第9話 体育祭のジンクス ~決戦前夜~
「体育祭の夜、光の中で踊る男女は永遠に結ばれる」
私立桜大学附属高等学校に古くから伝わるジンクスだ。ジンクスというものは曖昧で不確かである。しかしながら人間というものはそのような偶然に意味をつけたがる、それがあたかも必然の出来事であるかのように…
~体育祭2週間前~
5月1日
「ではこれから、体育祭の出場競技を決めたいと思います」
2年3組の委員長が黒板の前に立って指揮をとっている。もう委員長の発言だけでわかると思うがHR《ホームルーム》の時間を使って、俺たちは2週間後に迫った体育祭の参加競技を決めていた。
例年なら我関せずと本を読んでいた俺だが今回は違う。ラブコメ病という頭のおかしな病気を治すためにこのイベントは外せない。それに、この間佐々木に言われたことも気になるしな…。
この間、俺は佐々木にこう言われた。
「体育祭の種目、出れる限りの種目は全て出た上で絶対に1位を取れ。そしたらお前の悩みの手助けになる」
全くもって意味がわからないが、佐々木の言うことならとりあえず信じてみる価値はあるだろう。それに、全種目じゃなくても元々出る競技は出来る限り1位を取って目立つのは俺も考えていたからな。
「佐々木くーん、体育祭の競技について教えてくれるかな」
「おっけー、体育祭実行委員の俺に任しとけ!」
委員長に呼ばれた佐々木は早速黒板の前に立って今回の競技種目を書き始めた。今回の種目はこんな感じだ。
〈競技種目〉
・100m走…男女全員参加
・クラス対抗男女混合リレー…男女計6名
・男女混合二人三脚…2組
・借り人競争…男子1名 女子3名
・玉入れ…男女問わず15名
体育祭で一般的な競技が多く、特殊なのは借り人競争だろう。まぁ何となく内容は察することが出来る。
この中ならば、俺はクラス対抗リレーと二人三脚あたりに出ておけば問題ないだろう。この二種目はラブコメとは切っても切れないほど重要な競技である。そして、今回この2つの競技は俺の作戦にもぴったしなんだ。今回の作戦を聞きたいか、聞きたいよな、いいぞ聞かせてやる!その名も…
〈作戦〉リレーで注目、二人三脚でドキドキ作戦!
意味がわからない?では説明してやろう。
今回の作戦の最大の特徴は個人とラブコメできる上に学校でも注目されると言うことだ。皆も知っていると思うが、リレーは体育祭の華。学校全体がその一瞬一瞬で盛り上がったり落ち込んだりするほどに皆熱くなる。そこで1位を取れば確実に俺を皆の心に印象づけられる。確かに体育祭の噂なんて75日どころか1ヶ月で無くなるのが普通だが、問題はそこじゃない。とにかく一時的にでも俺を印象づけらことこそが重要なのだ。そうすればその後関わりが深くなった時にまた思い出すことが出来る。
次に二人三脚でドキドキ作戦。これは学校全体に対してはあまり効果はないが個人に対しては絶大な効果がある。二人三脚の醍醐味はその練習期間にあり、最初は息が合わなくても紆余曲折を経て息も揃い始めた頃新たな感情が芽生えるとかそんな感じだ。だから俺は今回この2つをメインに体育祭に出るつもりだ。借り人競争とかよくわからないものには絶対に出ない。そう思っていたんだが…
「体育祭実行委員の俺から1つ言わなきゃいけないことがありまーす!」
と涼は薄笑いを浮かべながらこちらを一瞥すると、とんでもないことを言い放った。
「えーっと、この間京真が絶対に全部一位取るから全競技出させてくれって頼んできたんだけど皆どう思うよ」
「「さんせーい(クラス一同)」」」
「じゃ、とりあえずそれは決まりでその他決めてくか」
「おいおいおいおい、ちょっと待てー!!」
そう叫ぶと俺は教卓の前に立っている涼に詰め寄る。
「何してんだ涼!俺そんな事言ってないというか、全部出るなんて無理に決まってるだろ!」
「大丈夫、京真ならいけるぜ」
「いけねーよ、アホか!」
本当に不味い事になった。俺の中の計画ではリレーと二人三脚に出て決めるつもりだったのに。
俺が1人頭を悩ませていると、涼が再び俺に話しかけた。
「大丈夫だ、この間手助けするって言ったろ」
涼はそう言うとまた種目決めの進行を始めた。
(ま、涼がそう言うなら一応信じる価値はあるかな)
決まってしまったのをひっくり返すのは困難だと悟った俺は、諦めて全種目出るにした。アピールするチャンスが増えたと思えば、そう悪いものでもない。
そんなこんなでその後は多少の議論はあったものの割とスムーズに決まっていった、ある競技を除いて。その除かれた競技は勿論、二人三脚だ。どうやら我が校の体育祭の二人三脚は男女でペアをやらなければいけない。思春期の高校生にとってはそう簡単に決められることではないだろう。まぁ俺は出る事が決まってるんだけどね。
しかしながら未だ俺しか決まっていない現状はとてもマズい。というのも二人三脚は二人で三本の脚なのだ。だから一人の場合は一人二脚、つまりはただ立ってるだけ。しかも周りが男女ペアの中1人とか拷問でしかない。というか、早く決めて欲しい。先程から微かに聞こえてくるリア充会話がすごく腹立たしい。
聞きたいか?聞いたいよな、よし、特別に聞かせてやろう。
男A「お前二人三脚出てみたら?」
女A「えっ、ど、どうしようかな…そ、その、A君は出ないの…?」
男A「お、俺?俺は…その…き、君が出るならべ、別に出ても良いけど…」
女A「えっ、それって…」
男A「か、勘違いすんなよ!べ、別にお前とは他のやつと比べて仲が良いからと思っただけで深い意味はないぞ!」
女A「そ、そうだよね!わ、私も別に…」
(俺は命賭けてそれやろうとしてんのになんで別の場所でそんな展開起こってるんだよ、とかそもそも男Aって誰だし、あと男のツンデレなんて需要ねーよ)
こういった感想が俺の脳裏を渦巻いていた。
しかしながら、この会話を俺同様聞き逃さず有効活用した奴がいた。
「ねぇねぇお二人さん、仲良さそうだし2人で出場してみると良いんじゃないかな。思い出にもなるし、それに2人が出るなら私も出てみようかな」
男A君と女Aさんは女Hさんの話を聞くと、決意を決めたらしく立候補した。
ついでに俺の相手は女Hさんに決定。もちろんHさんって言ったらあの人しかいないよね。
「じゃあ京真のペアは東田さんで決定な」
佐々木がそう言うと満場一致で話し合いは終了した。
なんか教室の前の方から凄い形相で俺を睨んでる幼馴染様がいらっしゃるがとりあえず無視しておき…。
いよいよ、明日から体育祭までの2週間練習開始だ!
あ、あとうちの部の人みんな出てるらしい。
決定稿
クラス対抗男女混合リレー…野村、伊月、東田、佐々木、
・男女混合二人三脚…第1ペア 黛 東田
第2ペア
・借り人競争…男子 黛 女子 野村、伊月、東田
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