完敗。

ツイッターを眺めていると時々目に入るヴァルアリス様の文字。少し騒がしいなと思い騒いでいる奴のプロフィールを覗いてみればどうやら書籍化が決まったらしいが、私が一方的にフォローしている作家陣は次々と書籍化を決めており(書籍化も今やなんの看板にもならないな……)などと思いながら鼻で笑う。しかし作品を見ずに貶すことは私の流儀に反するので、まず1話目に手を掛ける。言ってしまえばありきたりな魔界描写だが、魔法などにギャグチックなルビを振ることで読者に作品のスタンスを理解させるのはまあまあな手腕である。だが、書籍化するにはいささか押しが弱いのではないか……。と考えながら次の話を読む。気付くと私は3話を読んでいた。一度も思考を巡らせることも許されずに、3話へと進まされていたのだ。恐るべきはその軽快なテンポ。1話でキャラの格をしっかり上げたヴァルアリスが初の人界の料理に驚き格を地に叩きつけるその滑稽さは、マスクが無ければ私を電車の中で一人ニヤつく危険人物にしてしまうだけの威力を持っていた。だがそのギャグ描写もこの作品の魅力の内の一つに過ぎないのだ。メンチカツの熱さを処理し終えたところから始まる食事の描写。これこそがこの小説の核であり最強の矛。小難しい言葉をここぞとばかりに使う凡百の食レポなどとは比べものにならない丁寧かつ分かりやすい食感と味の深みの描写は大変読みやすく、その光景を脳裏に完璧に浮かび上がらせさも口の中にメンチカツがあるかと錯覚させる。夕飯を食べる前でなかったとしても誰もがメンチカツを食べたいと思う、そう確信できる素晴らしいものだった。作中の料理と同じように濃過ぎずしかし読者を掴んで離さないサクサクとした文体の妙に、とりあえず5話くらい読んでみるかと思っていた私はヴァルアリス様の如く手を止めることを忘れただひたすら貪るように画面をスクロールしていた。このレビューを書いているのも実は勢い余って最新話まで読み終わったあとである。長々と書いてしまったが、この作品は間違いない、いずれ天下を取るべき小説だ。