランゼが、木の影から降りてきて、微笑みを浮かべながらテラの元に近づく。


「例の計画なことか。それなら、分かっている」


「さすがテラさん、察しがいいですね。二年後、村の勇者を決める聖剣のお祭りで計画を予定通り実行するよ。随分、あの、なんだっけ、ソラという奴に肩入れしてるじゃないか。まさか、情がわいて、計画を実行しないなんてことはないよね」


 エトランゼが、そう言った直後、テラは、エトランゼの喉元に剣を近づけ、殺気の満ちた形相で、エトランゼが言います。


「そんなことは一切ない。この計画は、魔王が決めたことだ。絶対に遂行する。そのためなら、例え、ソラであろうと厭わないつもりだ」


「ひゅー、かっこいい。さすがテラさん。迷いがない。てっきり、ためらっているんじゃないかと思ってました。その様子じゃ心配はいらなそうですね。じゃあ、帰りまーす。特にこれ以上、あなたと話すことないんでー」


 つれない奴だ。言いたいこと言って帰るとは。

 俺は、俺の気持ちが分からない。俺は、これから、どうすべきなんだ。魔王か、ソラか。どちらも大事な存在だ。だけど、どちらかを犠牲にしなければならない。


 エトランゼには、迷いのない素振りを見せていたテラ。ですが、内心では、とても揺らぎ、自分の本心が分からないでいました。


 そして、二年後。イマリ村は、恐怖と絶望の声に包まれることになるのです。

 村の勇者を決める聖剣引っこ抜き大会が開催された日でした。村の一世一代のイベントで、多くの人々の賑わいを見せていたところが一転、魔族たちというか魔王ご本人の登場により、カオスな状態に。

 その魔王が勇者が持つべき剣を手に入れ、さらに混乱する。大会の優勝者が、魔王になるとは誰も予想しませんでした。

 もとから、ラスボス的に強い魔王が聖剣を手にし、とてつもない力を手にいれ、ソラも敗れてしまい、妖精の森に吹き飛ばされてしまいました。



 そして、そのさらに5年後ーー。



 再び、ソラとテラは出会い、二人の決着がつこうとしています。


 テラが、少しずつ身動きのとれなくなったソラに近づきます。周りには、巨大なドラゴンたちが鋭い目付きで、牙をのぞかせながら、今にも襲いかかりそうなほどの威圧感を放っています。


「テラさん。ついに、やるんですね」


 エトランゼは、テラを眺めながら、言った。


「ああ。ソラは、俺がやる。お前は、邪魔が入らないようにしていろ」


「はーい」


 ''火''


 エトランゼッは指を鳴らすと、周りから、猛烈な勢いで炎が燃え盛り、何者も寄せ付けない強靭な壁を作り出します。


「テラ、俺を殺すのか?」


「ああ」


 テラは顔色一つ変えず一言そう答えると、ソラの目の前で足を止めた。


「そうか。もう俺たちはあの時みたいに楽しくやることはできないんだな」


 ソラは、悲しそうなまなざしをテラに向けている。身動きが取れず、衰退しきったソラはもはやテラの攻撃を回避するほどの余力すら失っています。


「もとから、俺たちはつながってなんかいなかったんだ。見せかけだけで、真につながっていなかった。それが、今、露見したというだけの話。こうやって激突し終焉を迎える運命だったんだ」


 テラは持っていた剣を天にかざすように高く振り上げる。


 なんでだよ。俺は信じてたのにーー。どうして。


 テラが、剣を振り上げ、ソラの胸の辺りに突き刺そうとする最中、ソラはとめどなくあふれて、全身に染み渡っていく悲しみの気持ちに襲われます。


 そして、テラによって振り下げられた剣先が、ソラの胸の辺りに優しく突き刺さる。

 

「うっ!?」


 胸に剣が突き刺さった強烈な痛みに、思わず声を出すソラ。次第に、視界がかすみ、意識が朦朧としていく。瞼も力を失いに、ゆっくりと閉じようとしています。


 だめだ。視界が、思考が。今度ばかりはほんとにやばい。俺はここで死ぬのか。


 ソラは、テラの顔を恐る恐る見ます。一体、自分を剣で突き刺したテラが最後、どんな表情を浮かべているのか気になったからです。

 テラは、真剣な表情でソラを眺めています。ソラの耳元まで顔をよせると、小さな声で呟きます。



「俺は●●●●●●。●●●●●」



 なんでしょうか。●がいっぱいでテラが何をいっているのかさっぱり分からない。聞き取れたのは、「俺は」の部分だけです。

 ですが、ソラは、テラの言葉を全て聞いていたらしく、一瞬驚いた後、安堵の表情を浮かべます。

  

 そういうことか。


 勢いよく胸で鼓動していた心臓が、動かなくなる。体の力が抜け、ソラは瞳を閉じたまま動かない。

 ソラは生命活動を停止します。

 まさかの展開です。物語の主人公が殺されて終わるなんて。まだ、魔王も、聖剣回収もまだの状態ですが。ほんとに、これで終わってしまうのか。まだ、ソラが生きている希望はあります。


「ドラゴ。こいつを食らっていいぞ」


 ドラゴとは、三匹いるドラゴンのうちの一匹のことを指しているようです。そのドラゴが、テラの言葉を聞き、ものすごい勢いで駆け出し、大きな口を開けると、ソラの死体を丸のみしてしまいます。

 あ、もう希望はないかもしれません。だって、ドラゴンに食べられ、無事なはずがありません。


 これで、ソラという主人公を失い、この物語は終焉を迎えるのでしょう。


 お疲れ様でした。


 今まで読んで下さった読者のかた、本当にありがとうございます。


 魔王ノ聖剣 (完)




 これで、これで、この物語はもうーー。


 いや、まだです。まだ、この物語は、終わる訳にはいかない!!このままでは納得がいかない!!


 ※※※※※※


 イマリ村の西部。市場が栄えるサイカ村で、一人の少年が歩いている。何かを観察するように、ゆっくりと歩数を調整しながら歩いています。


 もう少しだ。俺の考えが正しければ、あと少しで来る。必ず来る。


 少年は、真剣に、周囲を注意深く見ながら、誰かが来るのを待っています。市場ということもあり、店の人たちの呼び込みの声や、買い物客の世間話でにぎわった様子です。いかにも、市場という雰囲気を醸し出していますね。


 いつも通りだ。朝のこの時間は、市場の店が一斉に開き、買い物客で市場は、にぎわう。これだけ多くの人がいれば、キサダから絶好の隠れ蓑になる。それに、キサダは、店の品に釘付けだ。キサダのような女性は思わず、店の品を見てしまう。これで、キサダからの監視は、ある程度回避できる。

 おっと、そろそろ、時間だ。


 頭の中で、色々と思考する少年。少年は、どうやら、キサダという女性と一緒にこの市場に来ているようです。

 少年が、腕に装着した時計を見ながら、秒針を眺めています。


 あと三秒、二秒、一秒。

 予定通りなら、この時間に来るはずだけど。


 そんなことを考えていると、三人の女性が少年の真向かいから歩いて来るのが見えます。少年の狙いはこの三人。一体、何を企んでいるのでしょうか。


 やっぱり、予定通りこの時間に来た。いつも、決まった時間に来ていたから、今日も来ると思っていた。特に、複数人の場合、どこかで決まった時間に集まり、行動する。だから、それほど、行動時間にズレがあまり生じない。

 そして......彼女たちは、学校に向かっていて通学路が決まっている。ちょうど俺と彼女たちの間。学校に通じる階段を上るはず。

 いける!!このペースで歩けばいける!!


 彼女たちは、楽しげに喋りながら、少年の思惑通りに階段をゆっくり上り始めた。少年は、ごく自然に、歩いています。


 彼女たちが上から五段目の階段に足を置いたところで実行に移そう。その時が、最も、あれがしっかり見える高さのはず。今まで、あれを見たことはないが、ちょうど階段の真下から、覗けば必ず見れるにちがいない。


 少年の言うあれとはなんなのか。彼女たちがスカートが履いていることからして、なんとなく想像がつきますが、だとしたら、この少年は恐ろしくくだらないことをやろうとしているのではないでしょうか。


 普通の奴なら、階段の真下に立ち止まり観察する、もしくは、階段を上がりながら、眺める。だが、それではリスクが高すぎる。これほど、多くの人がいるなかで、そんなことをやれば、何を言われるか分からない。それに、そんなところを見られたらキサダに殺される。階段を上がった場合も同様に、なぜ階段を上るのかキサダに怪しまれる。階段の登った先は、学校ぐらいしかなく、キサダなら、俺の目的を察するはず。


 少年は、彼女たちを見ず平然と市場を歩く歩行者を演じる。頭の中で、彼女たちが今、何段まで登っているのかを、数えながら歩数を調整しています。


 もう少しだ!!もう少しで、上から、五段目のベストスポットに足をのせる!!あと、三段、二段......。


 タイミングは完璧でした。階段の真下にきた時に、彼女たちは、上から五段目の階段(少年の言うベストスポット)に足をのせています。ですが、そこで思わぬ邪魔が入ります。


「カズト。このお店の奴、面白そうだぞ」


 少年、いや、カズトが彼女たちの方を振り向こうとした直前、市場で店を見ていたキサダが話しかけてきたのです。


 くそー、これは想定外だ。このままでは、計画が全て台無しになってしまう。ダメなのか。諦めるしかないのか。

 だめだ。ネガティブに考えるな。むしろ、この逆境を生かす方法がないか考えるんだ。


 飛行船。


 カズトの中に、なぜか、この単語が浮かび上がり、電撃が走ります。


 これだ。この手があった。


 カズトは、彼女たちが歩いている方向に広がる空をとっさに指差した。


「あ、あそこに、飛行船が浮いてる」


 実は、市場の催しに、合わせて、空には飛行船が飛んでいます。飛行船に、キサダの注意を向かしつつ、カズトは、階段を上がる、彼女たちの方を見ます。とてつもない執念です。一体、どれだけ見たいんだ、この少年は。


 やった、やったぞ!!これであれを見られる......あれっ!?あれじゃない。もしかして、あれはあれじゃないのか。体操着......。これじゃあ、見れなくないか。


 カズトは、驚きのあまり、頭の中であれを連発しています。何が言いたいのか分かりにくいですが、混乱しているのだけは分かります。


「カズト、飛行船なんか見えないぞ?どこにあるんだ」


 キサダが、空を眺め遊覧船を探しながら言います。


「ほんとだな。見えないな。ほんと。どこに行ったんだろ。さっきまで浮いてたのに消えちゃった」


 カズトは、階段を上りきり、離れていく彼女たちの姿を見ながら思った。


 もう、こんなことはやめよう。俺がバカだった。


 カズトとキサダは、二人で市場を歩いたこの日の翌日ーーサイカ村の隣にあるイマリ村は魔族の襲撃にあい、多くの被害が出ます。そして、その魔族たちの魔の手がサイカ村まで届くのにそれほど、時間はかかりませんでした。


 (魔王ノ聖剣=に続く)


 


 


 





 


 

 

 




 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王ノ聖剣 東雲一 @sharpen12

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ