第10話 体育祭のジンクス ~練習編~

練習1日目

「よーし、じゃあ早速練習しようか」

 学校の校庭にて京真たち2年3組の生徒数名は2週間後に迫った体育祭の練習を行っていた。この高校も他の高校の例に漏れず、授業で全体の通し練習や組体操、放課後に競技種目の練習をすることになっている。ちなみに今日は最初にクラス対抗男女混合リレーの全体の通し練習を行った後、各自自主練となる。

 2年3組は今日の方針として、リレーの走順を決めるために自主練で少し走ったら解散ということになった。紗季と話し合い俺たちはその後1時間ほど二人三脚の練習をしたら帰るという予定だ。

「詳しく決めるのは後でいいんだけどさ、走順大体どんな感じにする?」

 涼が全員に確認を取るように話しかけた。正直、何も考えていないので特に案が出ない。

「まぁ妥当に行くなら1番足が速いやつが最後だな」

 それでも俺はとりあえず当たり障りのない回答をする。

「そうなると瞬か京真だな」

 希沢瞬きさわしゅん。俺たち二年三組のメンバーで、陸上部のエースだ。彼は勉強も運動も出来て顔も中上位には食い込むほどの超人だ。しかしながら、彼にはその全てを覆すほどの重大な欠点がある。それは…

「我を呼ぶ声を聞きつけ次元の狭間より召喚された。汝我の力を欲するというのか?ふっ、ならば授けよう、貴様らに理をも覆す我の力をな!」

「お、おう…」

 そう、彼は厨二病なのだ。しかも彼の場合人並み以上のことが出来る分ネタにすることも出来ないタチの悪い厨二病なのだ。ま、何が言いたいのかは大体想像出来るような言葉をセレクトしてくれているのが唯一の救いだ。

「ねぇ京真、今のは一体何を言っていたの?」

「あ、そっか。茜は去年違うクラスだからあいつの事知らないもんな」

 どうやら茜には理解が出来なかったらしく俺に尋ねてきた。まぁ、確かに初心者ではこれは理解できない。文法や語法が定まっていない分、英語や古文より余裕で難しい。俺自身理解するのにおおよそ九ヶ月を費やしたほどだ。なので俺は、茜に解説してやることにした。

「つまりだな、リレーの選手に選ばれたから陸上部でエースの俺の力を貸すって感じだ」

「へぇ〜、よくわからないわね、もっとストレートに言えばいいのに」

 かなり丁寧に教えてあげたのに、茜はあっさりと切り捨てた。こいつ…

というか、茜みたいな典型的なツンデレキャラに、物事をストレートに言えとか絶対言われたくないと思います。

俺がそんな事を考えていると再び瞬が話し始めた。

「我の力を貸すことはやぶさかではない、しかしながら我を終幕に持って行くのは頂けない、観客どもが我の邪気に当てられ暴走しかねない、なので我は早々に闇に帰するため始まりを所望する」

「あ、そう…了解」

「貴様、我の扱い冷たくないか?ふっ、まぁいいだろう。我は孤高の存在であるが故にいつも孤独である。今更大したことはない。かつての大戦の際と比べてみれば…」

何やら1人で語り始めたのでもう放っておく事にした。我我うるさくてしょうがない。

「じゃあ瞬が最初でアンカーが京真で決まりな」

「問題ありませんわ」

「まっ、いいんじゃない?別に」

「いいよー」

「我の名の下に承認しよう」

全員が納得したため決定となった。まぁ、

(俺賛成とか言ってないのに決定してるのは何故?俺が走るのに?)

とか思う所はあるが別に構わない。俺が一位で走りきるのが目的なので、むしろアンカーなら1番目立って好都合だ。

「それでは全体練習を行うので選手の皆さんは校庭の中央に集まってください」

体育教師が集合をかけたので、俺たちも校庭の中央に集まった。

「これから入場の仕方の練習をした後、少し走ってから退場までの流れを行います」

体育教師が入場と退場の仕方の説明を始めた。別に変わった演出もないので気にする必要はない。

「えっと、最期にこの練習で1年生から3年生までのどこか一クラスに走ってもらってプログラム順選んでもらうからなー」

「「「は?」」」

「はーい、じゃあ位置についてー」

生徒達が騒めく中、そんな事は知らんと言う顔で教師は進める。

「よーい、どん!」

全員が動揺していたため走ってる人間なんてロクにいない。そう思ったのだが…

「我は相手の心を読む能力を持つ!このくらい容易い!」

唯一当たり前のように走っていたのはウチのクラスの奴だった。変態超人希沢瞬さん、流石だわ…


結果

1年生 1番 (プログラム決め競争最下位)

2年生 3番 (希沢瞬の独断)

3年生 2番 (3年生の総意)

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