番外編 とある放課後の治療(ラブコメ)生活

 とある日の放課後、俺は一人部室で無駄な時間を過ごしていた。

「何もやる事がねぇな…」

 今日は茜は習い事、野村は家の用事、涼は何やら一学年下の美少女を見つけたから探しに行くだとかで部活に来ていない。しかしながら、茜と野村はともかく涼は部活を休む理由になっていないのに平然と休んでいるのが実に不愉快である。

「あら?今日は他の方々はお休みなんですの?」

「そうみたいだな、紗季」

 部室の扉を開けて入って来たのは、人気声優にして我らが青春研究部の部員の1人である東田紗季ひがしださきだ。

「では今日は部室に京真君と私だけと言う事で二人でゆっくりしましょうね」

「ゆっくりって言ってもな、何もする事がないのもつまらないだろ」

 俺がそう言うと、紗季は何かを思い出したかのように唐突に鞄から2つの箱と10枚の紙を取り出した。

「なら京真君、私と一緒にこれやりましょう」

「何だこれ?」

「これはですね…」

 紗季が説明を始めた。紗季の話を聞いた内容を簡単に要約するとこんな感じだ。


《ルール》

 ・まずお互いが5枚の紙と一つの箱を用意

 ・次にその5枚に相手に演じて欲しいシチュエーションを5つ書き、相手の箱に入れる。

 ・最後にじゃんけんをして負けた方が自分の箱からカードを1枚引き、それを演じる。


 とまぁ、こんな感じだ。どうやら紗季が次に出演するアニメで登場するゲームらしい。確かに、単純ながらも中々面白そうなゲームだ。特に紗季は声優なので演技は絶対上手い。

「面白そうだな、やってみるか」

「えぇ、是非!」

 俺がそう答えると紗季は満面の笑みを浮かべていた。そんなにゲームが好きなのか、紗季もまだまだ子供だな。

「では、この紙にシチュエーションを書いて下さい」

「シチュエーションって例えばどんなの書けばいいんだ?」

「そうですね…メイドさん、幼馴染とかみたいな役職とかでも良いですし、戦場で愛の告白みたいな状況でも何でも」

「なるほど…要は演技できるようなやつなら良いって事だな」

「はい、それで大丈夫です」

 10分後…

「書き終わったぞ」

「私も書き終わりましたわ」

 そして俺たちはお互いの箱に自分の書いたカードを入れる。

「じゃあ始めますわよ」

「「じゃんけーん」」

 結果は俺はグーで紗季がチョキ。

「よし!俺の勝ちだな!」

「まぁ負けてしまっては仕方ないですね…」

 じゃんけんに負けた紗季は、自身の箱からカードを1枚取り出す。

「ツンデレ関西弁系幼馴染…いきなり色々な要素を詰め込みましたね」

「ま、紗季なら演技出来そうだからな」

「わかりました、では…」

 そう言って紗季は一度深呼吸をすると、演技を始めた。

「べ、別にあんたのためやないんやからね!か、勘違いしたらあかんからね!」

「おぉ…いいね!」

 俺は思わず親指を立てる。だって結構グッと来たよ、これ。

「声優として演技するより、恥ずかしいですわ…これ」

紗季は結構顔を赤くしながらそう言う。その表情も中々に良い。


「よし、じゃあ2回目行くかな」

「えぇ、是非」

「「じゃんけーん」」

 結果は俺がパーで紗季がグーだ。またしても俺の勝ちである。

「また負けてしまいましたわ…」

「紗季はじゃんけん弱いのか?」

「京真君が強いだけですよー…」

 紗季は少し拗ねた表情で自身の箱からカードを取り出す。

「…」

「ん?どうした、何かあったか?」

 そう言いながら俺は少し笑みを浮かべた。紗季の表情を見るに恐らく、あのカードだったのだろう。普段の紗季では絶対に見れないようなやつを仕込んでおいたからな!

「京真君はこういうのがお好きで?」

「いや、これは恐らく世の中の男子の8割は好きだ」

「でもこれ…」

「あれー、人気声優の東田紗季さんがまさか出来ないのかな〜?」

 俺は少し煽ってみた。普段の紗季からイメージ出来ない役であるので動揺するのも無理もない。

「わかりました…まぁ、録音してないですし良いですよ?」

「これは?」

「何でもありません」

 紗季はにっこり笑ったまま何も言おうとはしなかった。少し怪しいけどまぁいいか。

「では紗季さんにやってもらおうか!ネコミミ後輩系メイド!」

「こほん…せ、先輩。後輩のネコミミメイドだにゃん!今日は先輩のお世話をしちゃうにゃ〜…」

「…グッジョブ!」

 今度は超良い発音をしながら親指を立てる。しかし、ここで終わらしてしまうのは勿体無いので俺はこの演技に対して返答してみた。

「メイドさーん、オムライスください!」

「えっ、そういった振りってありなんですか?」

 紗季は驚いた表情でこちらを見た。確かに、振りがありとは言ってないな。だが駄目とも言っていないのだ!

「そりゃあ、こんな珍しいもの見る機会もないし。紗季の演技をもっと見たいからな」

「私の…演技を…?」

 紗季の顔が少し緩んでいた。きっと演技を見たいと言われて嬉しいのだろう、役者だし。

「も、もうしょうがないですね、やってあげますわ!」

「おう、じゃあよろしく頼むわ」

 紗季は再び深呼吸をすると、意を決して演技を始める。

「せーんぱい!オムライスをお持ちしましたよー。では、美味しくなる魔法をかけますにゃん!」

「お、おう」

 案外ノリノリな紗季に少し驚きながらも、俺はありもしない机の上のオムライスを眺めるように机を見る。

「いきますよー、先輩。おいしくなーれ、萌え萌えキュン!だにゃ!」

「お前の演技力は最早神の領域だな…」

 実際何も置いてないはずの机なのに、確かにそこにオムライスが見える。これが声優の演技力というものか…!

 俺が演技力におののいていると、冷静になったのか紗季が教室の隅でうずくまっていた。

「うぅ…やり過ぎました…いくらなんでも恥ずかしい…」

 また顔を真っ赤にしている。こんな紗季が見れるのは実に珍しい。


 それから俺たちはこの後も数回ほどやり様々な演技をした。俺の箱の中に入っていたのはよぼよぼのお爺ちゃんがカンフーをしているシーンとか、ネガティブな魔王など中々にハードな内容に加えて、先程の仕返しとばかりに紗季の無茶振りがあって大変ではあったが中々に楽しかった。

「中々面白いな、これ」

「ですよね!私も楽しいです」

 気がつくと時刻はもう6時を回る頃だった。この学校の下校時間は6時15分なので、恐らく次が最後だろう。

「じゃあ次で最後な」

「えぇ、わかりました」

「「じゃんけーん」」

 結果は俺がチョキで紗季がグーだ。

「ヤバっ、負けた」

「私の勝ちです」

 負けた俺は、自分の箱から残り3枚となったカードのうち1枚を取り出す。

「なんだ、これ?」

 俺の引いたカードには「愛の告白」とのみだけ書いてあった。

「これはどうすりゃ良いんだ?」

「そうですね…では、私に告白してみて下さい!恋愛したい京真君には良い予行練習かと」

「確かにな…ま、最後だしやってみるか」

「キュンと来る台詞を期待してますね」

「さらりとハードル上げたな…」

 俺は苦笑いしながらも考える。なんせ生まれてこのかた告白なんてした事ないから演技とはいえ初めての告白なのだ。

 5分ほど悩んだ末、俺は言う事を決めた。

「よし、思いついたぞ」

「では、お願いしますね」


 俺は一度深呼吸をして息を整えた。


「紗季…俺は、世界中の誰よりもお前を愛している。そして必ずお前を幸せにしてやる。だから…俺と付き合ってくれ」

「…はい、喜んで」

 紗季は涙目になりながら満面の笑みを浮かべて俺の告白に返してくれた。流石は声優、俺のこんな拙い告白でも涙目になりながら演技できるとは。

「というか、これ…今日の中で一番恥ずかしいだけど」

「はい、書いときながら言われた私もです」

 2人で顔を真っ赤にしながら、笑いあった。しかしお互い緊張しているのか、沈黙が流れる。この沈黙は中々にヤバい。


「キーンコーンカーンコーン、まもなく下校の時間です。教室に残っている生徒は速やかに下校の準備をして下さい」

 下校の放送が流れる。この状況にはとてもありがたかった。今日ほど下校の放送に感謝したことはないくらいだ。

「じゃ、じゃあ俺はさ、先に帰るから!」

「あ、はい…また明日」

「あぁ、また明日」

 そして俺は部室を後にした。



 彼が帰宅した後、彼女は少し教室で黄昏ながら胸ポケットにしまっていたあるものを取り出す。

「流石に最後のやつは恥ずかしかったです、まぁでも…」

 彼女は胸ポケットから取り出したある機械のボタンを押す。すると、とある音声が流れた。


「紗季…俺は、世界中の誰よりもお前を愛している。そして必ずお前を幸せにしてやる。だから、俺と付き合ってくれ」


そう、先程彼が話した台詞だ。彼女は再びそれを聞くと笑みを浮かべながら


「今度は演技じゃなくて、ちゃんと貴方の心から言わせてみせますにゃ…なんてね」

 そう呟くと、彼女はそれを再び胸ポケットにしまい教室を後にした。

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俺の治療(ラブコメ)生活は命懸け 光田光 @km0523s

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